土川内科小児科ニュース  12月号  No.23 
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  今月のテーマ:インフルエンザ(2)

早いもので今年ももう十二月。景気の落ち込みもまだまだトンネルの出口が見えず、財布の中身も寒い年末ですが、季節も冬。インフルエンザの季節がやってきました。そこで、今月は、昨年同様インフルエンザを再び取り上げて見ました。
昨シーズンは、十二月下旬から患者さんが急増し、同月22日から28日までの1週間で1医療機関あたりの平均患者数は19.07人と同期間では過去10年間で最多を記録。1月に入っても勢いは衰えず、約127万人と過去10年間で最大の流行となりました。また香港で鶏から新型のウイルスが見つかり、幸い人から人への感染はありませんでしたが、全世界で数千万人の犠牲者も予測される新型インフルエンザウイルスがそろそろ出現する頃と言われています。インフルエンザウイルスは1年中いるのに、どうして冬になるとインフルエンザが流行するのでしょう。これにはいくつかの理由が挙げられます。まず、インフルエンザウイルスにとって温度20度前後、湿度20%前後が最も生存に適した環境で、長時間空気中に漂っていられます(参考1)。冬の気象条件はウイルスにとって非常に都合が良いのです。一方、人側の要因として、寒いところでは、鼻・のど・気管などの血管が収縮して線毛の動きが鈍くなります。線毛はウイルスや細菌の侵入をできるだけ少なくする働きをしますので、線毛の働きが悪くなるとウ イルスが侵入しやすくなります。さらに、冬は窓を閉め切った部屋にいることが多くなりますので、中に患者が一人でもいて、せきやくしゃみでウイルスをまき散らせば容易にうつる訳です。ウイルスが気道粘膜に取り付くと猛スピードで増殖し、十六時間後には一万個に、二十四時間後には百万個に増えて粘膜細胞を破壊し始めます。そのため、インフルエンザの潜伏期は非常に短く、短期間で大流行を引きおこしてしまいます。また、特定のウイルスに感染して回復すると私たちの体にはそのウイルスに対する抗体ができて、二度と感染しないのが普通ですが、インフルエンザに何度もかかるのはウイルス側が生き延びるために遺伝子の配列を少しずつ変え、免疫の網の目をくぐりぬけようとするからです。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の三種類あり、A型はさらにいくつかのタイプに分かれますが、このA型が姿を変えるのが得意なのです。ここ20年間流行を繰り返しているのはA香港型、Aソ連型、B型の3つというのはその辺に理由があります。 
次に、インフルエンザと普通のかぜとの違いに触れてみたいと思います。かぜ症候群は、くしゃみ・鼻水・鼻閉・咽頭痛・咳・痰などの呼吸器系の症状と発熱・頭痛・全身倦怠・食欲不振などの全身症状、嘔吐・下痢などの消化器症状などがいろいろな組み合わせで見られる疾患と定義されます。これを病型として分類するとインフルエンザ、普通感冒、非細菌性咽頭炎、咽頭結膜熱、急性気管支炎、異型肺炎などとなり、インフルエンザは鼻汁・咽頭痛・咳などの症状のほかに高熱・全身倦怠・頭痛・腰痛などの全身症状が強いもの、普通感冒は、主にくしゃみ・鼻汁・鼻閉などの上気道の症状が顕著で発熱などの全身症状は軽いものです。一方かぜ症候群の原因となるウイルスは、インフルエンザウイルスのほか、パラインフルエンザウイルス(1〜4型)、RSウイルス、アデノウイルス(42型)、ライノウイルス(100型以上)、コクサッキーウイルスA群(1〜24型)、B群(1〜6型)、エコーウイルス(1〜34型)、コロナウイルス3型など非常に多くのものが見つかっております。ところで、臨床病型と原因ウイルスとの関係ですが、普通 感冒ウイルスというものはなく、ライノウイルスがその中心ではありますが、コロナウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルスなども原因となります。一方インフルエンザという病型はもちろんインフルエンザウイルスがその原因の大部分を占めますが、ほかのウイルスでもインフルエンザと診断される病型を起こしてきます。
最後に対策について触れておきます。かかった時は早めに医療機関を受診し、専門家の治療を受けることが大切です。一般的対処法としては、できるだけ安静にし、栄養のあるものをとるのが基本。密閉箱の実験でわかるように部屋を暖かくし、湿度を高くするのが効果的です。しかし、最も大切なのは予防です。その一番の対策はワクチン接種ですが、日本では任意接種になったこともあって接種率は一%以下となってしまいました。ワクチンで感染は防ぐことはできませんが、重症化は防ぐことが可能です。高齢者や基礎疾患を持つハイリスク者では、もっと積極的にワクチン接種を受けることが必要だと思います。そのためには公費助成が必要なのですが、なかなか国は重い腰をあげてくれないのが現状です。
来年は良い年になることを期待しましょう。ちょっと早めですが、皆さん良いお年をお迎えください.!

参考1:ある実験によると、閉め切った大きな箱の中を湿度20%、温度20度に設定してインフルエンザウイルスを吹き込み、六時間後に調べると70%近くのウイルスが生きていますが、温度は変えず、湿度を50%以上に上げると3%のウイルスしか生きていませんでした。次に湿度は20%にして温度を32度にすると17%に減っていました。(本文へもどる
インフルエンザ豆知識(1) 新型ウイルスができるメカニズム
A型インフルエンザウイルスの表面にはHA(赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼという酵素)の2種類の突起があります。人に感染するインフルエンザウイルスのHAは3種類(H1、H2、H3)、NAは2種類(N1、N2)が知られています.有名なA香港はH3N2、Aソ連はH1N1のウイルスというように表現します。一方、インフルエンザは鳥や豚などにも感染し、鳥ではHAが15種類、NAが9種類もあります。通常、鳥のウイルスは人間にうつりませんが、豚は人間、鳥両方のウイルスがうつります。その豚が鳥のインフルエンザウイルスに感染し、さらに同じ豚が人のインフルエンザウイルスに感染し、その豚の体内で人間と鳥のウイルスの遺伝子の一部が置き換わる(交雑といいます)と、人にも感染する新型が発生します。これが新型ウイルス発生のメカニズムです。最初に出現する地域として、アヒル、豚、人間が一緒に暮らし、インフルエンザのルーツと考えられている中国南部が疑われており、国際協力のもとで監視体制が敷かれています。昨年、香港で発生して話題になった新型ウイルスはH5N1で、鳥のウイルスなので、人には感染しないハズだったのですが、 鳥から人に感染した珍しい例です。ただ遺伝子の型は鳥の型のままでしたので、大流行にならずにすみました。A型は10〜30年おきに大変身し、世界規模の大流行をもたらします。研究者の間では「その時期は近い」という見方が有力なのは、A香港型が流行しだしてすでに29年、Aソ連型が20年経過しているためです。
インフルエンザ豆知識(2) 有名なインフルエンザ
 インフルエンザという用語は14世紀のイタリアのフィレンツェで、「寒さの影響」「星の影響」を意味する言葉としてインフルエンツァ(influenza)と呼ばれていたことがその起源の様です.インフルエンザには大流行のたびに名前がつけられており、1918年のスペイン風邪(H1N1)、1957年のアジア風邪(H2N2)、1968年のホンコン風邪(H3N2)、1977年のソ連風邪(H1N1)などが有名。
インフルエンザワクチンこのワクチンにはインフルエンザウイルスを発育鶏卵に接種して増殖したウイルスからHA部分のみを取り出したものです。毎年流行の型を6月頃予測して、製造を開始(約6ヶ月かかります)します。ですから、この予想があたるかあたらないかが大切なのです。近年その精度が大幅にアップして、インフルエンザワクチンの効果が見直されてきておりますが、欧米各国に比べ日本では接種率が極めて低い様です。昨年流行したウイルスはA/H3N2タイプのものでしたが、予防接種のワクチンにちゃんとその型のものがふくまれておりました。今年のワクチンには3タイプのウイルスが含まれており、Aソ連型A/北京・262/95(H1N1)、A香港型A/シドニー/5/97(H3N2)、B/三重1/93です。
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