健康最前線(No.70)
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今月のテーマ:インフルエンザ(1)
インフルエンザについて(1)◆◆◆
インフルエンザの由来について:インフルエンザという用語は14世紀のイタリアのフィレンツェで、「寒さの影響」「星の影響」を意味する言葉としてインフルエンツァ(influenza)と呼ばれていたことがその起源の様です。.インフルエンザには大流行のたびに名前がつけられており、1918年のスペインかぜ(H1N1)、1957年のアジアかぜ(H2N2)、1968年のホンコンかぜ(H3N2)、1977年のソ連かぜ(H1N1)などが有名です(記号の説明は後述)。
インフルエンザと普通の風邪の違い:インフルエンザと普通の風邪の違いは原因ウイルスが違う(インフルエンザはインフルエンザウイルス、普通感冒は、ライノウイルスやコロナウイルスなど)ほかに、インフルエンザでは、
  1. 39度前後の高熱・頭痛・関節痛・筋肉痛・全身倦怠感などの全身症状が強い
  2. 気管支炎や肺炎などを併発し重症化しやすい
  3. 流行が始まると短期間に乳幼児から高齢者まで膨大な数の人を巻き込むなどが特徴としてあげられます。
毎年流行する理由:インフルエンザウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があります。A型では、HAには15種類、NAには9種類の亜型があり、同一の亜型内で毎年わずかな抗原性を変化させるため、巧みにヒトの免疫機構から逃れ流行し続けます。これを連続抗原変異(または小変異)といいます。小変異でもその変化が大きい場合には以前に感染して免疫がある人でも、再び感染しますし、その抗原性に差があるほど、発症したときの症状も強くなります。さらに、A型では後述するメカニズムで、突然別の亜型にとって代わることがあります。これを不連続抗原変異(または大変異)といいます。
大変異で新型ウイルスができる仕組み:人に感染するインフルエンザウイルスのHAは3種類(H1、H2、H3)、NAは2種類(N1、N2)です。有名なA香港はH3N2、Aソ連はH1N1というふうに表現します。一方、インフルエンザは鳥や豚などにも感染し、鳥ではHAが15種類、NAが9種類もあります。通常、鳥のウイルスは人間にうつりませんが、豚は人間、鳥両方のウイルスがうつります。その豚が鳥のインフルエンザウイルスに感染し、さらに同じ豚が人のインフルエンザウイルスに感染し、その豚の体内で人間と鳥のウイルスの遺伝子の一部が置き換わる(交雑といいます)と、人にも感染する新型が発生します。これが新型ウイルス発生の仕組みです。最初に出現する地域として、アヒル、豚、人間が一緒に暮らし、インフルエンザのルーツと考えられている中国南部が疑われており、国際協力のもとで監視体制が敷かれています。昨年、香港で発生して話題になった新型ウイルスはH5N1で、鳥のウイルスなので、人には感染しないはずだったのですが、鳥から人に感染した珍しい例です。ただ遺伝子の型は鳥の型のままでしたので、大流行にならずにすみました。A型は10〜30年おきに大変身し、世界規模の大流行をもたらします。研究者の間では「その時期は近い」という見方が有力なのは、A香港型が流行しだしてすでに29年、Aソ連型が20年経過しているためです。
インフルエンザワクチンについて:インフルエンザワクチンは、日本では1994年から定期の予防接種からはずされたため(欧米では老人や慢性疾患を持つ患者さんなどを中心に広く接種が行われており、日本でも数年以内に危惧されている大流行に備えてワクチンの供給体制は整えられつつあります)極端に接種率は低下してしまいましたが、調査の結果、ワクチンの効果が見直され、平成13年から高齢者に対しては積極的にワクチンの接種を勧める事となりました。アメリカでは乳幼児に対しても高齢者と同様、接種が勧められており、近い将来日本でも同じ様になる事が予想されます。  日本のインフルエンザワクチンは、WHOが推奨した株を基本とし、流行状況などを勘案してその年に流行すると予測される型に有効なものが作られておりますが、この10年間、予測と実際に流行したウイルス株はほぼ一致しており、予測精度が上がったこともワクチンの効果を高める事に貢献していると思われます。
ワクチンの効果について:厚生省のインフルエンザワクチンの効果に関する研究によりますと、65歳以上の高齢者については、約45%の発病を阻止し、約80%の死亡を阻止する効果が認められています。  しかし、インフルエンザウイルスは前述しました様に微妙にその形を変える(小変異)事、さらには、ワクチンの接種で血中に抗体はできるもののウイルスが侵入する鼻腔内粘膜や上気道における抗体の量は多くならないなどのため、ワクチンを接種すれば、インフルエンザにかからないという訳ではありません。
インフルエンザワクチンの副作用:注射部位の腫れと痛み、発熱、頭痛、寒気、嘔吐、倦怠感などがまれに見られます。
ワクチンを受ける際の注意:重症の卵アレルギーの人、以前にインフルエンザワクチンによるアレルギー反応その他の問題のあった人は受けられませんので、ご注意下さい。 。
ワクチン接種の時期:予防接種の効果が現れるまで約2週間かかります。また、その効果の持続は約5ヶ月と考えられておりますので、流行の時期が1月〜3月であることを考えると年内には接種を済ませておくことが大切です。2回接種する場合には、その間隔は1〜4週(4週がベスト)とされていますので、11月中に1回、12月中に1回の接種をお勧めします
何回受ければ良いのでしょうか:13歳未満の場合には、過去にインフルエンザウイルスに接触した経験が少ない事から2回接種が必要です。一方、65歳以上の場合、1回の接種でも十分効果があるとする研究結果が得られており、1回接種で良い事になりました。13歳以上64歳以下の方の場合は、2回接種を原則とするものの、平成14年の冬から(海外での知見を参考にして)「本人の希望や医師の判断があれば1回でも良い」となりました。
ワクチンの接種料金について:インフルエンザワクチンの接種は自由診療のため、各医療機関が独自に料金を設定しています。基本的には、診察料+注射料+製剤ワクチン加算+ワクチン代+機材料で算定されます。ワクチンの価格はメーカーによって異なっており、また、診察料のところで初診料をいただくのか再診料にするのかでだいぶ差がでます。当院ではかかりつけの患者さんへの接種を前提と考えておりますので、再診料を使って接種料金を設定しています。
インフルエンザにかかってしまったら:インフルエンザの診療は迅速診断キットと抗インフルエンザ薬の出現でこれまでとは全く違った次元のものとなりました。高熱などの症状が出現してから40時間以内に特効薬を使用すれば、翌日には熱が下がり始める位良く効きます。かかったかな?と思ったらできるだけ早く受診してください。「早期診断・早期治療」がインフルエンザ診療の合い言葉です。
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