健康最前線(No.90)
もどる
今回のテーマ:内科健診
毎年学校では、健康診断が行われます。学校における健康診断は、明治31年に身体検査と言う名称でスタートし、戦後昭和33年に児童生徒の健康状態の把握を目的とした健康診断と変更になり現在に至っております。この健康診断は、学校教育の円滑な実施とその成果を図るという健康管理的な側面を持つと同時に、児童・生徒に心身の健全な発達や健康の保持増進などについての関心を高めるという教育的な側面を併せ持ったものです。その内容は身体計測、視力・聴力の検査から耳鼻科・眼科・歯科・内科検診、結核検診、心臓検診、腎臓検診と多岐にわたっております。今回はこの健康診断についての理解を深めていただくために、内科検診の際に指摘される事の多い項目について、その一部をご説明したいと思います。
栄養状態:栄養不良が指摘される事はほとんどなくなりました。逆に増えているのは肥満です。幼児の肥満と違い、学童の肥満は肥満に基づく健康障害(肥満症)につながりやすい上、高率に成人肥満に移行しますので管理・是正が重要です。
脊柱・胸郭の異常:特に側弯症(背骨が左右どちらかにゆがんで曲がっていたり、ねじれをともなっていたりする病気)が大切です。早期に診断をして治療をしなければ、生涯にわたり脊柱の変形を残し、高度のものは心肺機能の異常、肩こり、腰痛の原因となることがあるので注意が必要です。
 漏斗胸は、みぞおちの上が凹んでいるもの、鳩胸は逆に盛り上がっているものです。いずれの場合にも極端な変化で無い限り美容上の観点から問題になる位ですが、矯正を希望する場合は早めに医療機関でご相談下さい。
甲状腺腫:のどぼとけの下に甲状腺があります。甲状腺が腫れている時には、バセドウ病や橋本病などの甲状腺疾患がないかどうかの精査が必要となります。
貧血・黄疸:眼瞼結膜や眼球結膜の所見からこれらの異常が指摘されることがあります。異常を指摘された場合には、血液検査を行います。
アレルギー性鼻炎・結膜炎:アレルギー性の鼻炎や結膜炎は、花粉や室内塵(ダニ・カビ)などの異物(抗原)に対する抗体を持っている人に、これらの原因物質が侵入した際に、鼻や眼で抗原抗体反応が起こることに起因する疾患ですが、環境要因の変化とともに年々増加の一途をたどっています。最近ではこの病気に対する関心も高く、すでに医療機関ではっきりとした診断を受けているケースも少なくありません。鼻汁・鼻閉・くしゃみなどの症状は学業の妨げとなりやすいので、疑いがある場合には、早い段階で正確な診断を受ける事が望まれます。完治させる方法はまだ見つかっていませんが、予防対策と服薬によりそのコントロールは難しくありません。
扁桃肥大:扁桃肥大は、扁桃の咽頭腔にしめる割合が外見上大きいもので、学校検診時に指摘される代表的な所見の一つです。通常肥大の程度は右図に示したマッケンジーの分類で表現されますが、右側に示されている様に14歳でも生理的な肥大としてU度までは正常範囲として認められますので、肥大があればすべて異常ではなく、下記の様な症状が認められる場合には、精査・加療が必要となります。
  1. 扁桃炎で高熱を出すことが年に4〜5回以上ある
  2. 睡眠時に呼吸が何回も止まる
  3. ひどいいびきをいつもかく
  4. 食物、特に固形物を飲み込むのに苦労をする
  5. 発音が不明瞭などが認められる
リンパ節腫大:リンパ節は正常でも頸部、耳の後ろ、後頭部などで触知されますが、発熱などの症状がなく、押しても痛くなく、大きさが枝豆位までは、リンパ節の正常活動範囲内の事が多く、心配いりません。圧痛があったり、痛みがない場合でも、枝豆よりも大きくなった場合には、精査を受ける必要があります。
皮膚科的疾患:生活環境の変化などによって乾燥肌(アトピー皮膚、皮脂欠乏症)のお子さんが非常に増えています。アトピー性皮膚炎はすでに治療を受けている場合がほとんどですが、乾燥肌は放置されているケースが少なくありません。かゆみを伴っている場合には、学業への悪影響も考えられ、ひっかく事で悪化しますので、皮膚を清潔に保ち、保湿剤を使用するなど、適切なスキンケアーを是非行ってください。
 次に良く問題となるものに伝染性軟属腫(みずいぼ)があります。ウイルスが原因で起こる疾患で、自然治癒するものの半年から1年かかります。ひっかいているうちに増えていきますので、数が増える時には摘除をおすすめします。タオルやビート板の共有などで接触感染の可能性はありますが、プールで水を介して感染することはありません。
 このほかに、伝染性膿痂疹(とびひ)、体部白癬(ぜにたむし、はたけ)、頭しらみ、接触性皮膚炎、円形脱毛症などが時にみられますが、いずれの場合にも適切な治療が必要ですので、早めに医療機関を受診しましょう。
心臓の疾患:先天性の心疾患は、通常小学校入学前に発見され、すでに必要な治療を受けており、代表的な後天性の心疾患であるリウマチ性心疾患は最近ではみられなくなりました。内科検診で心雑音を指摘されるほとんどの例は、無害性(機能性)の心雑音です。無害性心雑音は放置しておいてかまいませんが、心臓弁膜症の疑いのある場合には、精査をおすすめすることもあります。なお、心電図検査で見つかることが多い各種不整脈や心筋疾患(特に肥大型心筋症)の疑いなどは、すぐに専門医での検査を受けて下さい。
呼吸器疾患:学校検診で一番多いのは、やはり喘息や喘息性気管支炎でしょう。すでに診断され治療を受けている事がほとんどですので、そのまま治療を続けて下さい。 喘息の診断がはっきりついている場合を除いて2W以上の咳が続いている場合、結核の可能性を除外する必要があります。小中学でのツ反、BCGが廃止されていますので、長引く咳が見られたら、医療機関を受診してください。ごく希にですが、結核もまだみられていますので要注意です。
起立性調節障害:10歳前後から高校生ぐらいまでに見られる自律神経の失調による疾患で、起立負荷に対する循環器系の反応や調節障害により、種々の症状を認めるものです。診察で診断されるというよりは問診項目で、「朝なかなか起きられず調子が悪いために学校を休むことがある、立ちくらみが良くみられる」などの症状からこの疾患を疑うことが診断のきっかけとなります。このような症状がある場合には、起立試験を行う必要があります。
 学校検診が意義のあるものとなるためには、検診の事後処理がより重要です。忙しいからと放置される事も少なく無い様ですが、検診を無駄にせずに、悪化してから重い腰を上げる事無く、精査を勧められた場合には、できるだけすみやかに医療機関を受診して、早期診断・早期治療の機会を逃さないようにしたいものです。
トップへ