土川内科小児科ニュース  3月号  No.38 
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  今月のテーマ:麻疹

 今年のインフルエンザは比較的流行の波が小さく、どうやら無事終息したようですが、場合によってはインフルエンザ以上に恐い麻疹(はしか)が2月上旬から大玉村で小学校を中心として発生し、下旬には本宮町でも数人の患者さんが報告されております。そこで今月は急遽予定を変更して、麻疹を取り上げることにしました。
 まずはじめに麻疹について解説してみたいと思います。麻疹は発熱・発疹・咳を主症状とする急性の感染症で、39〜40度の高熱が続く重い病気です。主な特徴は次の様になっています。
病原体:麻疹ウイルスが原因です。
潜伏期:10〜12日です。
感染様式:飛沫感染(くしゃみや咳などでウイルスが飛び散ってうつります)です。感染力が最も強いのは、発疹が出る前のカタル期(後述)です。以前は春から夏にかけて多く見られましたが、最近は年間を通じて発生しています。予防接種を受けていれば、通常発病しません。また、万が一発病しても非常に軽症ですみます。予防接種を受けていない子が麻疹の子と接触した場合、3〜4日以内にガンマグロブリンの注射をうければ発病を防ぐ(または軽症化する)ことができますが、γグロブリンは非常に高価で、血液製剤ですので、その使用については、賛否両論があります。
症状:臨床経過により、カタル期、発疹期、回復期に分けられます。
  • カタル期:はじめ熱・咳・鼻水・目やになど通常の風邪と同じ症状(カタル)が出ます。この時期には麻疹と診断する事はできず、インフルエンザの季節には、インフルエンザと診断されることもあります。4日目位に一度熱が下がり、頬粘膜にコプリック斑と呼ばれる白い斑点が出現します。
  • 発疹期:その後半日から1日後に高熱とともに発疹が出ます。発疹は、顔からはじまり全身へと広がっていきます。ほぼ円形の紅い斑点(5ミリくらい)で、一部は癒合しますが健康皮膚面を残し、かゆみはありません。
  • 回復期:約5日くらいで発疹は消えてきますが、褐色の色素沈着が残ります。発熱は発疹出現後3〜4日持続し、通常7〜9日の経過で回復します。
罹患年齢:乳児期後半から幼児期に多くみられます。しかし、最近では予防接種の普及により流行の規模が小さくなったため、免疫を持たない者も罹患の機会が減り、高校生以上になってから罹患することもまれではありません。
診断:発疹がでる前に口の中にコプリック班(紅い絨毯に塩をまぶしたようなと表現されます)が出ます。これが見つかれば麻疹と診断できますが、発疹が出てからは症状からも診断はあまり難しくありません。逆にそれまでは診断が確定せず、感染が広がりやすいため、注意が必要です。
合併症:中耳炎、肺炎、脳炎などが合併症として知られています。その頻度は、患者100人中、中耳炎は7〜9人、肺炎は1〜6人に合併します。脳炎は2000〜3000人に1人の割合で発生がみられます。また、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という慢性に経過する脳炎は約10万例に1例発生します。また麻しん(はしか)にかかった人10000人に1人の割合で死亡します。わが国では現在でも年間約50人の子がはしかで命を落としています。
治療:麻疹もウイルス疾患ですので、基本的には対症療法(症状に応じてお薬を使う)が中心となります。合併症の恐れがあるときには抗生物質を使います。重症の場合や重篤な合併症の恐れがある場合は、入院が必要になります。  
予防方法:定期予防接種(生ワクチン)が極めて有効です(予防接種については、コラム欄をご覧下さい)。自然罹患がなく予防接種も受けていない者は年齢にかかわらず注意を要します。今回、ある小学校の2年生では、予防接種をまだ受けていないお子さんの6人中5人が麻疹に罹患しました。麻疹の伝染力の強さと予防接種の効果を見て取ることができます。
登校基準:発疹に伴う発熱が解熱した後3日を経過するまで出席停止となります。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではありません。(なお合併症の中で最も警戒すべき脳炎は、解熱した後再び高熱をもって発病することがあります。)
家庭での看護のポイント:熱が続きますので熱さましを上手に使ってあげてください。また高熱により食欲も落ちますので、水分を中心に消化の良いもの、口当たりの良いものを中心にあげてください。肺炎・脳炎などの合併症の疑いのある時は入院が必要になりますので、様子をよく観察し心配なときにはお薬が残っていても再受診してください。
今回の流行を見て:今回の麻疹の流行で、まず感じたことは、どうしてこんなに予防接種を受けていないお子さんが多いのだろうと言うことでした。予防接種を受ける事に反対をしているこども研究会という団体でも麻疹は受けておきましょうという立場をとっています。信念に基づいて受けなかった訳ではなく、恐らくついうっかり接種の機会を逃してしまったという方がほとんどでしょう。麻疹は罹患すると死亡することもある重い病気です。集団接種から個別接種に移行したことにより、接種の機会も増え、またかかりつけ医で受けられることになって、安全性も増した訳ですので、ご両親の責任として是非予防接種を受けさせてほしいと思います。
 また、今回の流行では、学校における集団発生に対する対応の大切さを痛感致しました。校長先生や養護の先生の熱心な対応により、次から次へと感染が広がる事が防げる訳です。保健だよりなどによる各家庭への情報提供、出席停止の確実な実行などに社会全体における危機管理の縮図を見ることができました。
麻疹の予防接種について
  • 1歳から2歳の間にかかる子が多くなっていますので、1歳になったら半年以内に受けるように努めましょう。遅くなった場合でも保育園、幼稚園などの集団生活に入るまでには、必ず受けておきましょう。
  • 1歳前に保育園に入園させる場合には、10ヶ月頃に麻しん(はしか)ワクチンを任意で受けることが勧められています。但し、料金は個人負担となります。また、その場合お母さんからの免疫の影響でつきが悪い子もありますので、定期接種と同じときに、もう一度受けなおす必要があります。
  • ガンマグロブリンの注射を受けたことのある人は3ヶ月から6ヶ月たってから麻しんの予防接種を受けて下さい。(ガンマグロブリンは、血液製剤の一種で、A型肝炎等の感染症の予防目的や重症の感染症の治療目的などで注射することがあります)
  • 副反応:このワクチンは弱毒生ワクチンで、ウイルスが増えるため、接種して1週間後から発熱や発しんなど、軽い麻しん(はしか)に似た症状が約20%の人に出ます。通常は1〜2日で消失します。またまれに熱性けいれんが起こります。またごくまれ(100万人に1人程度)に脳炎の発生も報告されています。
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