土川内科小児科ニュース  10月号  No.57   もどる

  今月のテーマ:ウイルス性肝炎

 だいぶ寒くなってきました。風邪をひく人が増えてきておりますので、健康管理には充分気をつけてください。  これまで、肝臓の病気については脂肪肝とアルコール性肝炎を取り上げてきましたが、今回は、日本人の肝臓病の80%を占めると言われております「ウイルス性肝炎」について取り上げてみたいと思います。  現在までにA〜Eの約5種類の肝炎ウイルスが発見されていますが、実際日本で見られるのはA型、B型、C型の3種類です。  ウイルス性肝炎は、ウイルス自体が肝臓に炎症を起こすのではありません。肝細胞にウイルスが感染している事がわかると免疫機構はそのウイルスを排除しようと抗体やリンパ球などを駆使して様々な攻撃を行います。これによってウイルスが破壊されますが、同時に肝細胞も破壊され炎症(肝炎)が起こります。
A型肝炎:ウイルスに汚染された生水や生もの(生がきなどの貝類が有名)を飲食することで感染します。日本国内で感染することはほとんどなく、衛生環境が良くない国への旅行の際に感染する事が多いので注意が必要です。A型肝炎の予防には、A型肝炎ワクチンが有効ですので、多発地区に長期間滞在する場合には予防接種を受けることをおすすめします。感染後約1〜2週で腹痛や発熱などの症状で発症します。通常、安静にしていると約1ヶ月程度で治癒し、慢性化することはありませんが、まれに重篤な劇症肝炎を起こすことがあります。
B型肝炎:血液や体液を介して感染します。出産時(母親がウイルスを保有している場合)に母親から子供へ移る垂直感染(但し、現在では新生児にワクチンを使うことで母子感染は防ぐことができます)と輸血や性行為によって感染する水平感染とがあります。
  • 垂直感染の場合:出生時に感染した人が15歳ぐらいになると、体の免疫機能が働きだしてウイルスとの戦いが始まり肝炎が起こります。その結果、ウイルス量は減って症状も治まり、約70%の人は無症候性キャリアとして大過なく過ごせますが、30%位の人は炎症が慢性的に持続して慢性肝炎となります。慢性肝炎になった人の20〜30%では約20年の経過で肝硬変になり、さらに肝硬変になった人の約30%が15年くらいの経過で肝臓癌になると言われています。
  • 水平感染の場合:以前は輸血で感染することがありましたが、現在ではチェック体制が確立したため、輸血が原因となることはありませんが、性行為や注射の使い回し(麻薬・覚醒剤)などで感染する事があります。感染した人の約20%に急性肝炎が起こり、「だるい、食欲がない」などの症状が現れますが、2〜3ヶ月で治癒し、慢性化することはほとんどありません。B型肝炎でも劇症化することがあり、注意が必要です。
C型肝炎:C型肝炎も血液や体液を介して感染しますが、B型ほど感染力がないので性行為でうつる事はまずありません。輸血、注射の使い回しなどが原因となりますが、1994年からは輸血用製剤、血液製剤のチェック体制が確立し、新たな感染はほとんど見られなくなりました。C型肝炎では、感染してもほとんど自覚症状がみられず、約40%の人はそのまま治癒します。しかし、残りの約60%の人では慢性肝炎へと移行します。慢性肝炎になった人(治療がうまくいかない場合)の30〜40%は、約20年で肝硬変へと進行します。肝硬変となった方の60〜80%はその後25〜30年で肝臓癌を発症します。C型肝炎では肝癌の発生率が高いのが特徴です。   
肝炎の症状:急性肝炎では、発熱、寒気、頭痛、倦怠感、嘔気、下痢などの風邪の時の様な症状が現れます。実際、風邪ではないかと思い、医療機関を受診するケースがよくあります。慢性肝炎では自覚症状はあまりなく、症状があったとしても、倦怠感、疲労感、食欲不振などです。
診断:ウイルス性肝炎の診断には、ウイルスマーカーを調べる検査が必要です。
  • B型肝炎ウイルス
    • HBs抗原:陽性の場合、現在B型肝炎に感染している事を意味します。陽性の場合にはさらに、HBe抗原、抗体を測定します。
      • HBe抗原が陽性の場合には、感染力が強いことを意味します。
      • HBe抗体が陽性の場合には、ウイルスが減少して感染力が弱い事を意味します。
    • HBs抗体:陽性の場合、B型肝炎に対する免疫があることを意味します。過去にB型肝炎に罹患して治癒した場合とB型肝炎のワクチンの投与を受けた場合に陽性となります。
  • C型肝炎ウイルス:C型肝炎ウイルスの抗原をチェックする方法は難しいので、通常は抗体(HCV抗体)を測定します。陽性の場合には、現在または過去に体内にC型肝炎ウイルスが侵入した事を意味します。そこでHCV抗体が陽性の場合には、C型肝炎ウイルスRNAを調べます。これも陽性であれば、現在C型肝炎ウイルスに感染している事になります。
急性肝炎の治療:治療の基本は安静です。安静を保ち、栄養補給に気をつけるだけで、通常よくなります。症状が軽いために肝炎であることに気づかず、特別な治療を行わないでも自然に治癒する場合もあります。逆に、肝機能の障害が高度の場合には入院加療が必要となります。急激に肝機能が悪化する劇症肝炎では集中治療が必要となり、亡くなるケースもあります。
慢性肝炎の治療
  • インターフェロン療法:インターフェロンはウイルスの増殖を押さえる作用を持っている物質です。以前は薬で肝機能を改善させることはできても、肝炎ウイルスを完全に死滅させる治療法はありませんでしたが、インターフェロンが使われるようになってからは、治癒が望める様になりました。しかし、インターフェロンは全てのウイルス性肝炎に効果があるわけではなく、また副作用(高熱、頭痛、筋肉痛、うつ状態など)もあり、非常に高価な薬剤ですので、種々の検査を行い、効果が期待できるケースに対して使用するのが一般的です。
  • そのほかの治療法:ステロイド離脱療法、グリチルリチン製剤、小柴胡湯(漢方薬)、ウルソデスオキシコール酸製剤などの薬物療法があります。いずれの薬剤も重い副作用などはありませんが、定期的に肝機能をチェックし、根気強く治療を続ける事が大切です。そのほか、新しい治療薬も登場してきておりますので、よりよい治療の機会を逃さない様に定期的な受診を欠かさないようにして下さい。 
感染を防ぐために:HBe抗体陽性のB型肝炎とC型肝炎では通常の日常生活で感染する事はほとんどありませんが、HBe抗原陽性の場合には感染力が強いので、血液の付着した物の共用は避けるなどの注意が必要です
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