健康最前線(No.79)
もどる
今回のテーマ:痛風
今回は痛風とその素地を作る高尿酸血症を取り上げて、ご説明致します。
「痛風とは」:痛風は風があたった位でも痛い事がその名前の由来になっている程、激しい痛みが関節(足の親指のつけ根が有名)を襲う、圧倒的に男性に多い(97〜98%)病気です。血中の尿酸の値が高い状態が何年にもわたって続くと、体の中に尿酸が沈着します。関節の中に沈着した尿酸の結晶に対して、白血球が攻撃を加えた結果炎症が起こり激痛や腫れが生じたもの(急性関節炎)がいわゆる痛風発作です。通常、痛風発作は早くて2〜3日、遅くても2週間程で軽快しますが、痛みがなくなったからと安心して放置しておくと、次第に尿酸を排泄している腎臓に尿酸塩が沈着して腎障害を起こし、やがては尿毒症を引き起こします。そのほか動脈硬化を促進し、心臓や脳などに重大な障害を引き起こす事も知られており、痛風が本当に怖いのはその障害が単なる関節にとどまらないからなのです。
「痛風の現状」:痛風の患者さんは年々増加しており、全国で30〜40万人、高尿酸血症の患者さんは600万人と推定されています。さらに、その数は年々増加してきております。また、発症年齢の若年化がみられ、最近では30歳台で発症する人が最も多くなっております。これは、欧米型の食生活への移行、アルコール摂取の増加、運動不足と過食による肥満の増加など生活習慣の変化が大きく関与しているものと思われます。
「尿酸とは」:尿酸は、プリン体と呼ばれる物質が肝臓で分解されてできます。プリン体は、遺伝子情報を担う核酸の主成分であると同時に、筋肉が使われるときのエネルギー伝達物質(アデノシン三リン酸)の元になる物質で、体にとっては欠かせないものですが、その代謝産物である尿酸は体には必要のない老廃物ですので、毎日一定量が作り出され、血液とともに腎臓に運ばれた後、尿に混じって体外に排泄されます。
「高尿酸血症とは」
図1 血清尿酸値の目安
  • 7mg/dl未満:正常値
  • 7〜8mg/dl:食生活を気をつける
  • 8〜9mg/dl: 医療機関を受診する
  • 9〜10mg/dl以上:内服薬服用が必要
通常は尿酸の合成と排泄のバランスがとれていますが、合成が過剰になったり、排泄が低下した時に、血液中の尿酸の値が高くなります。尿酸の正常値は、男性4.0〜7.0mg/dl、女性3.0〜5.5mg/dlで、尿酸値が7.5mg/dlを越えると、血液に溶けきれない分が結晶として沈着し、いろいろなトラブルを引き起こしますので、高尿酸血症と診断します。いわば痛風予備軍と言う状態です。9.0mg/dl以上の場合には、約90%の確率で数年以内に「痛風」を発症すると言われており、これまで痛風発作の経験がなくても、治療の対象となります(図1参照)。
「高尿酸血症に関係する生活習慣」:痛風や高尿酸血症の発症には体質(遺伝的素因)が関与しますが、それだけではなく、さらにいくつかの生活習慣が関与しております。尿酸値に影響を与える主な要因は次の様なものです。
  1. 肥満があると尿酸の排泄が抑制されるために、尿酸値が高くなります。
  2. アルコールは尿酸の生成を促進する上に、腎からの排泄を阻害します。どのアルコールでも尿酸値を上昇させますが、ビールには尿酸の元になるプリン体が多く含まれているため特に尿酸値を上昇させます。
  3. 内臓や肉汁などのプリン体の多い物を好んで食べると尿酸値が上昇します。
  4. 運動 短い時間に筋肉を激しく使い、瞬発力を要求される運動でも尿酸値は上昇します。一方、マラソン・ジョギング・水泳などの有酸素(エアロビック)運動では、尿酸値は上がりません。
「治療と予防」
  1. 痛風発作の治療:痛風発作の非常に早い段階(痛み出しそうな予感)であれば、コルヒチンという薬で発作を頓挫させる事が可能ですが、発作が起こってしまってからは、消炎鎮痛剤を使用します。
  2. 高尿酸血症の治療:血清尿酸値が高い程、短期間の内に痛風になる可能性が高いので、高尿酸血症の方は血清尿酸値を正常範囲にコントロールし続ければ、痛風発作や腎障害・動脈硬化の進展などを防ぐことができます。治療は、食事療法と運動療法からなる生活習慣の改善と薬物療法の二つを平行して行います。
「生活習慣の改善」
  1. 総カロリーを制限します。これは、悪化因子の一つでもある肥満の解消にもつながります。
  2. 次にプリン体含有量の多い食物(図2参照)をできるだけ避けます。
  3. アルカリ性の食品(野菜・海藻類・牛乳など)を多く取る様にしてください。尿が酸性ですと尿酸が結晶化して尿管結石や腎臓への尿酸の沈着の原因となるからです。
  4. 普段から水分を十分に取り、尿量を多くします。
  5. 適度な運動(20〜30分の早足歩き、自転車こぎ、水泳などの有酸素運動)をできれば毎日継続して行う事が効果的です。
  6. 精神的ストレスの発散をはかります。
「薬物療法」:生活習慣の改善をはかっても尿酸値が9mg/dlを超える時には、尿酸を下げる目的で内服薬を使用します。治療薬には、体の中で尿酸の産生を抑制する薬と、産生されてしまった尿酸の尿中排泄を促進する薬とがあります。後者の場合には尿に排泄された尿酸が途中で沈着しないように尿をアルカリ性にする薬を併用し、尿のpHを6以上に保つ様にします。いずれの場合でも、定期的に尿酸値をチェックして、継続的に尿酸をコントロールすることが大切です。一時的な努力ではなく、生涯にわたる治療が必要であることを十分に理解し、治療に取り組んでください。  なお、痛風発作の最中に尿酸を下げる薬を飲み始めると、体にたまった尿酸が溶け出して、逆に発作が起こりやすくなることがあります。したがって、発作の時には、消炎鎮痛剤などで関節炎を治してから、高尿酸血症の治療をゆっくりとスタートさせます。時に痛みがなくなると通院しなくなってしまうケースが見られますが、放置していれば必ず発作は再発し、前述した様に全身に障害が及びますので、くれぐれも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」にならない様にしてください。
図2 食品中のプリン体含有量 ◆プリン体の特に多い食品  牛ヒレステーキ(200g)84.6mg、豚ロースステーキ(200g)79.8mg、カツオ切身(80g)72.2mg、車えび(80g)68.6mg、アジの干物(60g)65.3mg、さんまの切身(80g)54.4mg、まぐろの切身(80g)53.8mg、タラバガニ(100g)47.4mg、ヒラメの切身(80g)46.0mg、まだこ(80g)45.8mg ◆アルコール飲料  ビール大瓶1本32.4mg、日本酒1合2.2mg、ワイングラス1杯1.0mg、ブランデー(40ml)0.2mg、ウイスキー(80ml)0.1mg、焼酎お湯割り1杯0.0mg ◆プリン体の比較的少ない食品  鶏肉ささ身(30g)20.1mg、干し椎茸5個(10g)18.6mg、大豆(20g)16.8mg、かまぼこ4枚9.8mg、精白米(65g)8.2mg、ウインナーソーセージ(30g)5.9mg、えのきだけ(20g)4.9mg、プロセスチーズ(25g)0.7mg
トップへ