土川内科小児科ニュース 10月号 No.21 (もどる)今月のテーマ:高血圧(1)
●高血圧症は生活習慣病の代表的かつポピュラーな疾患の1つですが、高血圧症ってなに?、なぜ治療しないといけないのかを正確に知っている人は意外に少ないのではないでしょうか。今回は、高血圧症を取り上げて、わかりやすく解説してみたいと思います。
●血圧とは:先ず、血圧とはなんでしょうか。心臓は全身に血液を送り出していますが、この血液が動脈の壁に与えている圧力を血圧と言います。心臓が血液を全身に向けて送り出した時(収縮期)の血圧を収縮期血圧と呼びます。最大血圧、最高血圧、上の血圧などとも呼ばれます。心臓が次に送り出す血液をためている時期(拡張期)の血圧を拡張期血圧と呼びます。最小血圧、最低血圧、下の血圧などとも呼ばれます。血圧は、心臓の送り出す血液の量(心拍出量といいます)、動脈壁の弾力性、末梢血管の抵抗などの要素によって決められます。
●高血圧とは:世界保健機構(WHO)では、収縮期血圧140未満、拡張期血圧90未満を正常血圧と定義しています。しかし、最近では、正常血圧を収縮期血圧130未満かつ拡張期血圧85未満と定義するなど基準を厳しくする傾向にあります。
●高血圧症の種類:高血圧には腎臓病・内分泌疾患・血管系疾患など原因のはっきりしている二次性高血圧と、はっきりした原因を特定出来ない本態性高血圧(こちらが圧倒的に多い)の2種類に大別されます。本態性高血圧は遺伝的素因と生活習慣が複雑に絡み合って発症すると考えられていますが、まだ詳しい事はわかっていません。
●高血圧アラカルト
「白衣高血圧」自分の家で血圧を測ると高くないのに、検診や病院で血圧を測ると高くなる現象を言います。高かったらどうしようという不安・緊張が血圧を一時的に高くしてしまうと考えられています。このような場合には本来の血圧は病院での測定値より低いわけですから、安易に降圧剤などを服用しないように気を付けないといけません。医療機関ではその様な可能性のあるときには、すぐに薬を処方したりせず、日時を変えて何度か血圧を測定したり、深呼吸をしてもらい、一番低い値を採用するなどの注意を払います。血圧が間違って低く出ることはありません。 「家庭用血圧計」家庭で血圧を測る場合には、次の事に注意してください。家庭用の自動血圧計は通常1〜2万円ですが、業務用の自動血圧計はその数十倍もします。ですから、家庭用の血圧計で測った血圧と医療機関で測定した血圧の間には差があって当然です(一般に収縮期血圧が低く、拡張期血圧が高く出ます)。ですから、絶対値としてではなく、いつもはこの血圧計でいくつなのに今日はいつもより高い又は低い等というように差を中心に考えると良いでしょう。手首や指ではかる血圧計も販売されていますが、細い動脈の拍動をキャッチしなければいけませんので、より不安定になります。あくまでも目安とお考え下さい。一度自分の自動血圧計を医療機関に持っていって、どのくらいの差があるのかを調べてもらっておくと良いでしょう。 「血圧の日内変動」最近は携帯用の自動血圧計で24時間の血圧をモニターする事が出来るようになりました。これによると夜間睡眠時は日中活動時の血圧よりも下がっていることがわかります。また白衣高血圧の診断にも用いられます。 「脈圧」収縮期血圧と拡張期血圧の差を脈圧と言います。これは、血管の弾力性の指標と考えられており、大きい方が血管の弾力性がある、少ないと血管がもろいと判断されます。拡張期血圧はいくら低くても心配いりません。
●高血圧症の合併症:では、高血圧を放置しておくとどうなるのでしょう。高血圧は多くの場合、特別な症状はありませんが、10年、15年と無治療のままで放置しておくと、血管はその圧力により壁が厚く、固く、弾力性が失われてもろくなり、やぶれたり、傷つきやすくなります。さらに、傷ついた血管壁にはコレステロールが沈着して血管の内腔がせまくなります(動脈硬化)。やがて、血管・心臓、腎臓などの臓器に障害が起こり、命に関わるような種々の合併症が引き起こされます。それまでは何の症状も出しませんから、高血圧症はサイレントキラー(無言の殺し屋)と呼ばれています。高血圧症が危険なのはこの合併症(臓器障害)が進行するからなのです。
今回はここまでで、紙面がいっぱいになってしまいました。次の機会には高血圧の治療に関することを中心に特集をまた組みたいと思います。* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * 朝夕だいぶ冷え込むようになってまりました。風邪を引きやすい季節です。皆さんご注意ください。
● 血圧をあげる主な生活習慣 ・塩分の取りすぎ:塩分を取りすぎると血液中の水分が増加し、循環血液量が多くなるため血圧が上がります。高血圧では、塩分制限が大切と言われるのはこのためです。 ・肥満:体重が10kg増えると血圧も約10上昇すると考えて下さい。肥満は動脈硬化の進展にも関与します。 ・運動:運動不足でも、血圧が上昇します。肥満にも関与します。 ・飲酒:飲酒も血圧に影響します。長期間過剰のアルコールの摂取が続くと血圧が上昇します。 ・ストレス:睡眠不足・精神的な緊張は交感神経を刺激して血圧を上げます。
● 高血圧の合併症(臓器障害) ・閉塞性動脈硬化症:動脈がつまったりつまりかけて引き起こされる疾患です。 ・狭心症・心筋梗塞:心臓の筋肉を養っている冠状動脈がつまりかけるのが狭心症で、完全につまって心筋が壊死に陥ってしまうのが心筋梗塞です。 ・脳梗塞:脳の血管がつまるとその血管で酸素の供給を受けている脳の一部が死んでしまいます。障害を受けた場所により症状が異なります。 ・解離性大動脈瘤:血管の壁に亀裂が出来、壁を裂くように血液が流れ込む疾患です。 ・脳出血:脳の血管が破れるのが脳出血です。脳梗塞同様、どの血管が破れるかで症状が異なります。 ・クモ膜下出血:脳動脈に出来た瘤が破裂してクモ膜下腔に出血する疾患です。 ・大動脈瘤:血管が膨れてこぶをつくる疾患です。胸部大動脈・腹部大動脈など色々な所にこぶを作ります。こぶが破れれば生命が危機にさらされます。 ・腎硬化症:腎臓の血管が動脈硬化を起こし、腎臓へ流れる血液の量が減ることによって腎臓の機能が低下してくる疾患です。 ・高血圧性脳症:血圧が高いために脳がむくみ頭痛・吐き気・意識障害などの見られる疾患です。 ・心肥大、心不全:高血圧が続くと心臓はより強い力で血液を送り出さないといけなくなり、心臓の筋肉が厚くなり、心肥大が起こります。この状態が長く続き、心臓が十分な血液を送り出せなくなるのが心不全です。 (トップへ)