健康最前線(No.81)
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今回のテーマ:脂肪肝
 テレビで健康をテーマとした番組が放映されない日がない程数多く見受けられます。どの番組も高視聴率である事から、健康についての関心が非常に高い事が伺い知れます。これらの番組でも現代人は運動不足であることが繰り返し強調されていますが、運動が大切な病気の一つに脂肪肝があります。生活習慣が影響を与える疾患の一つで最近増えてきています。今回は脂肪肝について解説してみたいと思います。
脂肪肝とは:肝臓に脂肪(中性脂肪)が過剰に蓄積された状態で、肝細胞の30%以上脂肪滴が沈着した状態を脂肪肝と言います。フォアグラ(徹底的に餌を与えて肥大させたガチョウの肝臓)という食べ物を想像していただければわかりやすいかと思います。
脂肪が肝臓にたまるメカニズム:食物中の糖質や脂質は、腸で分解・吸収された後、肝臓に運ばれて中性脂肪に合成されます。この中性脂肪はアポ蛋白というタンパク質と結合して肝臓から血液中に放出され、全身に運ばれて主にエネルギー源として利用されます。しかし、糖質や脂肪、アルコールなどを多く取りすぎると、リポ蛋白として運び出されるスピードを超えて中性脂肪が合成され、中性脂肪が肝臓にたまりすぎて、脂肪肝となります。
脂肪肝の原因:脂肪肝の原因としては、大きく分けて2つがあります。まず食べ過ぎや栄養過剰です。肥満に伴うものが多い(体格指数BMIが30以上の場合には可能性大)のですが、肥満の程度が軽くてもしっかり脂肪肝であるケースもありますので安心できません。肥満には皮下脂肪型肥満と内臓脂肪型肥満の2つがありますが、脂肪肝は内臓脂肪型肥満の場合に多く見られます。もう一つは、アルコールの取りすぎです。日本酒を毎日3合以上飲み続けると1〜2年で脂肪肝になると言われています。
症状:脂肪肝の症状としては、通常はなんら自覚症状がなく、会社の健診などで肝機能異常を指摘されて医療機関を受診し、脂肪肝と診断されるケースがほとんどです。
診断:血液検査で、GOTとGPT、それにγGTPなどで軽度の異常値が認められることで気づかれ、腹部超音波検査で診断が確定します(コラム欄参照)。  アルコール性の脂肪肝では、γGTPとGOTの異常が認められることが多いのに対して、糖質や脂肪の取りすぎの場合には、GPTのみの異常が認められる事が多いのが特徴。
治療:脂肪肝は、食事や飲酒、運動不足などのこれまでの生活習慣の結果として生じたものですので、治療はその見直しと是正が基本となります。とりわけ食習慣の改善が大切で、糖質や脂質の取りすぎによる脂肪肝の場合には、同時に肥満にもなっていることがほとんどですので、肥満を解消する事が同時に脂肪肝の治療となります。具体的には、
  1. 適正エネルギー量を守る:1日に必要なエネルギー量は、標準体重(身長(m)×身長(m)×22)に30をかけた値で、男性では約2200Kカロリー、女性では約1800Kカロリーです。肥満の方の場合、この適正エネルギー量を大きく上回ったカロリーを毎日摂取しているので、この適正エネルギー量を守る事が基本中の基本となります。
  2. 栄養のバランスに気をつける:適正エネルギー量を守っても、栄養に偏りがあっては良くありません。脂肪は総エネルギーの20%以下、タンパク質は総エネルギーの25%(体重1Kgあたり1.5g)、残りをご飯などの糖質(ただし、菓子や果物、砂糖などはなるべく控える)とします。その他、ビタミン類やミネラルは肝臓の代謝を円滑に促進する潤滑油の役目をしますので、できるだけたくさん食べるようにこころがけましょう。このように数字で説明しても日常生活でいちいち計る事は現実的ではありませんので、サンプルとなる食事例を参考にして、自分なりの感覚を養う事も効果的です。わかりやすいイメージとしては、ご飯などの主食は毎食茶碗1杯にします。タンパク質は(脂肪を肝臓から運び出すリポ蛋白の原料として大切)、1日あたり、魚1切れ、肉(鶏肉など脂身の少ないものがベター)60g、卵1個、豆腐1/2丁、牛乳200ccを毎日摂るようにします。さらにビタミンやミネラルの補給は、緑黄色野菜や海草類、キノコ類など色々な食品をまんべんなく食べることで達成できます。
  3. 調理法や食べ方を工夫する:同じ素材でも調理法によってカロリーは変わってきます。油を使った揚げ物や炒め物よりも煮物、焼き物、蒸し物の方がカロリーはずっと少なくなります。また、生野菜が良いからと言ってもマヨネーズやドレッシングをかけすぎては何にもなりません。低カロリーのドレッシングがお勧めです。  アルコール性の脂肪肝では禁酒が一番の治療。禁酒が無理なら節酒ですが・・・
  4. アルコールは控えめに:アルコールは1gあたり7Kカロリーと高エネルギーの上に、食欲増進作用がありますので、食べ過ぎを助長してしまいます。さらにアルコールのとりすぎは肝臓に負担となりますので、多くても日本酒なら2合、ビールなら大瓶2本、ウイスキーならダブルで2杯までとし、週に2日は休肝日を作ります。但しアルコール性脂肪肝と診断された方は、お酒の強い方がほとんどで、なかなかこの量を守れない様です。そのような場合には、きっぱりと禁酒した方が良いかもしれません。
  5. 運動:最後に運動療法についてですが、肝臓にたまった中性脂肪を減らすためには、運動によってエネルギーの消費量を高めることが大切です。急激な運動よりも軽めでも持続する運動の方が効果的ですので、やや早足で歩くこと等が一番無難な運動でしょう。
生活習慣の改善で直せる脂肪肝。フォアグラ状態からの脱出に挑戦してみませんか。
脂肪肝の超音波所見:脂肪肝の診断に一番威力を発揮するのが腹部超音波検査で、以下のような所見が脂肪肝の際には認められます。
  1. ブライトリバー:肝臓が白くきらきらと輝いて見える所見の事です。
  2. 肝腎コントラスト:通常は肝臓と腎臓は同じ色調に見えるのですが、脂肪肝では肝臓が明らかに白く見え、この所見を「肝腎コントラスト」と呼びます。
  3. 深部減衰:超音波ビームが脂肪的に吸収されて急速に弱まってしまう所見の事を言います。
  4. 脈管不明瞭化:通常は木の枝のようにはっきり見える血管や胆管がよくわからなくなる所見です。
豆知識:中性脂肪は油ですので血液(水)には溶けません。従って、中性脂肪が血液の中に存在するためにはタンパク質と結合して血液に溶ける状態にならなければなりません。このときに活躍するのがアポ蛋白と呼ばれるタンパク質です。脂肪とアポ蛋白が結合したものをリポ蛋白と呼びますが、中性脂肪の場合には、主に超低比重リポ蛋白(VLDL)となります。一方コレステロールも血中ではリポ蛋白として存在しますが、有名な善玉コレステロールはHDL(高比重リポ蛋白)、悪玉コレステロールはLDL(低比重リポ蛋白)にそれぞれ該当します。
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