健康最前線(No.94)
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今回のテーマ:風邪の予防
感染経路 風邪の予防対策は、まず、普通感冒やインフルエンザがどのようにして感染するのかを知る事が大切です。どの様にして感染するのかによって、その対策が変わってくるからです。普通感冒もインフルエンザも気道感染を起こすウイルスに分類され、感染経路には、飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)、接触感染(直接,間接)の3つのパターンがあります。
  • 飛沫感染=咳やくしゃみをした際に、飛び散る水分を含んだ微粒子(直径5ミクロン以上)を飛沫といい、これによる感染が飛沫感染です。飛沫感染は粒子が大きく、すぐに落下する事から、近距離でくしゃみや咳を直接あびた時に問題となります。
  • 飛沫核感染(空気感染)=飛び散った微細粒子が空中でそのまま乾燥したり、いったん付近のものに付着した後、乾燥して水分を含まない微粒子(直径5ミクロン以下)になったものを飛沫核と言い、それが感染源となるのが飛沫核感染です。2ミクロン以下の飛沫核は長時間空中をただよう事ができるため、同じ部屋に一緒にいるだけで感染します。インフルエンザでは、飛沫感染のほかにこの飛沫核感染も主要な感染ルートです。
  • 接触感染=ウイルスが付着したドアノブや手すり、電車のつり革などに触れた手で鼻を触ったり、握手やキスなどで直接触れる事によって感染するのが接触感染です。普通感冒の原因として知られるライノウイルスでは、飛沫感染よりもこの接触感染の方が多いと考えられています。.

 このように普通感冒とインフルエンザでは、感染経路に違いがあるため、両者は分けて考える必要があります。以下、一般的に有効と思われている風邪の予防法について、この感染経路を踏まえて考えてみます。
うがいの風邪(普通感冒)予防効果:京都大学保健管理センターの川村先生が2003年に行った調査で非常に興味深い事が判明しました。全国、18地域で、うがいの風邪予防効果を調べたところ、うがいをしなかった群が1ヶ月で100人あたり26.4名が風邪をひいたのに対して、水うがい群では17人、ヨードうがい群では23.6人でした。この結果を統計学的手法で解析すると、水でうがいをした場合には、うがいをしない場合に比べて40%も風邪の発症が抑制されたのに対して、これまで効果があると思われていたヨードうがい群では、意味のある抑制効果は認められませんでした。ヨードはウイルスを不活化しますが、のどの粘膜細胞や正常の細菌叢にも影響を与えてしまう事が、風邪の予防効果にマイナスの影響を与えたのかも知れません。最近、傷の治療にも、消毒剤は使わない方が良いと言われている事とあわせ、興味深い報告です。
うがいのインフルエンザ予防効果:インフルエンザのウイルスは気道の粘膜に取りつくと数分〜20分で細胞の中に取り込まれてしまいます。また、インフルエンザのウイルスは、のどの粘膜よりも鼻の粘膜から高頻度に検出されます。うがい自体には効果があったとしても、20分おきにうがいをすることは現実的とは言えず、また、鼻粘膜はうがいで洗うことができませんので、残念ながらインフルエンザに対するうがいの効果は限られていると言わざるをえません。
エキスによるうがいのインフルエンザに対する効果:冬季5ヶ月間、0.5%紅茶エキス(市販の缶入り紅茶の濃度は0.5%)による1日2回のうがいを行い、試験前後での血中インフルエンザ抗体価の測定を行った実験があります。抗体上昇率は、対照群の48.8%に対して、うがい群で35.1%と低く、この論文の著者らは紅茶エキスによるうがいは有効であると結論づけています。ただし、この報告ではうがい群と対照群の年齢やインフルエンザワクチン接種率などを同じくしていないために、この論文を根拠にして、紅茶によるうがいが有効と断定するのは難しい様です。なお、紅茶に含まれるカテキンは、ウイルス粒子のHAと呼ばれる突起に結合してウイルスが細胞への吸着するのを阻止すると言われています。
マスク:咳1回で約10万個、くしゃみ1回で約200万個のウィルスを含んだ飛沫物が、くしゃみでは約3m、咳では約2m先まで放出されます。通常のマスクは、ウイルスを含む飛沫物を完全にブロックする事はできません(下表参照)が、咳やくしゃみでばらまかれる範囲を狭くしたり、ある程度捕捉する効果はあり、ウイルスの侵入を約3割減らすと言われています。また、ウイルスが付着した手で口や鼻を触る機会を減らしたり、吸気に湿気を与え、吸気の温度を上昇させる効果などもあります。したがって、不織布製のマスクであれば、そこそこの効果は期待できると思われます。医療用のN95マスク(つけると少し息苦しい感じがします)であれば、飛沫核物質もブロックできますが、きちんとフィットさせて長時間使用する事は密閉感や不快感が強いため、日常生活で使う事は難しいと思われます。また、飛沫核物質は顔や髪や手などにも付着しますので、マスクの扱いや外した後の対応にも配慮が必要です。
マスクの種類 捕捉粒子の大きさ 捕捉可能粒子 効果
ガーゼマスク・紙マスク ほとんど捕捉不可 ほぼ通過 保温・保湿以上の効果は期待できない
不織布製マスク 5ミクロン以上 飛沫物 飛沫感染をある程度防げる
N95(医療用)マスク 0.3ミクロン以上 飛沫核物質 飛沫核感染にも効果が期待できる
ナノマスク 0.03ミクロン以上 ウイルス インフルエンザウイルス(0.08〜0.12ミクロン)も通過させない
手洗い:普通感冒の代表的な原因であるライノウイルスは、付着した器具の上で数時間〜数日生存可能で、接触感染が主たる感染経路である事がわかっていますので、特に効果が期待できます。インフルエンザウイルスも飛沫や飛沫核の形で、手や顔、衣類等にも付着しますし、カラオケボックスのマイクや電車の吊革、手すりなどには非常に多数のウイルスが付着しています。それらに触った手で目をこすったり、鼻をいじったりすることも感染経路の1つですので、帰宅後に石鹸で手や顔を洗うことは、一般に考えられているよりも効果的と思われます。
加湿:風邪のウイルスの中でも、冬に流行するインフルエンザウイルスなどは湿度に極めて弱い性質がありますので、部屋の湿度を上げることは、インフルエンザの予防に非常に効果的です。冬は湿度が下がっている上に、クリーンヒーターなどの普及、住宅事情の変化により冬の一般家庭の部屋の湿度は非常に低くなっておりますので、加湿器や洗濯物を室内に干すなどで、お部屋の湿度を上げる努力をする事をお勧めします。一方夏に流行するウイルスは、高湿度が大好きですのでご注意下さい。ちなみに、普通感冒の代表的な原因であるライノウイルスは50%以上の湿度で良く生存する事がわかっています。
保温:寒いところでは、鼻やのど、気管などの血管が収縮して線毛の動きが鈍くなります。線毛はウイルスや細菌の侵入をできるだけ少なくする働きをしますので、線毛の働きが悪くなるとウイルスが侵入しやすくなります。したがって、保温は風邪の予防に十分価値があると言えます。ただし、暖めすぎは逆効果ですし、湿度に影響しますのでご注意下さい。
ビタミンC:ビタミンCの風邪に対する予防あるいは治療効果は、多くの報告がありますが、これらの報告を総合すると、冬の数ヶ月間に毎日1g以上摂取しても、普通感冒の罹患回数は減らなかった。ただし、感冒による有症状日数を若干短くする効果は認められた(1回の風邪で0.44日短縮)となる様です。
人混みを避ける:人が多く集まる所では、中には風邪をひいている方もいるわけですので、風邪のウイルスに接触する機会が多くなります。ですから、できるだけ感染の機会を減らすために、人混みを避け、またそのような場所から帰ったら、上述のように手洗い、うがいなどを励行する事は、風邪の予防に効果的です。
その他:風邪の治療は、安静、保温、栄養、水分の補給が大切と言われます。無理をしないで、十分な睡眠をとり、栄養のバランスを考慮した食事は、基本的な対策として必要な事は言うまでもありません。強いストレスは、リンパ球を抑制して、免疫を低下させますので、ストレス発散を上手にする事もお忘れなく。
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