土川内科小児科ニュース   7月号  No.54  もどる

  今月のテーマ:風疹・伝染性紅斑

今月は感染症シリーズとして風疹と伝染性紅斑をメインテーマに選んでみました。風疹は、予防接種が普及した事により、日頃あまり診なくなりましたが、逆にこの疾患に対する関心が薄いためでしょうか、年々予防接種を受ける人の割合が減少し、将来的に流行が心配されています。
風疹とは 3〜5日で軽快する事から「3日ばしか」とも言われ、発熱と発疹、頚部リンパ節腫脹を特徴とする疾患です。潜伏期は14〜21日で、風疹ウイルスの気道からの飛沫感染により広がります。幼児期にかかることは比較的少なく、学童に多く見られます。一度かかると終生免疫を得られます(二度とかかりません)。
症状 軽い発熱とともに顔や首などに小さくて赤い発疹(風疹の発疹は麻疹と比べると薄く、発疹が消えた後の色素沈着もみられません)が出て、体から手足へと広がります。全身のリンパ腺が腫れますが、特に耳の後ろや後頭部、首のリンパ腺が大きく腫脹します。発疹が出ている時期に腫れたリンパ腺を押すと軽い痛みがあります。リンパ腺の腫脹が軽快するのに3〜6週要することもあります。発疹が出るのと発熱がみられる時期は通常、ほぼ同時ですが、発熱は一般に軽度で気づかれない事もあります。発疹を認めないものも約20%位あると言われています。
診断 典型的な症状が揃っている場合には、診断は容易ですが、溶連菌による発疹やあまり典型的でない伝染性紅斑、そのほかのウイルス性発疹症などでも風疹と同じ様な症状を示しますので、確定診断には血液中の抗体を調べる必要があります。
合併症 あまり頻度は高くなく、3000〜5000人に一人位に血小板減少性紫斑病、4000人に一人位に脳炎を合併することがありますが、いずれも1週間程で自然に軽快することが多く、あまり心配しなくても大丈夫です。大人では、肘や膝関節の発赤腫脹、手指のこわばりや痛みを訴えることがあります。
治療 安静を心がけるくらいで、特に必要ないことがほとんどです。合併症がみられた場合には、入院治療が必要となることもあります。
登校基準 発疹のでる数日前から発疹がすっかり消えるまでウイルスが排泄されますので、風疹と診断された場合には、発疹が完全に消えるまでは保育園などの集団生活はお休みさせて下さい。
予防接種 風疹の予防接種には、風疹にかからない様にする事と同時に、成人女性への風疹感染を防止することによって、先天性風疹症候群の発生を予防する目的があります。以前は、中学2、3年の女子のみが風疹の予防接種の対象でしたが、現在は風疹の予防をよりいっそう徹底するために、生後12ヶ月から90ヶ月(推奨年齢は12ヶ月から36ヶ月)の男女が対象となっています。しかし、平成6年に予防接種法が改正され、これまでの義務接種から推奨接種へと移行したことに伴って、予防接種を受ける人の割合が減少し、平成13年2月の二本松市の調査によると、3歳児検診の時点での風疹の予防接種を受けた割合は、59.6%と低く(麻疹は、80.5%)、この年齢の子供たちが成人してからの事が心配されます。
先天性風疹症候群 子供にとっては軽い病気ですが、お母さんが妊娠中(特に妊娠三ヶ月まで)にかかると胎児に先天性風疹症候群という色々な障害(未熟児、白内障、心疾患、難聴など)を高率に起こします。妊婦が風疹に感染して胎児に影響が出る確率は、妊娠1カ月以内で約5割、3カ月以内で約2割と言われています。
トピックス 風疹が最近ではあまりみられなくなったことから、幼児期に受けた予防接種の効果が次第に弱くなって行くために高校生位になってクラスで集団発生することが心配されています。風疹に対する免疫のある人が風疹ウイルスに接触すると免疫の力で風疹を発症することなしに風疹に対する免疫力が強化される(ブースター効果と言います)のですが、風疹の発生が少なくなることで接触のチャンスが減少する事がその主な理由としてあげられております。そのため、風疹の予防接種を幼児期と中学生後半の2回実施することが検討されています。
ウイルス性発疹症について 体に発疹が出るとすぐに麻疹や風疹を思い浮かべる方が多い様ですが、麻疹や風疹はその経過や病状に特徴があるために名前が付いて有名になりました。しかし麻疹や風疹と同じように症状の一つとして「発疹」が出るウイルス性疾患(風邪症候群)にはたくさんの種類があり、これらの疾患はまとめて「ウイルス性発疹症」と呼ばれます。麻疹はその経過、症状に際だった特徴がありますので、診断に迷う事はまずありませんが、風疹の場合には、ほかのウイルス性発疹症との違いがあまりありませんので、はっきりしない時には、慎重に考える必要(予防接種などの要否)があります。

伝染性紅斑とは 「りんご病」、「りんごほっぺ病」などのニックネームで呼ばれている疾患で、ヒトバルボウイルスB19の感染で発症します。潜伏期は17〜18日で、この疾患も学童に多くみられます。
症状 咽頭痛、倦怠感、頭痛、筋肉痛、軽度の発熱などの風邪の様な症状(気づかない事もあります)の約1週間後に、頬に境界のはっきりした紅い発疹(紅斑)が出現します。この症状がりんご病と言われる所です。さらに、肩から腕にかけてと太股の付近に網目状(レース状)の模様が広がります。あまり多くはありませんが、胸部や腹部、背中にこの発疹が出現することもあります。発疹は1週間前後で消えることが多いのですが、日光に当たったりすると2〜3週間持続することもあります。かゆみを訴える事もあります。大人の場合、関節痛や頭痛などがみられることもあります。
診断 特徴的な症状から、診断はさほど難しくありませんが、非定型的な症状の時には、数日経過を見て、初めてこの病気であることがわかることもあります。ヒトパルボウイルスB19に対する抗体の測定を行えば診断はより確定的となります。
合併症 小児ではほとんど合併症は認められません。先天性の貧血性疾患を持っている人では、重症の貧血発作がみられる事があります。また、妊娠11〜19週に妊婦が感染すると胎児に胎児水腫を発生し、流産や死産の原因となることがあります。なお妊婦から胎児へ胎盤を介して感染する率は10〜20%と言われています。
治療 特に必要なく、自然に良くなるのを待つのが一般的です。
登校基準 一般的に感染力はあまり強くなく、頬に発疹の現れる7〜10日前位がもっとも飛沫感染を起こしやすい時期で、発疹が出た頃には感染力はほとんどなくなっているため、登校停止としないで良い事になっています。
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