健康最前線(No.69)
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今月のテーマ:流行性耳下腺炎(おたふく風邪)
おたふく風邪について◆◆◆
概説:おたふく風邪はムンプスウイルスによって引き起こされる病気で、唾液腺の1つである耳下炎が腫れて痛くなる病気です。接触の度合いの大きい幼稚園、保育所、小学校での流行が多く、また晩冬から春にかけて多くなる傾向があると言われますが、最近はあまり季節的変動はなく、常時散発的に見られているようです。年齢的には5〜10歳に多く、85%が15歳以下とされています。
疫学:直接の接触と唾液などを介する間接接触や飛沫感染により伝染します。潜伏期は14〜21日で、耳下腺が腫れる6日前〜腫れてから9日目までは伝染する可能性があると言われていますが、最強伝染期間は、唾液腺の腫れる1日前から3日後までです。学校保健法では、耳下腺の腫脹が消失するまで登校禁止となっています。不顕性感染(かかっても症状がでないこと)が30〜40%とかなり高率に見られます。
症状:多くの場合、耳の下(耳下腺)が腫れて痛がります。耳下腺の腫脹は耳たぶの両側にまたがるように腫れが認められます。前だけ、後ろだけの場合には、違うことが多いのですが、徐々に腫れがはっきりする場合もないわけではありません。ふつう左右とも腫れますが、片方だけのこともあります。最初片方だけで、その後1〜2日かけて対側も腫れてくるというパターンもよく見られます。腫れは1週間くらいでおさまります。押して痛がる症状の他に、ものを噛んだときに痛む事もよくあります。耳の下(耳下腺)のほか、顎の下(顎下腺)が腫れることもあります。まれに、耳下腺の腫脹がなく、顎下腺のみの事もあります。38度台の熱が3〜4日見られる事が多いのですが、ないこともあります(20%)。
診断:反復性耳下腺炎などとの鑑別が問題となります。最終的には血液検査をしてウイルスに対する抗体価が上昇していることを確認しないと確定できません。耳下腺が腫れる頃には血中のムンプスウイルスに対する「IgM抗体」が上昇しておりますので、この「IgM抗体」を測定する事で確定診断を下すことができます。「IgM抗体」検査をしない場合には、後日反復性耳下腺炎や他のウイルス感染で同様の症状が出た場合でも、ムンプスの可能性が否定できないため、また学校をお休みしなければならなくなりますので、必ず抗体検査をしてもらって下さい。おたふく風邪に2度かかることはありませんので、一度しっかりと診断してあれば、その後耳下腺の腫脹が出現してもおたふく風邪の可能性はなく安心です。
鑑別疾患:反復性耳下腺炎の他に、おたふく風邪と区別しなければいけないのは、パラインフルエンザ3型・コクサッキー、インフルエンザA型、EB、サイトメガロなどのウイルスによる耳下腺炎、急性化膿性耳下腺炎、薬剤による耳下腺腫脹などがあります。 
合併症
  • 髄膜炎:おたふく風邪の患者さんの10%前後に髄膜炎の症状が出るとされています。耳下腺腫脹の3〜10日後に発症することが多く、一般的には予後は良好です。
  • 睾丸炎:思春期前には希ですが、思春期以後では、14〜35%にみられます。発熱、悪寒、睾丸の腫脹、発赤、圧痛などの症状が現れます。睾丸炎を合併したケースの約13%に受精障害が見られます。
  • 卵巣炎:思春期以後では7%に見られますが、不妊症になることは希です。
  • 膵炎:軽症の膵炎を合併することは比較的よくあります。心窩部の圧痛、自発痛、発熱、嘔吐などが見られるときには、血中や尿中のアミラーゼを測定し、高い時には膵炎の治療を行います。
  • 難聴:ごく希(15000に1人)に聴力障害が起こることがわかっています。ほとんどが一側性ですが、聴力は回復しません。
  • その他:腎炎、甲状腺炎、心筋炎、関節炎、血小板減少性紫斑病などが知られていますが、ごく希です。
治療:おたふく風邪の特効薬はまだありませんので、対症療法(熱や痛みをとるくすりを使います)が中心となります。合併症の頻度を下げるためには、安静が大切です。 
予防接種:任意で受けられます。予防接種の効果は95%ぐらいといわれています。接触してからうけても効果はあまり期待できません。
家庭で気をつけること:痛みが強いときはかまずに飲めるものを中心に与えてください。熱が続くときや頭痛・吐き気・腹痛が見られるとき、睾丸を痛がるときなどは合併症の心配がありますので、まだお薬が残っていても診察を受けてください。
登校基準:学校保健法で感染の危険がなくなるまでは登校停止となっておりますので、許可を得てから登校を再開してください。

反復性耳下腺炎について◆◆◆
 おたふく風邪と良く似ている疾患の代表がこの反復性耳下腺炎です。
概略:耳下腺や顎下腺が、数カ月から1年間隔でくりかえし腫れる病気です。原因などくわしいことはまだわかっていません。12歳をすぎるとあまり見られなくなります。
症状:耳の下がはれて痛がります。ふつう片方だけです。腫れは2〜3日くらいでおさまります。耳の下(耳下腺)のほか、顎の下(顎下腺)がはれることもあります。熱は通常出ません。
診断:おたふくかぜとの区別が問題になります。熱がない、片側だけ、腫れの程度が軽い時などは反復性耳下腺炎の可能性が高くなりますが、決定的な差とはいえませんので おたふくかぜと区別がつかないうちはおたふくかぜと考えて対処する事になります。
治療:対症療法(痛みが強いときにはお薬を使います)。
代表的な質問(Q&A)
  • Q:片方きり腫れなかったんですが、またなりますか?
    • A:いいえ、片方だけの腫脹で済んでもおたふく風邪に対する抗体は獲得していますので、反対側がまた別の機会におたふく風邪になるという事はありません。
  • Q:2〜3日したら、痛みも無く元気なんですが、まだ登園・登校はできませんか?
    • A:痛みも腫脹も無くなれば登園や登校はOKですが、通常痛みが無くなってもまだ腫脹は残っており約1週間は隔離が必要です。
  • Q:予防接種は受けた方が良いでしょうか?
    • A:成人後に罹患すると合併症の比率が高くなる事が多くなりますので、思春期前にまだ罹患した事がはっきりしない時には予防接種を受ける事をおすすめします。
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