土川内科小児科ニュース  10月号  No.9 もどる

  今月のテーマ:健康保険法 

治療費のことを心配しないで誰もが具合の悪いときに医療機関にかかれるようにと作られたのが、医療保険制度です。この制度は国民すべてが保険を使って平等な治療が受けられる、諸外国にも誇れる制度だと思います。ところが、高齢者社会を迎え、毎年の医療費の増加で、医療保険財政の危機を理由に、9月1日から、患者さんの医療費自己負担のみを引き上げる医療制度の改訂が実施されました。今回は、この問題について考えてみます。

高齢化が進めば、疾患を持ったお年寄りが増えるのは当然で、医療費の自然増を医療保険財政の危機と考えることにも問題があります。また、今回の改訂は患者さんの自己負担のみを引き上げたその場限りの改正(悪!)で、もちろん医療費そのものはあがっていませんし、薬代の負担分も診療所や病院の収入増となるものではありません。医療機関の収入は今までと同じで、これまで保険機関から支払われていた医療費の一部を患者さんから直接いただくように変わっただけです。今回の改訂で私が特に問題にしたいのは、薬の数により負担額が変わることです。これはきわめて不自然なことで、薬代に自己負担を求めるのであれば10%とか20%とか定率であるべきです。薬の種類が多いことを一律に悪いと決めてかかり、罰則でも与えるようなとても変な制度です。それも数年後には薬の価格設定に遅ればせながら重い腰を上げるそうで、今回の改訂はそれまでのつなぎと言われています。元々自分たちで変な価格制度にしておきながら、そのつけを一方的に国民に押しつける、今回はそんな矛盾に満ちた改訂を含んでい るのです。以前から指摘しているように日本の薬の価格(薬価)には問題が多く、新薬は非常に高(すぎる)いのに対して、古くなると良い薬でも安くなるために、作るのをやめてしまわざるを得ない(?)。今回も日本中で使われている麻酔薬が製造中止になるそうです。変わるものがないのに何を考えているのか。製薬メーカーも企業である以上採算というものが大切なのはわかりますが、社会に貢献するという使命感の様なものはないのだろうかと感じてしまいます。

これほど、大きな医療制度の変更が国民に何の相談もなく、ただ、医療費が高騰しているという理由だけで堂々と行われようとしている事も問題点の一つです。政治不信と言う言葉を最近よく耳にします。また、最近の選挙の投票率は軒並み50%前後。それでも政治家は選ばれ、国民投票を行えば反対票が半分以上間違いなしと思われることでも、政治家によって決められた事は法律として実施されてしまいます。政府および厚生省は今後もっと厳しい改悪を考えていますが、自分の健康に不安がある時には、安心して医療機関にかかれる今の制度を取り戻せるよう、私たちも真剣に考えなければいけないのではないかと思います。

インターネット上で、ホームページを持っている全国の医師が中心となって、今回の健康保険制度改正(悪?)に抗議をするキャンペーンを実施しています。私はもともと署名活動などに参加することはほとんどありませんでした。「どうせ変わるはずがないから」、「それほど興味もない問題だから」、「提示されている意見すべてに同意できる訳ではないから」などがその理由でしたが、今回を含め最近の保険制度改革は、自分が医療に携わっている事もあって、いかにとんでもない制度に変えようとしているのかがよくわかります。それだけに、黙っていられず、私もこの運動に参加しております。私のホームページから関連サイトにリンクを張ってありますので、一度いらしてみて下さい。→ ブラックアウトキャンペーン

老人慢性疾患外来総合診療料という制度も最近導入されました。1ヶ月に何度受診しても、検査をしてもいくらお薬をもらっても医療費は一定という制度です。この場合、患者さんには薬剤費の負担はありません。しかし、これはある意味で相当の危険を含んでいます。例えば、性能は良いが価格の高い薬を使ったり、少しでも検査をすれば、医療機関は損をします。ですから、検査はできるだけしない、安い薬ばかりを選んで使う、そういう医療機関がでてくる可能性があります。この制度はすべての医療機関に強制的に適応されるものではなく、選択性になっています。今回の薬剤費負担の陰には、暗にこのシステムを採用した方が得ですよと誘いをかけている部分もあるわけです。私はより自由な立場で診療にあたりたいとの考えから、今のところ、この制度は採用しないつもりでおります。しかし、9月以降、この制度を選択・採用する医療機関が増えているようです。このように、患者さんにとって良いか悪いかではなく、医療費を減らすにはどうすれば良いかを最優先にいろいろな制度を決めている点が問題なのです。このままでは日本の医療の質は、 確実に悪くなり続けます。本来直さなくてはいけないところ(薬価など)に手をつけず、目先の問題を回避する事のみに終始している現状では、残念ながら今後の日本の医療に明るい未来は期待できません。 医療費の件で疑問のある時はご遠慮なく、ご相談下さい。ではでは。
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