土川内科小児科ニュース  12月号  No.47  もどる

  今月のテーマ:インフルエンザ

 早いもので今年もあと一月を残すのみとなりました。来年は21世紀と言うことで、今年の年末は特ににぎやかなものとなりそうです。年末になると毎年インフルエンザの話題を取り上げてきましたが、今年もいくつかの新しい話題とともにインフルエンザについてQ&A形式でご説明したいと思います。
インフルエンザって?  ライノウイルスやコロナウイルス等の感染によって起こる普通の風邪は、のどが痛む、鼻汁が出る、くしゃみや咳が出るなど症状が中心で発熱もあまり高くなく、重症化することはめったにありません。これに対しインフルエンザでは、39℃以上の発熱、頭痛、関節痛、筋肉痛など全身の症状が強いのが特徴で、気管支炎、肺炎などを続発し、重症化することも少なくありません。また、インフルエンザは流行が始まると、短期間に小児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むという点でも普通のかぜとは異なります。小児の脳炎・脳症や高齢者の肺炎などで死亡する方が毎年の様に報道されるのは、ご存じの通りです。
今年流行するインフルエンザは?  今シーズン(2000/2001年)流行するインフルエンザウイルスは世界的にA/香港(H3N2)型が主流と予測されています。もし、A/香港型が今シーズンも流行するとすれば4シーズン連続になります。今シーズン流行が予想される株と昨シーズン流行した株では、抗原性に多少の違いはありますが、同じA/香港型ということで、過去3シーズンのいずれかで罹患している方は、感染は受けにくく、罹患しても症状は軽いだろうと考えられています。しかし、子供や老人では抗体価が低いと言われておりますので、ワクチン接種などの十分な対策が必要です。
ワクチンは何回受ければいいの?  65歳以上の高齢者に対しては1回の接種でも十分効果があるとする研究結果が得られており、1回接種でよいと考えられます。13歳以上64歳以下の方でも、近年確実にインフルエンザに罹患していたり、昨年インフルエンザの予防接種を受けている方は、1回接種でも追加免疫の効果で十分な免疫が得られると考えられますが、この点に関しては国内での十分な調査研究はまだなされておりません。またインフルエンザウイルスの変異が大きくみられたような場合には、2回接種が必要となります。13歳未満では従来通り2回の接種が必要です。
ワクチンの値段がかなり違いますが?  ワクチンの接種は自由診療ですので、各医療機関が独自の価格を設定しております。初診料、注射手技料、指導料、事務費、ワクチン管理料、ワクチン代と普通に積み上げていくと大体5000円位になります。ところが5000を2回、家族みんなでと考えるととんでもない金額になってしまいます。安い価格を設定している医療機関は、地域の皆さまに、少しでも貢献したいということで、ほとんどワクチン代だけで価格を設定しているのです。質の悪いワクチンを使用しているわけではありませんのでご安心下さい。
インフルエンザにかかってしまったら?  これまではインフルエンザと普通の風邪を短時間で正確に区別する方法がなく、症状、経過などからインフルエンザの疑いが強いなどと診断しておりましたが、昨年から外来の簡単な検査で、インフルエンザと正確に診断する事ができるようになりました。一方、A型インフルエンザに対しては、塩酸アマンタジンという特効薬が使えるようになり、A型インフルエンザという診断が間違いない場合(検査で陽性)には、塩酸アマンタジンの効果は抜群で多くの場合、高熱や主要症状が急速に軽快します。今年はさらに、AにもBにも有効なノイラミニダーゼ阻害剤のリレンザが発売になりました(残念ながら保健適応ではなく、自費診療となってしまったようです)。インフルエンザの治療もこれまでの対症療法から、より積極的な根本療法の時代に入ったと言って良いでしょう。厚生省の今年発表したインフルエンザのスローガンが、「インフルエンザ。かかる前に予防。こじらす前に治療」。このスローガンはこのような時代の変化に対応して考えれたものだと思います。
インフルエンザに危険な熱さましって?  厚生省は11月15日付け発表した「インフルエンザの臨床経過中に発症した脳炎・脳症の重症化と解熱剤(ジクロフェナクナトリウム)の使用について」の中で、12年度の調査では、91例のインフルエンザ脳炎・脳症発症例について検討を行い、ジクロフェナクナトリウム使用群と他の解熱剤使用群とを比較した結果、使用群について昨年より高い有意性をもって死亡率が高い(他の解熱剤使用群38例中5例に対しジクロフェナクナトリウム使用群12例中7例)ことが示されました。明確な因果関係は認められないものの、インフルエンザ脳炎・脳症患者に対するジクロフェナクナトリウムの投与を禁忌とすることとしました。これに対して一部週刊誌などでは、インフルエンザに対して熱さましを使ってはいけないと報道するなど、いたずらに混乱を巻き起こす様な誤報道が見うけられました。元々小児に対してその使用が推奨されている熱さましは、アセトアミノフェンとイブプロフェンの2種類ですので、ジクロフェナクナトリウムは通常の外来ではあまり小児に対しては使われませんが、ご心配な時には、外来で直接ドクターにお聞きになることをお勧め致します。
 二十世紀に医療は、格段の進歩を遂げました。感染症はほぼ制圧され、ガンやアレルギー性疾患の治療も、遺伝子学的なアプローチにより、あと一歩の所までやってきております。病気の治療が進歩したことなどにより平均寿命が延びた一方、寝たきりや介護を受けながら余生を送る高齢者も増加しております。老化は人間も生き物である以上避けられない事です。人生最後の時まで輝いて暮らすためには、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病をいかに防ぐかがもっとも重要なポイントで。そのためには、私たち一人一人が望ましい生活習慣を心がけ、自己管理を責任を持って行う一方、定期的に健康診断を受け、病気の予防や早期発見に努める事が大切です。私たち医療関係者は少しでもそのお役に立てればと考えております。
 来るべき二十一世紀が皆様に取って輝かしい世界でありますよう、お祈り申し上げます。皆様、どうぞ良いお年を。
西太平洋地域ポリオ根絶 (2000年10月29日 朝日新聞)  WHOの委託を受けたポリオ根絶認定委員会は、京都市で開催中の認定会議で、日本を含む西太平洋地域(加盟36ヶ国)でポリオが根絶されたと認定した。WHOは委員会から根絶宣言書を受け取り宣言した。ポリオ根絶は、世界6地域のうち、88年アメリ カ地域に次ぐ快挙で、日本は根絶作戦にかかった経費73億6000万円のうち約1/3を負担するなど大きな貢献をした。
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