土川内科小児科ニュース 1月号 No.60 (もどる)
今月のテーマ:感染性胃腸炎
あけましておめでとうございます。皆様いかが新年をお迎えでしょうか。今年は是非穏やかで明るい年になってほしいと思います。
インフルエンザと並んで冬に流行する疾患の代表的なものとして感染性胃腸炎があげられます。今シーズンも昨年暮れから少しずつ増えて来ております。この疾患もインフルエンザ並の爆発的な流行が見られる事がありますので、今月はこの疾患について詳しく取り上げてみました。 |
■感染性胃腸炎は、細菌やウイルスなどの感染性病原体による吐き気・嘔吐や下痢、腹痛を主症状とし、時に発熱が見られる疾患です。細菌による胃腸炎はサルモネラ、腸炎ビブリオ、ブドウ球菌、キャンピロバクター、病原性大腸菌(O157など)などが原因となり食中毒を起こしますが、主に夏場にみられるものですので、今回は冬に多くみられるウイルスによる胃腸炎について解説したいと思います。 |
■ウイルス性の胃腸炎の原因となるウイルスとして、ロタウイルス、ノーウォークウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルスなどが代表的なものです。これらウイルスによる胃腸炎は糞便からの感染(糞口感染)が主なルートですが、吐いたものからの飛沫感染も報告されています。乳幼児ではA群ロタウイルス、腸管アデノウイルスによるものが多く、年長児〜成人ではノーウォークウイルス、C群ロタウイルスによるものが多い事がわかっています。 |
■ロタウイルス:冬に流行するウイルス性胃腸炎(特に乳幼児)の代表的な原因ウイルスで、約40〜50%がこのウイルスによるものと考えられています。電子顕微鏡でみると車輪の様に見えることから、ラテン語の車輪(rota)からこの名前が付けられました。A群、B群、C群が知られていますが、日本でロタウイルスといえばA群を指します。A群による胃腸炎の潜伏期は2〜3日、生後6ヶ月から2歳の乳幼児に好発し、「乳児嘔吐下痢症」として知られており、ウイルス性胃腸炎の中ではもっとも重症化しやすいので注意が必要です。気温が5度以下になると流行すると言われますが、例年11月から4月頃にかけて(流行のピークは2〜3月)多発します。2歳までに大部分の子が罹患して終生免疫を獲得しますが、大量のウイルス暴露や免疫力の低下などで再感染することもあります。下痢便の特徴は「米のとぎ汁」様といわれる白色〜淡黄色の水様便で(白色便は30〜50%に見られます)、5〜7日続きます。コレラの時に見られる下痢便に似ている事から「仮性コレラ」と呼ばれることもあります。この特徴的な下痢便のほかに病初期には嘔吐(60〜90%)もみられ、また軽い発熱や咳が見られることもあります。合併症としては、脱水、腸重積、けいれんなどが知られています。なお、B群は中国で流行したことがありますが、日本では見られていません。C群によるものは主に3歳以上の年長児や成人に多く、真冬よりも春先から夏にかけてみられますが、A群の様に大流行することはありません。 |
■ノーウォークウイルス:小型球形ウイルス(SRSV)とも呼ばれ、主に食べ物、特に貝類(つい先日SRSVウイルスの検査が陽性のカキを生食用として販売していた事件が報道されておりました。カキは汚染された海水を取り込んでウイルスを濃縮すると考えられています)やサラダ、生水を介して感染します。このウイルスは熱に弱いため、カキを生で食べなければ大丈夫なのですが、逆に低温にはめっぽう強く、汚染された水で作った氷が原因となる事もあります。11月〜3月にかけての冬季に乳幼児〜成人まで広く感染が見られ、2歳以上のウイルス性胃腸炎の3分の1はこのウイルスが原因と推定されています。ウイルス性の食中毒として集団発生することも少なくありません。潜伏期は1〜2日で、嘔気・嘔吐・下痢・差し込むような腹痛などが主症状です。脱水が強い場合には点滴が必要となる事もありますが、通常は2〜3日で軽快(ロタウイルスよりは軽い)します。 |
■アデノウイルス40/41型:主に3歳未満の乳幼児に一年を通して(夏期にやや多い)みられます。比較的軽症です。 |
■アストロウイルス:主に乳幼児に感染し急性胃腸炎を起こします。冬季に発症しますが、潜伏期は3〜4日、一般に軽症で2〜3日で軽快します。 |
■その他:コロナウイルス(秋〜冬)、エンテロウイルス(夏)、B型インフルエンザウイルス(冬)などが胃腸炎の原因となります。 |
■診断:嘔気・嘔吐・下痢・腹痛、発熱などの症状から急性胃腸炎の診断は容易になされますが、どのウイルスでも同じような症状ですので(発症年齢や発症時期からある程度原因ウイルスの種類を類推することはできますが)、一部のウイルス(A群ロタ、アデノ)を除き確定診断は簡単ではありません。 |
■治療方法:いずれのウイルスに対しても特効薬はありませんので、対症療法を行います。
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■ウイルス性胃腸炎の予防:ウイルス性の胃腸炎は糞便からの経口感染がメインのルートですので、自分のトイレの後はもちろん、子供のトイレを手伝った後、オムツを替えた後、食事やおやつ、料理の前には必ずよく手を洗いましょう。また、子供の手洗いを手伝ったり確認することもお忘れなく。また、タオルが病原菌で汚染されてしまうと、タオルが感染源となり、タオルで拭くことが感染のきっかけとなってしまいますのでご注意ください。集団生活の場合には、できれば使い捨てのペーパータオルの使用が望まれます。さらに、嘔吐物、排泄物などはゴム手袋を使用して完璧に処理し、感染が広がるのを防いでください。 |
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