健康最前線(No.89)
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今回のテーマ:麻疹
東京を中心として、高校や大学、成人の間で麻疹(はしか)が流行し、一流新聞の社説でも取り上げるほど注目されています。そこで、今回は麻疹についてまとめてみました。
 ◆麻疹とは、麻疹ウイルスによる感染症です。感染力が非常に強く(空中に浮遊している時間が長いため、その感染力はインフルエンザ以上)抗体を持っていない人では麻疹に罹患した方と接触するとほぼ100%発症します。麻疹は発症後、診断が確定するまでに3日前後かかりますので、麻疹を発症したと気づかずに接触して感染が拡大していきます(右図参照)。また、麻疹では約30%に肺炎や中耳炎などの合併症が出現し、1998〜1999年の沖縄の流行では約2000人が罹患し8人が死亡しています。修学旅行先で罹患し、亡くなった福島県浜通りの中学生のニュースはまだ記憶に新しいところです。
 麻疹ワクチンの効果 日本で使用されている麻疹ワクチンは非常に優秀で、その効果は95%以上と考えられております。数%の確率で、ワクチンを接種しても十分な抗体が得られない事があります(一次ワクチン不全)が、ワクチンを接種していれば麻疹にはほぼ罹患しないと考えて良いと思います。しかし、麻疹のワクチン接種によって十分な抗体が獲得できても、その効果は次第に弱くなっていきます。通常は、麻疹ウイルスに時々接触する事で、その都度、麻疹に対する免疫がより強くなる(ブースター効果)のですが、麻疹の発生頻度が低下した近年では、ブースター効果が得られないため、ワクチンの接種から10年以上経過すると麻疹への免疫力が低下している事が多く、麻疹にかかってしまう(二次ワクチン不全)ことがあります。今回の流行は、ワクチン接種は受けている世代の高校〜大学生を中心に発生していますので、二次ワクチン不全による流行と考えられます。2001年、沖縄のある病院で、10ヶ月の間に経験した345名の患者さんの予防接種歴についてのデーターがあります。345名中、15歳以上は111名で、予防接種歴があるにも関わらず麻疹に罹患した人の割合は下表の通りで、全体では42%、18〜21歳に限定すると47%でした。つまり、約半数は予防接種を受けていても麻疹に罹患してしまいました。また、2001年に大阪で行われた調査でも、麻疹抗体の保有率が0〜4歳97%、5〜9歳92%、10〜14歳86%と年齢と共に低下していく事が確認されています。
2001年沖縄における麻疹流行時にワクチン接種歴(+)の比率 15歳:7名中2名=29%、16歳:13名中5名=38%、17歳:11名中4名=36%、18歳:6名中3名=50%、19歳:17名中9名=53%、20歳:8名中3名=38%、21歳:5名中2名=40%、22歳:4名中2名=50%、全体:71名中30名=42%、18〜21歳:36名中17名=47% (具志一男 2001年、麻疹奨励について 沖縄医報(Vol38 No.8 2002)
 日本の麻疹発生状況とワクチン接種法の改正 2001年の全国的な流行以降、麻疹ワクチンキャンペーンの効果により患者報告数は激減し、2004年以降はすべての都道府県で大きな流行は認められなかった事から、今回の流行の様に、麻疹ワクチンの1回接種では二次ワクチン不全のために麻疹にかかってしまう事が防げないため、2006年から日本でも欧米にならい、乳幼児と小学校入学前の2回、ワクチンを接種する事に改められました。 しかし、2回接種以前の年代のお子さん(小学生〜大学生まで幅広く存在します)に対する対策は何もとられておらず、今回の流行は2回接種の導入が遅れた厚生行政の不手際と非難されても反論はできないでしょう。
 麻疹にかからない様にするには 
  1. まずは、乳幼児期にワクチンを接種することが最も大切な事です。最近は、公費で接種できる期間 が大幅に狭められていますので、定められた期間に忘れずにワクチンの接種を受けてください。
  2. 次に、乳幼児を除き、どんな人がワクチンを受ければ良いのかについてですが、実際に麻疹にかかった事が明らかな人は、強い免疫を持っていますので予防接種は不要です。ただし、麻疹と風疹(3日はしか)を混同している方がいますので、不確実な場合には後述する抗体測定が必要です。
  3. 日本で麻疹の予防接種は、昭和44年に任意接種が開始(接種率約30%)され、昭和53年に定期接種(接種率60〜70%)となりました。従って、30歳以上の方達はワクチンの接種を受けていないのですが、国立感染症研究所の発表した年齢群別麻疹抗体保有率(左図)によると、予防接種が始まる1歳代で95%以上となり、その後緩やかに上昇して40歳代以降はほぼ100%となっております。40歳以上の方は、麻疹が流行している時代を生きてきた方達で、自然罹患により抗体を獲得したものと思われますので、ワクチン接種は不要でしょう。30歳代の方は、ワクチンの接種を受けておらず、かつ、麻疹に罹患する可能性も徐々に低くなっている世代ですので、麻疹の抗体を測定し、低値であれば接種を受ける必要があります。
  4. さて、30歳未満の方ですが、多くの方はワクチンを受けています。しかし、接種後10年以上が経過し、その間にブースター効果が期待できない世代でもあります。30歳代と同様、抗体価を測定し、低ければ接種するでもOKですが、沖縄のデーターを参考にすれば、二度目の接種を受けるべきでしょう。もちろん、ワクチンを一度も受けていない方は接種が必要である事は言うまでもありません。
 緊急の対策 麻疹にかかったことが無く、一度も予防接種もうけてない人でも、麻疹患者に接触したら、直ちに(遅くとも72時間以内)緊急予防接種を受ける事で発症を防ぐ事ができる事が知られていますが、いつも間に合うとは限らず、また、今回の様にワクチンの入手が非常に難しい状況もありえますので、やはり普段から十分な備えをしておく事が大切です。
 1歳未満の場合 乳児のお母さんからもらった免疫は徐々に減ります。免疫の残り具合は人により異なり、6〜8ヶ月では10人中6人、11ヶ月では10人中9人が感染すれば発病します。流行の状態によりますが、お住まいの地域で麻疹流行している場合には、9ヶ月以上の子は受けたほうがよいでしょう。6〜8ヶ月は身近に麻疹発生の情報を聞いたらすぐ接種。保育園など、集団生活をしている人は、できれば接種しておいた方が良いでしょう。ただし1歳未満の接種は任意接種となり、1歳後に再度定期接種を受ける必要があります(1歳未満での接種では、抗体価が長期間維持されないためです)。
  その他の注意点 なお、過去にかかった人や既に感染している人が予防接種をしても、問題はありません。また、6ヶ月未満には予防接種の適応はありません。
 麻疹に対する免疫の有無 予防接種を受けたかどうか、麻疹にかかったかどうかはっきりしないという方が、麻疹に対する免疫を有するか否かは、血液検査で抗体を測定する必要があります。抗体検査は自費診療となりますので、費用は4000円位です。
 参考となるサイト
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