■高脂血症とは血中のコレステロールや中性脂肪が高い状態を言います。どの成分が高いかによってT型からX型に分類され、治療法も違います。ここでは、主にコレステロールについて触れてみます。
■コレステロールとは:実は、コレステロールは私たちの体に約60兆個あると言われている細胞の壁の材料であると同時に、人間の体にとってなくてはならない種々のホルモンの材料なのです。また、コレステロールは血中を常に移動していますが、水には溶けませんので、脂質と蛋白が一緒になった可溶性のリポ蛋白という形で存在しています。このリポ蛋白を超遠心法により分離しますと、カイロミクロン、超低比重リポ蛋白(VLDL)、低比重リポ蛋白(LDL)、高比重リポ蛋白(HDL)に分かれます。カイロミクロンとVLDLが中性脂肪、LDLが、LDLコレステロール、HDLがHDLコレステロールに相当します。実際には別の方法で測られていますが、名前の由来はここにあるのです。このコレステロールの約20%は食物に由来するもの、約80%は主に肝臓で合成されたものです。食物に由来するコレステロールも一旦は肝臓に集められ貯蔵されますので、肝臓はコレステロールの合成基地であると同時に貯蔵基地でもあります。よく善玉、悪玉と言う言葉を耳にしますが、LDLコレステロールは、肝臓から組織に運ばれるコレステロー
ルで血管壁などに沈着しますので、悪玉コレステロール、HDLコレステロールは逆に細胞から回収されて肝臓へ移動するコレステロールですので、善玉コレステロールと呼ばれます。総コレステロールはこの悪玉と善玉を合計したものですから、コレステロールを問題にする場合、総コレステロールではなく、悪玉コレステロールと善玉コレステロールに分けて考えなければいけません。同じ総コレステロール値でも善玉と悪玉の割合が同じとは限らないからです。
表1 |
(動脈硬化危険因子) 危険因子ありに該当する場合 |
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加齢・性別 男性:45歳以上、女性:閉経後 |
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冠動脈疾患の家族歴 あり |
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喫煙習慣 あり |
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高血圧 140 and/or 90以上 |
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肥満 BMI>26.4 |
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耐糖能異常 境界型または糖尿病型 |
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■コレステロールが多いとどうなるの?:体にとって不可欠のコレステロールも、血液中の悪玉コレステロールが多い状態が長年にわたって続くと、動脈の内壁に少しずつ沈着し、次第に血管壁が厚くなり弾力がなくなっていきます。この状態が動脈硬化です。動脈硬化が進むと血管内腔がせまくなり、最終的には血管が詰まってしまいます。血管は組織に酸素や栄養素を運んでおりますので、血管が詰まるとその血管で養われていた組織は死んでしまいます。その代表的な疾患が虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)や脳梗塞です。動脈硬化にはコレステロール以外にも危険因子(表1)が知られており、これらの危険因子が重なると加速度的にその危険度はあがっていきます。そこで、今回発表された日本動脈硬化学会による新しい高脂血症診療ガイドラインでは、冠動脈疾患の有無、動脈硬化危険因子の有無により治療適用基準に差が設けられました。これは、WOSスタディなどの大規模臨床試験の結果を踏まえ、科学的な立証に基づき検討されたことによります。また今回注目すべき点は総コレステロールよりもLDLコレステロ
ール(※)が指標として重視されたことです。
※LDLコレステロールの求め方(LDLの計算)
LDLコレステロール=総コレステロール−HDLコレステロール−中性脂肪×0.2です(但し中性脂肪<400)
例えば、総=コレステロール=250、中性脂肪=150、HDLコレステロール=40の時
LDLコレステロール=250−40−150×0.2=180 となります。 |
■高コレステロール血症の治療適応基準:高脂血症の治療の基本は生活習慣の見直し、食事療法、薬物療法ですが、その基準は次の様になっています。
高コレステロール血症の治療適応基準 |
@冠動脈疾患の合併がなく、高コレステロール血症以外の動脈硬化危険因子がない場合 |
まず生活指導、食事療法を行います。少なくとも数ヶ月間、食事療法を励行しても、LDLコレステロール≧160(血清総コレステロール値240以上)の症例では薬物療法の適応となります。 |
A冠動脈疾患の合併はないが高コレステロール血症以外の動脈硬化危険因子(表1)がある場合 |
LDLコレステロール≧140(血清総コレステロール値が220以上)の時は薬物療法の適応となります。 |
Bすでに冠動脈疾患を発生している場合 |
食事療法後でもLDLコレステロール≧120(総コレステロール≧200以上)の時には薬物療法を開始。治療目標はLDLコレステロールが100以下(総コレステロールが180以下です。) |
■低HDLコレステロール血症の基準値:一方、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)は、40mg/dl未満の場合、冠動脈硬化の危険因子と考えられていますので、40未満の場合は、低HDLコレステロール血症と診断され、治療の対象となります。
■治療について:最後に治療について触れてみます。まず、生活習慣の見直しと食事療法についてですが、食事療法のポイントは以下の5点に注意しましょう。
食事療法のポイント |
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@カロリーを制限して標準体重を! |
A動物性脂肪より植物性脂肪を多く! |
Bコレステロールの多い食品は避けましょう! |
C食物繊維をたくさん食べましょう! |
D糖分やアルコールはひかえめに! |
■薬物療法について:現在高脂血症の治療に使われている薬は非常に効果があります。しかし、いくら効果のある薬でも薬をやめると元に戻ってしまいます。コレステロールが高いのを薬でコントロールしているだけですので、風邪の様に短期間で治ってしまうわけではありません。食事療法により、お薬の量を減らしたり、やめたりできる場合もありますが、自己判断で勝手にやめてはいけません。定期的に検査をして、やめても大丈夫かどうかを確認しながら、コントロールすることが大切です。
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