健康最前線(No.84) |
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今回のテーマ:糖尿病(2) |
糖尿病とは 糖尿病とは、インスリン(血液中のブドウ糖を筋肉、脂肪細胞、肝臓などに取り込むために必要なホルモン)が十分に分泌されなかったり、インスリンに対する反応が悪いなどのために血糖値が高い状態が続く疾患です。血糖値の高い状態が続くと全身の細小血管が障害されて網膜症、神経障害、腎症などの合併症が引き起こされます。糖尿病の怖さはこれらの合併症にありますが、その頻度は糖尿病にかかってからの期間が長いほど、また血糖のコントロールが悪いほど高くなりますので、糖尿病の治療は血糖のコントロールを良くして合併症の発生、進行を防ぐことを目的とします。 では、生活習慣の見直しという観点に特に注目して、糖尿病の治療について考えてみたいと思います。 |
■食事療法:糖尿病の治療の中で最も基本となるのが食事療法です。食事療法なしでは糖尿病の治療は成り立ちません。適切な食事の量とバランスを守り、吸収されるブドウ糖の量を減らすことによって、インスリンの必要量が減り、膵臓への負担も軽くなり、インスリンの働きもよくなります。食事療法は基本的に一生続けるものでので、十分に理解して継続する事が大切です。薬物療法に頼って食事の注意をおろそかにすると薬の効果が打ち消されてうまくコントロールすることができなくなります。
- 適正エネルギー量を守る:まず、はじめに、自分がどれだけ食べてよいのか(適正エネルギー量)を知ることからスタートします。身長(m)x身長(m)x22で求められる標準体重に25〜30を掛けたのが適正エネルギー量です。たとえば、身長165cmの方でしたら、1.65x1.65x22x25〜30=1500〜1800キロカロリとなります。力仕事の方は35〜40を掛けてください。
- 栄養のバランスをとる:三大栄養素(糖質・たんぱく質・脂質)の割合ですが、1日のエネルギーの約半分を糖質(ご飯・パン・うどん)でとります。残りの半分(全体の1/4)をたんぱく質(肉・魚・卵など)とし、残り(全体の1/4)を脂質、野菜、果物、乳製品に割り当てます。また栄養の偏りを防ぐために、1日30種類以上の食品を取ることを目標にしましょう。
- 規則正しく食事をとる:食事はほぼ決まった時間に1日3回摂取しましょう。それにより血糖値の変動リズムが整えられます。また、夜遅くの食事は良くありませんので、遅くても9時位までには終わるようにして下さい。
- 脂質の取りすぎに気をつける:脂質はカロリーが高い上に、インスリンの働きを妨げますので、とり過ぎないように注意しましょう(特に動物性の脂肪)。
・野菜、海藻類、きのこ類を積極的に 野菜や海藻類にはビタミンやミネラルが豊富に含まれています。また、海藻やきのこ類などは食物繊維が多いため吸収が遅く、食後血糖値の上昇を緩やかにしますのでたくさん食べてください。
- 間食は注意して:一般に間食は、三度の食事以外に高カロリーの余分なもの(お菓子など)を食べるので「いけない」と言われますが、適正エネルギーの範囲内で食べる分には問題ありません。食後に食べる予定の果物や乳製品を食後には食べずにおやつとして摂取する事は、1回の摂取カロリーをむしろ減らして、食後の高血糖を防ぐ事になりますので、好ましい事言えます。
- 砂糖・果物はほどほどに:ご飯も砂糖も同じ糖質ですが、ご飯などに含まれる糖質はでんぷんですので、吸収されるまでには時間がかかります。一方、砂糖は消化吸収が速いために血糖値を上昇させやすいので、できるだけ控えましょう。同様に果物に含まれる果糖も吸収が良いため、とり過ぎると急激に血糖値が上がりますので注意してください。
- お酒は控えめに:糖尿病にはウイスキーが良いという話を時々聞きますが、何を飲んでも同じです。日本酒は75ml、ビール200ml、ウイスキー35mlが1単位(80キロカロリー)です。特にアルコールを止められていない場合には、1日2単位を上限として飲んでもかまいません。なお、酒の肴には塩分やカロリーの高いものが多いので、気をつけましょう。
- ゆっくり食事する:急いで食事をすると急激に血糖が上昇します。インスリンの分泌に問題がある糖尿病の方では食後の血糖値が上昇しやすいので、ゆっくり食事をすることが血糖コントロールのためにはかなり効果がありますので、お試しください。
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■運動療法:運動療法も食事療法同様、糖尿病の治療にとっては欠かす事はできず、よく車の両輪にたとえられます。運動をすると血液中のブドウ糖が効率よく消費され、血糖値が低下します。さらに運動により肥満が解消されると、インスリンに対する組織の感受性が高まり、インスリンの効きがよくなります。
糖尿病に有効な運動は糖質と脂肪の両方を消費する有酸素運動(ウォーキング、水泳、サイクリングなど)です。運動をはじめると最初に糖質が使われ始め15分ぐらいすぎると脂肪が燃焼し始めますので、ややきついと感じる位の運動を20〜30分、できれば毎日、少なくとも週に2〜3回は行ってください。血糖値の上がる食後1〜2時間頃に行うのが効果的で、空腹時や食直後は避けましょう。ちなみに80キロカロリーを消費する運動時間は、ウォーキングで20分、水泳で11分、サイクリングで15分位です。 |
■薬物療法:食事療法や運動療法を適切に行ってもコントロールが不良の時には、薬物療法を行います。薬物療法には、インスリンの抵抗性を改善する薬やインスリンの分泌を促進する薬などが用いられます。どの薬剤を使用するかは、体格指数や年齢、インスリン抵抗性の有無などをチェックして決定されます。 |
■治療目標:血糖値のコントロール状況を1〜3ヶ月毎(間隔は重症度により異なる)にチェックする事が必要です。コントロールの目標は、空腹時血糖が110以下、食後2時間の血糖値が180以下、ヘモグロビンA1cが6.5以下です。自己判断せずに、客観的なコントロール指標に基づいて自分の生活習慣を見直し日々精進する事が、健康年齢の確保の最良の方法と思われます。 |
◆血糖、血圧コントロールによる変化:糖尿病の患者さん5100人を過去10年間のヘモグロビンA1cの平均が7.0のグループと7.9のグループに分けて10年間追跡調査をして比較すると、7.0のグループでは糖尿病関連の死亡が25%減少するほか、細小血管症の発生が35%、心筋梗塞の発生は18%、脳卒中の発生は15%減少します。さらに、収縮期血圧が150以上と130以下のグループに分けて比較すると、130以下のグループでは糖尿病関連死が38%、細小血管症の発生が37%、心筋梗塞の発生が21%、脳卒中の発生が44%、いずれも大幅に減少します。つまり、血糖値や血圧をコントロールすると合併症や糖尿病関連死の発生がかなり減らせることがわかりました。 |
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◆低血糖について:血液中の糖の濃度(血糖値)が70mg/dl以下になると、動悸がする、手がふるえる、眼がチカチカする、冷や汗をかくなどの症状があらわれ、そのまま放置して進行すると意識障害に陥る事があります。このような状態を低血糖と言います。低血糖を防ぐためには、低血糖の症状についてよく理解(症状には個人差がありますので、いつもと違う時には低血糖ではないかと考えてみる事が大切)しておくことが必要です。低血糖の症状が起こった時には、砂糖やジュースのような甘いものやブドウ糖をすぐにとって血糖を上げるようにします。さらに主治医にそのことを報告して原因を追求し、繰り返さない様に対策を講じなければなりません。 |
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