土川内科小児科ニュース   9月号  No.56  もどる

  今月のテーマ:住民健診2(心電図の見方)

 9月に入ってもまだ暑い日はあると思いますが、福島の今年の夏は西日本に比べるとだいぶ過ごしやすかった様です。  毎年、今頃になると、住民健診の結果が届きます。どきどきしてご覧になる方が多いと思いますが、如何でしたか?。「結果が怖いのでまだ受けたことがない」、あるいは「以前受けたことはあるがここ数年は受けていない」という方がおいででしたら是非受けることをおすすめ致します。万が一何らかの異常が指摘されても早い段階なら大丈夫です。知らずにいて手遅れになっては大変ですし、胸部レントゲン写真は毎年撮影してあれば、何かあった時にさかのぼって比較する事ができて、微妙な異常を診断する際に非常に役に立ちます。せっかくのチャンスですので、最大限に利用されては如何でしょうか。  住民検診の結果の見方については、平成九年九月(第八号)で一度お話しておりますが今月はその時には触れませんでした心電図所見を中心にお話したいと思います。  住民健診の項目の一つに心電図検査がありますが、心電図は心臓そのものの異常の発見のほかに全身的な異常を発見するきっかけとなることがあります。少々専門的になるかも知れませんが、比較的良く見られる代表的な所見について、できるだけわかりやすく説明してみたいと思います。
洞性徐脈:徐脈というのは脈がゆっくりと言うことです。その中で洞性徐脈というのは、心臓の拍動の司令塔から発せられる脈のリズムがゆっくりになった状態を言います。一分間に50以下の場合に「要指導」、40以下の場合に「要医療」となります。この所見は甲状腺機能低下症やある種の降圧剤服用時などに見られます。洞機能不全で30台になる場合にはペースメーカーが必要となることもあります。
洞性頻脈:頻脈とは脈が速くなっている事を言います。洞性徐脈の場合と同じに、単に脈が速い状態を洞性頻脈と言います。一分間に100以上の場合に「要指導」、120以上の場合に「要医療」となります。心電図をとる時などの緊張時や運動後にも脈が速くなりますが、それが洞性頻脈です。病気では甲状腺機能亢進症、貧血、感染・発熱時などに見られます。
期外収縮:期外収縮は、不整脈の代表的なもので通常の脈の間隔よりも早く心臓の収縮が起こるもので、上室性と心室性の2種類があります。期外収縮は通常の脈の司令塔以外の場所から収縮の指令が出る事が原因で起こります。この指令が心臓の上の方(心房)で起こった場合が上室性期外収縮、下の方(心室)で起こった場合が心室性期外収縮です。
  • 上室性期外収縮:上室性期外収縮が散見される程度では心配ありませんが、多発性、多源性(期外収縮の発生源が複数ある場合)、2連発、3連発などの場合には精査が必要ですので、「要医療」となります。
  • 心室性期外収縮:正常人でも寝不足やコーヒー、たばこの飲み過ぎなどの場合によく見られます。上室性期外収縮と同じく1回の心電図に3個以下の場合には「要指導」と判定して特に治療の対象とはしませんが、多発している場合、多源性の場合、2連発、3連発以上などの場合には、「要医療」となり、期外収縮が起こる原因を精査する必要があります。
  • 心房細動:心房の各所から不定期に脈が発せられる状態で、脈の間隔は完全に不規則になります。僧帽弁疾患、冠動脈疾患、肺塞栓、甲状腺機能亢進症などでみられ、「要医療」となります。
左室肥大:高血圧、心臓弁膜症、心筋症などの疾患で心臓の筋肉が厚くなった時などに見られる所見で、心室の収縮を示す波の高さが高くなります。なお、やせた人や若年者では異常がなくてもこの所見がみられる事があります。程度が軽い場合には「要指導」ですが、変化が大きい場合には「要医療」となります。
房室ブロック:脈が心房から心室に伝えられる所で伝わりにくくなる状態です。 その程度により一度〜3度に分類されます。一度の房室ブロックは自律神経の一つである迷走神経の緊張が強い場合などに見られますが、特に治療は必要ないことがほとんどです。二度以上の場合には精査が必要ですので、「要医療」となります。
完全右脚ブロック:心房から心室に伝わった刺激は、右脚と左脚に分かれて心室内に伝えられます。右脚の伝導のみが障害された状態が右脚ブロックです。ブロックの状態によって完全右脚ブロックと不完全右脚ブロックに分かれます。完全右脚ブロックは年齢が進むにつれて頻度は高くなりますが、原因疾患不明の場合が少なくありません。ただ、右脚ブロックのみの場合には通常あまり問題とはなりません。
完全左脚ブロック:左脚の伝導が障害されたものです。右脚ブロックより頻度は少ないですが、虚血性心疾患、高血圧、各種疾患による左室肥大、心不全などで認められる事が多く精査が必要です。
WPW症候群:生まれつき脈が伝わる道に問題があり、そのために突然脈が速くなる発作(発作性上室性頻拍と言います)を起こす事があります。一度は専門医で精査を受ける事をおすすめ致します。
低電位:脈の大きさが全ての誘導で小さい場合に低電位と診断します。心臓を包む膜に水がたまった場合や甲状腺機能低下症などの時に認められる異常ですので、原因を詳しく調べる必要があります。
ST・T変化:心臓の収縮の回復過程に表れる波でST上昇、ST低下、T波平低、逆転T波などの異常をまとめてST・T変化と判定します。虚血性心疾患、左室肥大、心筋症などの器質的な異常のある場合に認められることが多いので、精査が必要となります。
異常Q波:異常Q波は心筋梗塞で認められるものです。通常心筋梗塞では激しい胸痛がみられますので、検診時(無症状)にこの所見が見られた時には、古い心筋梗塞の所見を意味する事がありますので、一度詳しく調べておく必要があります。  以上、駆け足で心電図検査で認められる主な異常所見について触れてみました。このほかにも色々な異常がありますので心配な時にはご遠慮なく外来でご質問下さい(図を使って説明する方がずっとわかりやすいです)。 
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