健康最前線(No.82)
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今回のテーマ:日射病
夏休みに遊びに行く子供に「帽子をかぶって行きなさい」というお母さんがやさしく声かけるシーンは誰でも経験している事かと思います。これは日射病を心配しての配慮ですが、今月はこの日射病を取り上げてご説明致します。。
熱中症:直射日光下または高温(多湿)の環境下における運動や作業により出現する生体の障害としては、日射病、熱けいれん、熱疲労、熱射病の4つが知られており、これらをまとめて熱中症と呼びます。それぞれの病気の定義については、多少の混乱が認められますが、一般的には、日射病と熱けいれんが体温上昇を伴わない障害、熱疲労と熱射病が体温上昇による組織障害をきたすものと考えられています。
日射病:真夏の強い日差しに長時間さらされていると頭痛・めまい・吐き気、さらには意識障害などの症状が現れます。これが日射病です。人間の体は暑いと汗をかいて、水分とともに体から熱を発散させることにより体温を下げようとします。ご存じのように汗には水分のほかに塩分(正確にはナトリウムやカリウムなどの電解質)も含まれていますので、基本的には、「大量の汗をかいて体内の水分や塩分が失われ、脱水に陥った状態」が日射病です。従って、日射病の多くは主に夏の炎天下で遊んでいるときやスポーツをしているとき、外出中などに起きますが、屋内でも状況によっては大量に汗をかくような状況では日射病の症状が出現する可能性はあります。日射病では通常体温は正常に保たれます。
熱けいれん  手足の筋肉や腹部の筋肉が痛みを伴って発作的にけいれんを起こすもので、大量の発汗による塩分喪失に対して、水分のみを補った場合に見られます。けいれん発作は、運動や作業が終了してからの入浴中や睡眠中に起きることもあります。
熱疲労・熱射病: 車の中置き去りにされた子供が亡くなるといういたましい事件が時に報道されますが、これが熱射病です。医学的には、発汗による脱水に加え、熱産生の増加に放熱反応が追いつかず、うつ熱状態(熱がこもること)により体温調節機能が破綻し、高体温による組織障害が加わったものと定義されます。熱射病は、体温が上がりすぎてしまう事がその本態で、時には41℃以上になることもあり、この点が日射病との大きな違いです。体温上昇が中程度にとどまるものを熱疲労と呼びますが、両者は程度の差があるだけで、基本的には同じものです。  
日射病の応急手当
  1. 「涼しい場所で横にして休ませる」:スポーツをしている時にはすぐにやめさせ、直射日光を避けて木陰などの涼しい場所に移動し、衣服をゆるめ休ませます。
  2. 「水分と塩分の投与」:日射病の本態は水分と塩分が不足することですので、水と同時に塩を与える事が大切です。水分だけですと、体内の塩分がさらに薄まり、熱けいれんなどの原因となってしまいます。両者の割合は水が500ccに対して塩が小さじ1杯程度です。塩分の補給には食塩よりは粗塩の方が含まれているミネラルが豊富なのでできれば粗塩を使ってください。また、10℃位に冷やした水の方が体内への吸収が早い上においしいので好都合です。最近では各種のスポーツ飲料が容易に手に入りますが、スポーツ飲料には塩(ナトリウム)のほかに、必要な電解質が色々と含まれており、水よりも吸収が早いのでそれらを利用するのも良い方法です。ただし、塩分の量が少ないので食塩を足して上げると理想的です。塩分の補給については、必ずしも水に溶いた形にこだわる必要はありません。塩をなめてもかまわないのです。一方、ジュースや清涼飲料水は、糖分の量が多いので胃に長く留まるため吸収が遅く、また多く取りすぎると血液の浸透圧が上がります。このため、組織から血管内へと水分が移動して組織の脱水が一層進みますので、好ましくありません。なお、水分はほしがるだけあげて大丈夫です。
  3. 医療機関へ搬送:はき気で水分が摂取できない場合や、体温上昇などが見られる場合は、熱射病の可能性がありますので、すぐに医療機関を受診して下さい。受診までの間、体を冷やし、水分と塩分を投与する事も大切な事です。もうろうとしている、呼びかけても返事がないなどの意識障害が認められるときには、直ちに救急車を呼んで救急病院へ運ぶ必要があります。
予防対策
  1. 帽子をかぶる:日差しが強いときには、白い色の帽子をかぶることで、強い日差しが直接頭に当たることを防ぐなどの工夫を励行しましょう。
  2. 水分と塩分を十分に補給する:汗をかくような状況でのスポーツや作業時には、こまめに水分の補給を心がけましょう。イオン飲料でもOKですが、塩分が不足気味になりますので、粗塩をなめたり、梅干しを食べたりするとなお効果的です。
  3. 適度な休息をとる:気温・風、晴れ・曇りなどの天候(気象条件)や、体力・体調などによって、どのくらい作業や運動を続けることができるのかは異なりますので、一概に決められませんが、定期的に休息を取ることは非常に大切な事です。つい夢中になって事故につながることのないように気をつけて下さい。
  4. 無理をしない・させない:体調のすぐれないときや、途中から具合が悪くなったときには、無理をしないことが大切です。日射病や熱射病はだんだん具合が悪くなることがふつうですので、早い時点での対応に心がけましょう。
豆知識:人の体と水  人間の体の50〜60%は水です。通常発汗などが起こらない状態でも1日あたり、皮膚から不感蒸泄(汗とは違い水滴と認められないうちに蒸発していく水分)として600ml、肺から呼気中に400ml、腎臓から最小尿流量として500mlの水分が失われ、食物の代謝により約300mlの水分が生じますので、差し引き1200mlの水分がバランスを保つ上で最低でも必要となります。体重の約5%の水分が失われると、皮膚の乾燥や目のくぼみなど脱水の症状があきらかとなり、約10%の水分が失われると血圧低下、ショック、意識障害などの重篤な状態となります。
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