土川内科小児科ニュース  5月号  No.40 
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  今月のテーマ:肥満・肥満症

花粉症のシーズンも過ぎて、春らしい陽気になり、戸外で体を動かすのに最適の季節となりました。体のためにも、週に2〜3度は適度な運動をしましょう。ところで、最近度々指摘されていますが、生活が便利になり、コンビニなどの普及で、いつでも手軽にお弁当やスナックが買える社会となり、肥満の方の割合が増えてきています。そこで、今月は、生活習慣病の一つ、肥満・肥満症について考えてみたいと思います。
肥満とは:肥満とは体の中に脂肪が過剰に蓄積した状態を言います。肥満かどうかは体重の重さではなく、体内にしめる脂肪の割合で決まるのです。脂肪組織が占める割合を体脂肪率と言いますが、この体脂肪率が男性では25%以上、女性では30%以上を肥満と言います。
肥満は悪いことか:1983年のフラミンガム研究(有名な大規模疫学調査)で、肥満そのものが冠状動脈硬化症や心不全、脳卒中の危険因子となっていることが証明されています。さらに肥満には、糖尿病、高脂血症、高血圧症、高尿酸血症などが合併しやすいために動脈硬化症の危険因子が多数重なりあい、狭心症・心筋梗塞・脳梗塞などになる確率が高まります。
肥満の判定:肥満の判定には、体脂肪の測定が必要となりますが、現時点では正確、簡便かつ経済的な体脂肪測定法がありませんので、便宜的に標準体重に対する過剰体重の百分比(%)を肥満度として考える方法が使われています。
標準体重の決め方:標準体重の決め方には色々な方法がありますが、一般的には体格指数(BMI:body mass index=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))が使われます。肥満と疾病罹患率(病気にかかり易さ)に関する調査によると、BMIが22の時が肥満に伴う合併症(生活習慣病)が最も少ないことから、「身長(m)×身長(m)×22」で計算される体重が標準体重とされました。 
BMIによる肥満の判定:これまでは、この標準体重を20%以上越える場合(BMIが26.4以上)を肥満と判定しておりましたが、日本での多くの臨床データーから、BMIが25を越えると生活習慣病にかかるリスクがBMI22の2倍になることがわかり、昨年の日本肥満学会で、BMI25以上を肥満とする新しい判定基準に変更されました。例えば身長が160cmの人で64kg以上が肥満となります。
肥満の分類
  • 体脂肪の分布の差による分類T
    • 上半身肥満:主として腹部から上に脂肪がつくタイプで、W(ウエスト)/H(ヒップ)が0.8以上
    • 下半身肥満:主として腹部から下に脂肪がつくタイプで、W(ウエスト)/H(ヒップ)が0.8未満
  • 体脂肪の分布の差による分類U
    • 皮下脂肪型肥満:主として腹壁の皮下に脂肪が付くタイプ
    • 内臓脂肪型肥満:主として腹部内臓の周囲に脂肪が付くタイプ
  • 肥満の成因による分類
    • 本態性肥満:単純性肥満
    • 症候性肥満
      • 内分泌性:クッシング症候群、甲状腺機能低下症など
      • 視床下部性:フローリッヒ症候群
      • 遺伝性:ローレンスムーンビードル症候群など
      • 薬剤性:ステロイド剤、経口避妊薬など
肥満のタイプと合併症:肥満のタイプにより合併症の頻度が違い、上半身肥満では下半身肥満よりも合併症を伴いやすいこと、さらに上半身肥満では、皮下脂肪型肥満よりも内臓脂肪型肥満に高血圧・糖尿病・虚血性心疾患が多く見られることがわかってきました。
肥満と肥満症:肥満と判断された場合、糖尿病、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、脂肪肝など合併症の検査を行い、いずれかがあれば肥満症と診断します。ただし、肥満度が70%(BMIが37.4)以上であれば合併症がなくても肥満症と診断します。各疾患の診断については、今回は紙面の都合で省略致しますが、ごくごく簡単な基準は以下のようになります。
  • 糖尿病: 多尿、多飲、体重減少などの糖尿病症状かつ随時血糖値200mg/dl以上、または、空腹時血漿血糖値(FPG)126mg/dl以上(絶食時間は最低8時間)、または、75gOGTTの2時間血漿血糖値200mg/dl以上
  • 高血圧:収縮期圧140以上、または/および、拡張期圧90以上
  • 高脂血症:LDLコレステロール140以上(総コレステロール220以上)、または/および、中性脂肪150以上
  • 痛風・高尿酸血症:尿酸値8.0以上
  • 脂肪肝:GOT、GPT高値、および、腹部超音波検査で脂肪肝の所見
治療の基本方針:肥満の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法などがあります。薬物療法は重症の肥満(BMI35以上または、肥満度70%以上)の時に限り期限を限定して使用されるものですので、通常は食事療法と運動療法が主体となります。
 食事療法と運動療法の2つは、それぞれ個別に実施すべきものではなく、両者を同じに行うことが大切です。食事療法のみで減量した場合、脂肪と同時に筋肉などの組織も減少します。すると基礎代謝量が低下しますので、以前と同じカロリーを摂取しても、以前よりも相対的にカロリーオーバーとなり、逆に太ってしまいます。再び食事制限をすると再び脂肪と同時に筋肉も減ります。これを繰り返すと筋肉組織は減っていき、体脂肪がどんどん増えていってしまいます。この現象をウエイト・サイクリングと呼びます。
 各治療法の詳細は別の機会に詳しく触れたいと思いますが、短期間に極端な減量を計画しても長続きしません。適度の運動と適正なカロリーの規則正しい食事をよく噛んで食べる食生活を無理なく続ける事が、確実な減量への早道と言えるでしょう。
肥満に関するまめ知識
死の四重奏とは:肥満に糖尿病、高脂血症、高血圧が合併した状態を「死の四重奏」と呼んでいます。「肥満」「糖尿病」「高脂血症」「高血圧」などの生活習慣病は、お互いに関連しあいながら動脈硬化を促進し、ある日突然、死に結びつく重大な病気(心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など)を招くからです(1989年、Kaplan)。
シンドロームX:1988年、Reavenによって提唱された考え方で、インスリン抵抗性、高インスリン血症、耐糖能異常、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高血圧を合併する病態。
脂肪細胞から様々な活性物質が分泌:これまで脂肪細胞はエネルギーを蓄積したり放出したりする細胞としか考えれられておりませんでしたが、最近、脂肪細胞はかなり多様な機能を持っていて、血栓や動脈硬化の促進に関係するプラスミノーゲン活性化因子インヒビター1型(PIF−1)やインスリンの感受性を抑える組織破壊因子(TNF-α)などの分泌を介して、血管や臓器の代謝に影響を与え、動脈硬化性疾患の発症に関与している可能性が高いことがわかってきました。肥満をもたらす生活習慣(ライフスタイル)が生活習慣病を招くだけではなく、肥満自体が直接体に悪い影響を及ぼしていると考えられてきています。
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