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■鉄欠乏性貧血とは:生体内でヘモグロビンの合成に不可欠な鉄が欠乏し、ヘモグロビンがの合成が十分に行われないために生する貧血で、日常最も多く見られる貧血です。私達の体は鉄を作り出すことは出来ませんので食物から補給することが必要です。成人男性で毎日約1mgの鉄が失われます。一方、通常摂取された鉄はその約10%が吸収されますので、1日約10mgの鉄を摂取しなければいけません。成人女性の場合には月経による出血で1日平均2mg、さらに妊娠中の女性は1日平均で3mgの鉄が必要となり、それぞれ1日20mg、30mgの鉄を摂取しないと鉄の不足状態となります。鉄の不足分は体に蓄えられている貯蔵鉄(通常約1000mg)から供給されますが、貯蔵鉄が枯渇すると鉄欠乏性貧血が現れてきます。 |
参考:女性が月経のために失う血液量は月平均で45ml、一方1mlの出血で失われる鉄は0.5mgですので、毎月20mg以上の鉄分が失われます。また、1回の妊娠で必要とされる鉄の量は出産時の出血、胎児への鉄の補給などのため1000mgと言われています。 |
■原因:性別・年齢・環境などにより種々の要因が関与します。
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■症状:動悸・息切れ・易疲労感・全身倦怠感・浮腫・立ちくらみ・顔面蒼白などの貧血の一般的な兆候の他に爪がスプーン状になったり、希に口内炎、舌炎、嚥下障害(Plummer−vinson症候群)などが見られることもあります。貧血が徐々に進むことが多いため、ヘモグロビンが6〜7g/dl位まで減少していても、体が順応して明らかな貧血症状が見られないこともあります。 |
■診断 ・Hb<12g/dl、MCV<80、MCH<27 ・血清鉄↓、総鉄結合能↑、血清フェリチン↓ |
■治療:原因に対する対応と鉄の補給を行います。具体的な治療の内容は、ここに書いてある内容と違うケースもあるかと思います。ここでは、あくまで私が一般的と思うことを書いております。疑問がある場合には、主治医の先生にご相談下さい。 |
■鉄欠乏性貧血は不足している鉄を補給する事で、大部分のケースで簡単に貧血は治癒します。しかし、鉄が欠乏するに至った原因を治療しない限り高率に再発しますので、原因検索とその治療が非常に大切です。特に60〜65歳以上の高齢者の鉄欠乏性貧血では、約60%が消化管悪性腫瘍などの悪性疾患によると報告されていますので、注意が必要です。 |
■鉄剤の服用と同時に食事療法を併用することは大切な事ですが、食事療法だけでは足りなくなった鉄を補充するには到底不十分です。鉄剤は通常50〜200mgを服用しますが、鉄分が最も多い事で有名なレバーでも1食分(50g)の鉄の含有量はわずか6.5mgにすぎません。 |
■一般に鉄欠乏性貧血と診断され鉄剤を服用した場合、平均0.1〜0.2g/dl/日のペースでヘモグロビンが増加し、約1〜2ヶ月でヘモグロビンは正常化します。しかしその時点ではまだ貯蔵鉄は十分に補充されていませんので、さらに鉄剤を服用する事が大切です。貧血の程度・鉄欠乏の原因により違いはありますが、半年〜1年かかることが普通です。貯蔵鉄の状態を把握するためには、血清フェリチン値を測定を行います。フェリチンの値が20ng/dl以上あれば貯蔵鉄が十分量まで補充されたと判断し、鉄剤投与を中止しますが、貯蔵鉄を十分回復させても、鉄の喪失の原因が続いている場合は再発しますので、半年〜1年後には一度フェリチンを含めた血液検査で、チェックしましょう。 |
■鉄剤の服用にあたっては、空腹時の投与が吸収の点では優れています(食後又は食事中の投与では空腹時投与の60%の吸収率となります)が、鉄剤には、胃腸障害(吐き気・嘔吐・下痢・便秘・心窩部痛など)という副作用が伴いやすいので、それを避けるために食直後または食事中の服用をすすめることが普通です。
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■主な鉄剤(内服)
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■非経口的補充:鉄剤の服用で、消化器症状の副作用が顕著なとき、内服剤では鉄の吸収が十分でないときなどには、鉄を静脈注射で補給する事もあります。この場合投与された鉄は体内に蓄積されますので、あらかじめ鉄の必要量を計算し、過剰投与にならないように注意します。また静注用鉄剤では、アナフィラキシーショック・発熱・関節痛などの副作用報告がありますので、慎重に行う必要があります。なお、経口剤と非経口剤でのヘモグロビンの増加率はほぼ同じと言われています。 |
■参考:必要鉄量(mg)={2.7×(16−ヘモグロビン)+17}×体重 (中尾の式) この式で計算される量よりも少ない量で十分という報告も見られています。 |