土川内科小児科ニュース  9月号  No.32 
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  今月のテーマ:糖尿病(1)

 今年の夏は、本当に夏らしい夏でしたが、皆さんいかがだったでしょうか。9月になってホッとした頃に夏の疲れが出て体調を崩される方がいらっしゃいますので、ご注意下さい。  生活が豊かに便利になる一方で、飽食の時代を象徴するかのように糖尿病は年々増加しており、最近のデーターによると、40歳以上の約10人に1人、60歳以上では、約5人に1人が糖尿病と言われています。現在、糖尿病の患者さんは全国で約700万人、糖尿病予備軍(境界型)はおよそ2000万人いると推定されています。さらに日本では比較的若い人の糖尿病が増加してきております。そこで、今月は、糖尿病をテーマとして取り上げてみました。ただ、限られた紙面で糖尿病に関する事をいっぺんに触れることは不可能ですので、今月は糖尿病(1)として、総論的な部分を中心にさらっとお話したいと思います。糖尿病と診断されている方はもちろんのこと私は大丈夫と思っている方も健康に関する一般的な知識としてご覧になってみて下さい。
 糖尿病とは:食事をすると、誰でも一時的に血糖値が高くなりますが、血糖値が高くなると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血糖値を下げるように作用します。インスリンが分泌されなかったり、分泌されても量が少なかったり、インスリンがうまく作用しなかったりすると、血糖値は正常値を越えて高くなってしまいます。これが糖尿病です。通常、尿中には糖は排泄されませんが、血糖値が異常に高くなると尿に糖がでてきます。「糖が尿にでる病気」という名前の由来です。糖尿病には、主に子供の頃に発生するインスリン依存型糖尿病と、主に中年以降になって発症するインスリン非依存型糖尿病がありますが、99%はインスリン非依存型糖尿病です。
注:一般に血糖が170〜180mg以上にならないと、尿に糖はでてきません。血糖値が高くないのに尿に糖がでてくる場合は「腎性糖尿」といわれ、血液を濾過する腎臓の方の問題で、糖尿病とは全く違います。また、健康人でも食後の一過性尿糖はしばしばあります。
注:インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞内に取り入れる働きをしています。
 糖尿病の発症メカニズム:糖尿病の発症には、体質的な素因が関係しています。インスリン分泌量が少ない、インスリンの効き目が悪いなどの素因は元々持っているものです。しかし、体質的因子だけで糖尿病が発症するわけではなく、それに種々の生活習慣(食べ過ぎ・運動不足・肥満・ストレス)が加わることで初めて発症します。糖尿病が生活習慣病と言われる所以です。
 血糖値が高いとなぜいけないの?:血糖値が高い状態が続くとブドウ糖がタンパク質と結びつき糖化タンパクが作られます。この糖化タンパクには、動脈硬化を促進する作用があります。例えば、有名なLDLコレステロール(悪玉)が糖と結合してできる糖化LDLは、血管壁に沈着しやすくなります。また、余分な悪玉コレステロール(LDL)を肝臓に運ぶ役割を持つHDLコレステロール(善玉)が糖と結合すると、その働きが低下します。さらに高血糖状態が持続すると細胞内に多量のブドウ糖が取り込まれ、この取り込まれたブドウ糖がアルドース還元酵素によってソルビトールに変えられます。ソルビトールは細胞内に水分を引き込む性質があるため、水分が細胞内にどんどん引き込まれ、やがてその細胞は破壊されてしまいます。このアルドース還元酵素は、網膜や腎臓、血管、神経に多く含まれるため糖尿病ではこれらの臓器が標的器官(障害を受けやすい臓器)となるわけです。
 糖尿病の症状:初期の段階では、自覚症状はほとんどありません。「のどが渇く」、「疲れやすい」、「尿の量や回数が多くなる(たびたびトイレに起きる)」、「体重が減る」などの症状が現れるのは、かなり進行してからです。糖尿病発症後、放置していると7〜10年後には、前述したメカニズムによって、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、末梢神経障害、血管障害などの合併症が現れてきます。糖尿病が本当に怖いのはこの合併症なのです。
 糖尿病の診断:糖尿病の診断に使われる代表的な検査項目としては、尿糖検査と血糖検査、糖化ヘモグロビン検査などがあげられます。
  • 尿糖検査:尿の中にブドウ糖が含まれているかどうかをチェックするもので、通常は(−)ですが、血糖値が高くなると腎臓でブドウ糖が処理しきれなくなって(+)となります。ただし、血糖値は絶えず変動しておりますので、糖尿病の人でも常に尿糖が(+)となるわけではありません。尿糖検査は検診などの際に広く行われておりますが、あくまでもスクリーニング(ふるい分け)検査ですので、糖尿病の有無を調べるためには、次の血糖検査が必要となります。
  • 血糖検査:血液中のブドウ糖の濃度を測る検査で、糖尿病の診断には不可欠の検査です。空腹時に測定する空腹時血糖値のほかに随時血糖値(食事に無関係に測定した血糖値)が使われます。さらに、経口ブドウ糖負荷試験(決められた量のブドウ糖を飲み、その後の血糖値の推移を見る検査)も大切な検査項目です。
  • 糖化ヘモグロビン検査(HbA1c):赤血球のヘモグロビンのうち何パーセントがブドウ糖と結合しているかを調べる検査です。血液中のブドウ糖は、濃度が高いほど血中のタンパク質と結合しやすくなりますので、血糖値が高い状態が続けば続く程、この値が高値となります。過去1ヶ月の期間における血糖値の平均値がわかります。 これらの検査値を用い、実際には下に示す様な基準を使って、糖尿病と診断します。
  • 糖尿病診断の実際(以下の様な条件がそろった時に糖尿病と診断されます)
    1. 次のいずれかが日時を変えて2回以上確認された場合(1回だけの場合は糖尿病型と診断します)  
      • 空腹時血糖値が126mg/dl以上
      • 75g経口糖負荷試験の2時間値が200mg/dl以上
      • 随時血糖値が200mg/dl以上
    2. 血糖検査で上述の糖尿病型と診断され、かつ次のいずれかの条件が満たされた場合
      • 糖尿病の典型的な症状(口渇・多飲・多尿・体重減少)が認められる場合
      • 糖化ヘモグロビン検査(HbA1c)≧6.5%
      • 確実な糖尿病性網膜症が存在している場合(眼底検査で見つかります)
 糖尿病の治療:糖尿病の治療の原則は、食事療法、運動療法、薬物療法の3つです。この3つをうまく組み合わせて、血糖値をできるだけ正常に近づけることが目標となります。残念ながら、現在の医学では、糖尿病を治癒させることはできませんので、上手にコントロールすることが大切な事です。そのためには、患者さんが糖尿病の事をよく理解して、自分で自分の体をコントロールするという姿勢が必要となります。
今月は糖尿病について、簡単にその概略をお話してみました。今後何度かに分けて、各項目をより詳しく取り上げる予定です
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