健康最前線(No.75)
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今回のテーマ:溶連菌感染症
溶連菌感染症(猩紅熱)は、平成11年4月から実施されました感染症新法で、第一類から第三種の「その他の伝染病」にいわば格下げとなりました。溶連菌感染症には、猩紅熱と呼ばれるタイプ以外にもいくつかの病型があり、少々わかりずらいため、名前が有名な割にはあまり良く知られていない疾患です。しかし、毎年年間を通じて比較的コンスタントに見られている感染症です。今回はこの感染症を取り上げてご説明したいと思います。本文中ではわかりやすい説明を、コラム欄ではより詳しい説明と区別してみました。
溶連菌について:溶連菌は、溶血性連鎖球菌(連鎖球菌は培養して顕微鏡でみると連鎖状に見えることからこう呼ばれています)の略で、A群〜H群、K群〜W群までの計21群とたくさんの種類に分けられますが、ヒトに感染を引き起こすものの95%は、A群菌によるものと言われています。A群溶連菌による感染症には、急性咽頭炎、扁桃炎、猩紅熱、丹毒、伝染性膿痂疹、中耳炎などの多彩な病状が見られます。他にC・G群が上気道炎の原因となるほか、B群菌は新生児期の敗血症・髄膜炎の原因菌として注目されています。
好発年齢・好発季節・潜伏期:乳児では(お母さんからの免疫で)少なく、幼児から学童に多く見られます。季節的には、咽頭炎・扁桃炎は冬から春に、皮膚感染症は夏から秋に多いと言われますが、以前より季節変動が少なくなった様な印象を持っています。潜伏期は通常2〜5日と言われています。咳やくしゃみで飛び散った溶連菌を吸い込むことにより感染(飛沫感染)しますので、集団発生することがあります。
症状:年齢や抵抗力により症状が違いますので注意が必要です。6ヶ月から3歳の小児では、軽い発熱に鼻汁が見られる程度の事が多いのに対して、3歳以上では、通常、寒気と共に38〜39度の高熱が出ます。のどの痛みはほぼ必発で、食べ物や飲み物を飲み込んでも痛みます。のどを見ると炎症を起こして真っ赤になっています。扁桃には、白や黄色の膿が付着し、上あごには細かな点状の出血が見られることも少なくありません。吐き気や腹痛を訴えることもあります。1〜2日すると首筋や脇の下、ももの内側などにに赤く小さな発疹が現れ、次第に全身に広がります。7〜10日位あとに手や足の指の皮がむけてくることがありますが、心配いりません。なお、額や頬は赤くなることがありますが、その場合でも口の周りは取り残されるのが特徴の1つです。この発疹が見られる時には、猩紅熱と診断されます。この発疹は溶連菌が産生する発疹毒が原因でできるものです。しかし最近では早期に治療が開始されるためか、全身が赤く見える様な典型的な発疹例は少なくなりました。更に数日すると、舌にブツブツ(腫大した舌乳頭)ができて、有名な「いちご舌」と呼ばれる状態となります。時に、くびのリンパ腺が腫れて痛むことがあります。
 一方、これとは別に皮膚に溶連菌が感染すると、突然水疱ができ、更に膿がたまった状態(膿疱)や破れてかさぶたがついた状態(膿痂疹=とびひ)となります。さらに深いところに感染がおよんで炎症が広がると皮下結合組織炎(蜂巣炎)、さらにリンパ管の炎症を合併すると丹毒と診断されます。
診断:症状、咽頭所見、経過などから比較的容易に診断できますが、喉からばい菌を取って検査をすることで診断が確定します。
併症:治って2〜3週間してから、急性腎炎やリウマチ熱、アレルギー性紫班病などを起こすことがありますので、初期の段階でしっかり治療をすることが大切です。頻度はそれほど高くありません(1%前後)が後遺症を残す危険のある合併症もありますので、合併症にかからないように、気を付けて下さい。
治療:抗生物質が著効します。通常溶連菌に有効なペニシリン系などの抗生物質を服用します。すぐに症状はなくなりますが、最低でも10日以上、途中で中断しないで服用する事が大切です。
再感染:きちんと治療を受けたのに短期間の間に再発する事があります。これは、別の型の溶連菌に再感染したため、あるいは、前回の感染時に抗体が十分できなかったなどの可能性が考えられています。
登園・登校:適切な抗生物質による治療が行われていれば、ほとんどの場合、24時間以内に他の人への伝染を防げる程度に病原菌を抑制できますので、抗生剤による治療を開始してから24時間以上経過して、全身状態が良ければ、登園・登校は可能です。
予防法:兄弟がかかったときには、注意が必要です。怪しいときには、喉のばい菌検査を行い、溶連菌が検出されたときには、抗生物質の投与を早い段階で開始します。
特に注意すること:この病気の場合、抗生物質による治療を開始すると2〜3日で症状はなくなり、すっかり治ったように見えますが、溶連菌は喉に残っています。この段階で治療を勝手にやめてしまうと、再発したり、合併症を起こしやすくなりますので、きちんと指示どおりにお薬を服用し、完全に治してしまうことが最も大切な事です。
連鎖(レンサ)球菌の種類:連鎖球菌は、赤血球に対する溶血パターンから完全溶血群(β−溶血)、部分溶血群(α−溶血)、非溶血群(γ−溶血)の3群に分けられます。また、細胞壁のCー多糖体の抗原性の違いから分けたLancefield分類ではA群からH群、K群からV群と20群に分けられます。
  • A群β溶連菌:レンサ球菌の代表的な菌。ストレプトリジンなどの菌体外酵素を産生し、ヒトに対して強い病原性を発揮します。猩紅熱、丹毒、蜂窩織炎、膿皮症、咽頭炎、扁桃炎、気管支肺炎、中耳炎などを起こす他、治癒後二次的にリウマチ熱、急性糸球体腎炎などを起こすことがあります。
  • B群β溶連菌:腟内に常在(6〜12%)するため、産道感染により新生児の髄膜炎、肺炎、敗血症の起炎菌となります。
  • その他:H群α溶連菌(S.sanguis)、K群α・γ溶連菌(S.salivarius)などは口腔内の常在菌ですが、緑色レンサ球菌(S.viridance)とも呼ばれ、細菌性心内膜炎の起炎菌となります。
A群β溶血性連鎖球菌について:A群溶連菌は、さらに細菌細胞壁に存在する蛋白抗原であるM抗原(M抗原は、菌を白血球の貪食作用から防御し、菌の毒力と深い関係があると言われています)およびT抗原により約80種に分類されます。日本では、12型を中心に流行します。また、ストレプトリジン(溶血毒)、皮膚に鮮紅色の発疹を引き起こす発赤毒(Dick toxin)、フィブリノリジン・ヒアルロニダーゼ・DNAase(これら酵素の働きにより菌が組織中に限局することなく進展)などの様々な菌体外毒素を産生します。
リウマチ熱:溶連菌感染症の2〜4週間後に、心臓や関節などに炎症を起こす疾患。発熱、心炎、多発性関節炎、輪状紅斑、舞踏病、皮下結節などの症状が見られます。リウマチ熱にかかると後遺症として心臓弁膜症になる危険性があります。6歳から15歳位の子供がかかりやすいと言われていますが、近年ではほとんど見られなくなりました。
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