健康最前線(No.91)
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今回のテーマ:スキンケアー
乳児検診や学校検診をしていると、以前よりも乾燥肌のお子さんの割合が多い事に驚かされます。一方、60歳以上の方でも、冬には95%以上の方がドライスキン(皮膚が乾燥した状態)になり、そのうち半数以上の方がかゆみを訴えるという調査結果も報告されています。 老人性皮膚掻痒症もアトピー性皮膚炎やアトピー皮膚も、スキンケアー(皮膚のお手入れ)によって乾燥している皮膚に潤いを与えることが非常に大切です。スキンケアーと一口で言っても、種々の注意点がありますので、今回はスキンケアについてまとめてみました。
正常な皮膚とは:皮膚は、体の表面から「表皮」、「真皮」「皮下組織」という構造になっています。 さらに「表皮」を細かく分けると「角質層」「透明層」、「顆粒層」、「有棘層」、「基底層」という順番に層状になっており、一番下の「基底層」で、血液で運ばれてきた栄養分をもとに基底細胞が、新しい細胞を次々に作り「有棘層」、「顆粒層」へと順番に押し上げて、一番上の角質となります。

保湿のメカニズム:角質細胞同士の隙間は、セラミドと呼ばれる細胞間脂質で埋められており、このセラミドに水分が蓄えられています。アトピー性皮膚炎の方は、このセラミドの量が少なく、また加齢と共にセラミドの量が減少します。さらに、角質層の表面には、毛穴の横にある皮脂腺から分泌される脂分と汗腺から出る水分(汗)とが混じりあって皮脂膜が形成され、水分の蒸発を防いでいます。皮脂の分泌は、女性では40歳代、男性でも50歳代を過ぎると低下してきます。このほか、角質層内には、水分保湿成分である天然保湿成分(ナチュラルモイスチュアライジングファクター)がありますが、同様に加齢とともに減少します。
冬のお肌のトラブルの原因について:冬は空気の乾燥の他に、気温が低い事や、皮脂の分泌量が夏の半分以下になるという悪条件がそろっています。密閉度の高い締め切った部屋でのエアコンやクリンヒーターによる暖房によって、室内の湿度がさらに下がり、暖房の効いた室内と寒い室外を出入りするのですから、お肌に良いはずがありません。また、低温のために血液の循環が悪くなり、皮脂や汗の分泌量が減少しますので、皮脂膜も失われやすく、角質層の水分の蒸発に拍車がかかり、肌が乾燥した状態になります。皮脂膜が減少してくると、当然角質層以下が刺激を受けやすくなり、微生物等の異物の侵入を容易にします。異物が侵入すると、アレルギー反応などが起こって皮膚炎を生じ、かゆみを起こす物質が産生されてかゆみが生じます。そこを掻く事により皮膚炎がさらに悪化します。
夏のお肌のトラブルについて:夏は冬と違って高温多湿になりますので、一般に乾燥肌の程度が軽くなりますが、油断は禁物で、汗と汚れにより皮膚の状態が悪化するケースが時にみられます。夏には、発汗対策と汚れを放置せずに皮膚を清潔に保つ事が大切となります。具体的には毎日の入浴と汗をかいたらシャワーを浴びる生活習慣を確立する事が望ましいライフスタイルです。また、紫外線対策も重要で、アトピー性皮膚炎が日光により増悪する場合もありますので、そのような時には日焼けをさける、サンスクリーンを上手に使うなどの対策が有効となります。
乾燥肌対策:ドライスキンの本態は、保湿能の低下による角質水分量の低下ですので、その対策としては、水分の補給、脱脂の抑制、保湿成分の補充があげられます。このためには、毎日欠かさずにスキンケアーを行うと同時に日常生活習慣の是正が大切となります。
入浴について 
  • 皮膚の汚れや汗は皮膚炎のもととなり、かゆみを増しますので、皮膚を清潔に保つことは、スキンケアーの大切なポイントの一つです。しかし、熱いお湯はかゆみを増しますので、ややぬるめのお湯を使います。また、あまり長く入ることも感心しません。皮膚がふやけてしまうような長湯はさけましょう。
  • 次に汚れの落とし方ですが、皮膚の汚れの多くは皮脂膜に紛れ込んでいるため、皮膚を清潔にするためには、石鹸やシャンプーを使って皮脂も一緒に洗い流すことが必要です。しかし、汚れは角質をはがさなくても除去できますので、ナイロンのタオルやブラシを使っての垢こすりは、必要ありません。直接手を使ったり、お肌にやさしい素材のもので石けんを泡立てて、やさしくなでるように洗ってください。それでもお肌の汚れは充分に落ちるのです。髪を洗う時も、爪を立ててゴシゴシはいけません。指の腹の部分を使って、頭皮を傷つけないように気をつけてください。
  • 入浴によって皮膚に水分が浸透していくと、皮膚は潤いを取り戻しますが、そのままにしておくと、水分が蒸発して再び乾燥した状態に戻ってしまいます。そこで、後述する保湿剤を塗って脂分を補い、バリアを作っておく事が大切です。
  • 石鹸は、肌に合わないものでなければ、普通のものでかまいませんが、あまり洗浄力の強いものは脂分を除去しすぎますし、香料などの添加物の多いものは、刺激になる可能性がありますので避けた方が無難でしょう。また、十分にすすいで、石鹸やシャンプーが残らないようにする事も大切です。
  • 保湿効果のある入浴剤の使用は、全身にくまなく影響が与えられるので合理的な方法ですが、効果の有無には個人差がありますので、試してみる価値は十分あります。かぶれたり、使用後皮膚の状態が悪化する様な時にはもちろん使用中止です。
生活環境への注意:日常生活に関する工夫では、部屋の温度や湿度を適度に保つことがまず上げられます。暑いとかゆみが増しますので注意してください。また、加湿のしすぎは結露を招き、カビやダニなどを増やす原因となりますので、気をつけましょう。また、肌着は刺激の少ない木綿の肌着がおすすめで、かゆみ刺激の強いウールのセーターなどは、肌に直接触れないようにしましょう。さらに髪は顔や首に掛からないように工夫をしたり、寝ている間に無意識に掻いてしまっても傷が付きにくいように爪を短く切ってヤスリでなめらかにしておくなどの対策も有効です。
保湿剤:現在使用できる保湿剤には、右表の様に色々なものがあります。
保湿効果 保護効果 機能回復効果
セラミド
ヒルドイド × ×
白色ワセリン ×
尿素製剤 × ×

どれが良いかは、個人差が大きく、実際に使ってみないとわかりません。最も大切なことは、毎日お風呂上がりを中心にお手入れを続けることです。入浴後の15分位は、皮膚に十分な湿り気がある状態なので、透過性も良くスキンケアーのゴールデンタイムです。また、塗る回数も大切で、乾燥の程度や季節によっても変わりますが、入浴後のお手入れのみで皮膚のカサカサ状態が改善されない時には、もう少し回数を増やしてみましょう。皮膚のお手入れは毎日が原則です。気が向いた時だけ塗るのでは、効果も期待できません。1日4回まで増やしてもあまり変化が認められない場合には、保湿剤を変更したり、生活習慣に問題がないかチェックをするなどの対応が必要となります。
ちょっとした工夫と努力を積み重ねる事で乾燥肌は克服できます。がんばりましょう。
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