■かぜ症候群は、臨床症状からいくつかのグループ(病型)に分けていくことができます。医療機関の外来でも、「かぜでしょう」と診断される時と、「咽頭炎でしょう」と病型で診断される場合があります。これは全く別の病気ではなく、同じ状態でも別の病名で表現できるのです。そこで、両者の関係を整理してみましょう。 ■気道の構造:気道とは、鼻口にはじまり、鼻腔・咽頭、喉頭を経て、気管・気管支・肺へとつながる管状の構造物。鼻腔から喉頭までを上気道、気管から肺までを下気道と呼ぶこともあります。かぜ症候群は、この気道の炎症ですので、炎症の主体となる部分の名前から、鼻炎、咽頭炎、喉頭炎、気管支炎、肺炎という様に病名をつける場合もあります。また、咽頭炎と喉頭炎を合わせて咽喉頭炎、上気道炎と呼ぶこともあります。 1)普通感冒:いわゆる鼻かぜです。鼻の奥の違和感や乾燥感に続いて、くしゃみ・鼻水・鼻づまりが見られます。喉の痛みが見られることもありますが、その程度は軽く、咳もわずかです。全身症状としての発熱・頭痛・だるさなどは、ほとんどないかあっても軽いのが普通です。呼吸器のうち上気道特に鼻の粘膜が最も強くおかされるかぜです。主にライノウイルス・コロナウイルスなどが原因でおこります。 2)咽頭炎:炎症の主体が咽頭にあるため、鼻汁・咳などに比べて喉の痛み(咽頭痛)が強いのが特徴です。頭痛や種々の程度の発熱も見られます。このタイプの代表例として、コクサッキーA群ウイルスの飛沫感染により夏〜初秋に10歳以下の小児に多発するヘルパンギーナがあります。 |
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3)インフルエンザ:鼻汁・咳などの呼吸器症状に比べて、発熱・筋肉痛・関節痛・全身倦怠感などの全身症状が高度に早くから出現します。重篤な合併症の頻度が高いのも特徴の一つです。もちろん主としてインフルエンザウイルスが原因でおこります。別のところで詳しく触れます。 4)咽頭結膜熱:代表的な夏かぜの一つで、熱・咽頭炎・結膜炎の3つを特徴とすることからこの名前が付けられています。プールを介して流行する事があり、プール熱という別名を持ちます。アデノウイルスが原因です。 5)クループ症候群:声を出すところ(喉頭といいます。右図をご参照下さい)の付近が炎症を起こしてはれる状態で、犬が遠吠えするときのような独特の咳がでます。声がかすれ、ひどくなると息を吸うときにぜーぜーと音がするようになり、呼吸困難、チアノーゼなども見られるようになります。 6)気管支炎:炎症が下気道の気管支に及んだ状態です。鼻汁・咳・咽頭痛などのいわゆるかぜ症状に続いて、次第に咳が激しくなり、咳と共に痰もでてくるようになります。喘息症状や呼吸困難が見られることもあります。 7)肺炎:特にかぜ症状のなかで、咳が激しく痰も多く、更にチアノーゼ、胸痛、高熱などが加わり、胸部の聴打診で、ラッセル音などが聴取され、白血球が増加し、胸部レントゲン写真で肺炎の影が認められます。軽いうちは外来通院でもでも治療できますが、入院加療が必要となることも少なくありません。乳幼児や高齢者では、死亡原因ともなります。 8)異型肺炎:激しい咳や熱などの肺炎を疑わす症状があるのに、胸部の聴打診所見に乏しく、白血球も増加していない。しかし、胸部レントゲン写真を撮ると肺炎の所見を認めるものを従来の肺炎とは違うものということで、異型肺炎と分類します。マイコプラズマやクラミジア、ウイルスなどが原因です。 |
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ここで注意していただきたいのは、上で上げたかぜ症候群の病型と原因との関係は、1つの病型が1つのウイルスで起こる1対1の対応ではないということです。インフルエンザは、インフルエンザウイルスにより起こることが多いのですが、パラインフルエンザウイルスやアデノウイルスなどでも臨床的にはインフルエンザと診断される病状(そのためインフルエンザ様疾患という表現が使われます)を呈する事もありますし、逆に、インフルエンザウイルスに感染しても普通感冒の様な軽い症状で終わってしまうケースもあります。ヘルパンギーナとコクサッキーウイルス、咽頭結膜熱とアデノウイルスなどの1対1の対応は例外的なものと言うことができます |