【急性心筋梗塞】

 急性心筋梗塞(Acute Myocardial Infarction)の死亡率は20%弱であるが、
 死亡例の約半数は発症数時間以内に集中しており、そのほとんどが重症不整脈
 によるものである。また梗塞巣が左室心筋の40%を越えると心原性ショック
 に陥り、死亡率は70〜90%にものぼる。従って心筋梗塞発症時の治療の目
 的は不整脈死を予防し、梗塞巣を最小限にとどめ、ポンプ失調の出現を防ぐこ
 とである。特に、発症後6時間以内であれば再潅流療法(PTCR・PTCA)
 により、虚血心筋を salvage することにより、梗塞範囲の縮小・心破裂などの
 合併症の発生率を減少させることができるので、迅速な対応が大切である。

A)診断と初期治療方針決定
 1)胸痛を主訴として来院、または急性心筋梗塞(疑いを含む)の診断にて紹
   介された場合は、バイタルサインをとりながら、胸痛の性状、発症時間、
   持続時間、胸痛の経過(いつ疼痛が最強で、現在の胸痛の程度はどうか)
   などについてすばやく問診する。
 2)同時に手際よく心電図をとり、心筋梗塞の診断、梗塞部位(表2参照)、
   梗塞範囲、梗塞発症後の時間経過の推定、不整脈のチェックを行う。
 3)以下の条件を満たす時には再潅流療法の適応であるので、一刻を惜しんで
   心臓カテーテル検査の準備をする。
   1.発症後6時間以内のもの(4時間以内が望ましいが、側副血行路の発達
    している症例では多少時間が経過していても、梗塞巣の拡大防止が期待
    できる)。
   2.6時間以上経過していたり、発症時間がはっきりしない時でも胸痛が持
    続している場合や、Q波を伴わないST上昇部位が残っている場合。
   3.心電図所見がはっきりしない場合でも、亜硝酸剤にて消失しない30分
    以上持続する心筋梗塞を示唆する胸痛を有する場合。

B)初期治療(PTCRへの流れのなかでスムーズに行う。より重要な処置を優
  先する。心カテの準備ができているときは、カテ室への移送を先に行うこと
  もある。)
 1)心電図モニターによる不整脈の監視:致死的不整脈またはその前兆を早期
   に発見し、治療を行うために。
 2)静脈留置針による確実な血管確保:急変時にそなえ、薬剤の投与ルートを
   確実に確保する。
 3)酸素の吸入:低酸素血症は、不整脈を誘発したり心筋虚血を増悪させ、梗
   塞巣の拡大や病態の悪化につながるので、呼吸困難やチアノーゼの有無に
   かかわらず、十分な酸素を投与する。通常鼻腔カニューレで2〜3 /分。
 4)胸痛のコントロ−ル:過剰な体動や精神的興奮は不整脈を誘発したり、心
   負荷を増大させるので、発症早期には厳重な肉体的、精神的安静が必要で
   ある。必要に応じ以下の処置を行う。
  1.ニトロール(ISDN):1錠舌下。効果がなければ血圧を測定し、低血
   圧にならなければ3Tぐらいまで使用する。
   注)ニトロ−ル錠(1T=5mg):舌下投与では2〜3分で効果発現。
     1〜2時間持続。経口投与では20〜30分で効果発現、2〜4時間
     持続する。末梢静脈の拡張により血圧低下が見られた場合は、下肢を
     挙上し対処する。
  2.塩酸モルヒネ(1A=10mg):5%グルなどで20mlに希釈し、 
   5mgづつゆっくり静注する(→P225参照)。
   注)鎮痛作用のほか、患者の不安を軽減し、交感神経の緊張を和らげる。
     また末梢静脈の拡張により前負荷を軽減し、心筋酸素需要を低下させ
     る。下壁梗塞の場合、迷走神経のト−ヌスを上昇させる場合があり注
     意を要する。
  3.レペタン(1A=0.2mg (0.3mg)):5%グルなどで20mlに希
   釈し、0.1〜0.2mgをゆっくり静注する。血圧低下に注意!。
   4.オピスタン(1A=35mg (50mg)):35〜50mg筋注。静注は
   心拍数の増加をきたし好ましくない。迷走神経刺激が少ないため、下壁梗
   塞に良いと言われている(下壁梗塞ではしばしば過度の迷走神経刺激に基
   づく悪心・嘔吐・徐脈などがみられるため)が、あまり使用されない。
   注)ソセゴン(ペンタゾシン)は左室充満圧、肺動脈圧、末梢血管抵抗を 
         上昇させ、心筋酸素需要を増大させるため使用禁忌である。
 5)入院時の血液検査用の採血を行う(心カテを行う場合はそのときに採血す
   ることもある)。血算、生化学(GOT・LDH・CK・CKMB)など。

C)再潅流療法
 1)PTCR(Percutaneous Transluminal Coronary Reperfusion)
   ICT(intracoronary thrombolysis)
  1.はじめに、心電図にて予想される病変の反対側より冠動脈撮影(CAG)
   を行い、側副血行路の有無を確認する。
  2.次に、予想される方の造影を行い、責任病変部位を同定する。
  3.ニトロール(1A=5mg/10ml)を1〜2mg冠動脈内に注入する。
   4.ウロキナーゼ(UK)24万単位を約10分かけて冠動脈内に注入する。
  5.通常4クール(96万単位)まで施行するが、高度の残存狭窄を残す場合
   や残すことが予想される場合には、2クール終了した時点で、PTCAへ
   移行することもある。
 2)PTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty)
  1.冠動脈狭窄部を直接バルーンで拡張する。
  2.緊急PTCAは待機的PTCAに比し、急性冠閉塞をきたす率が高いので、
   PTCR後99%以上の高度残存狭窄を残す場合に、追加施行するのを原
   則とする。

D)一般的治療
 1)安静:発症後2〜3日はベッド上安静とし、血圧の変動を防ぎ、心破裂な
   どの合併症を予防する。症状が安定していれば、リハビリテーションのプ
   ログラムにそってステップをあげていく(P69参照)。
 2)食事:入院当日は絶食。少量の飲水は許可する。合併症がなければ、24
   時間以降に流動食より開始する。
 3)水管理:スワンガンツカテーテルによる肺動脈楔入圧(肺動脈拡張期圧で
   も代用可)を目安に輸液を調節する。輸液過剰は肺水腫、脱水は再梗塞の
   確率を高めるので、刻一刻変化する患者の状態にあった適切な輸液が必要。
 4)亜硝酸剤:冠動脈拡張、血圧のコントロール、末梢静脈拡張による前負荷
   軽減などの目的で使用する。急性期は通常ニトロールまたはニトログリセ
   リンを持続点滴静注で使用する。血圧は平均動脈圧で80mmHgは必要
   であるので、本剤の投与により血圧が低下する場合はカテコールアミンを
   併用することもある。
   1.硝酸イソソルビド(ISDN):ニトロ−ルを2〜10mg/時間で持
    続点滴する。
   2.ニトログリセリン(NTG):ミリスロ−ルを0.1〜1.5μg/kg
    /分で使用する(→P236参照)。ニトロールよりも血圧を低下させ
    るので注意!。
    注)ISDN、NTGともに塩化ビニルの点滴セットに吸着するので、
      専用の点滴セットを使用する。 
   3.上記のほかに、フランドールテープ(ISDNの経皮外用剤)やニトロ
    グリセリン軟膏を使用することもある。
 5)Ca拮抗剤:冠動脈攣縮の予防のため使用することがある。
   1.アダラート(10mg)  4カプセル 4×1
   2.セパミット(5mg)   4パック  4×1
   3.ヘルベッサー(30mg) 3〜4錠  3〜4×1
 6)抗凝固療法
   1.急性期はヘパリン12000単位/日を持続点滴静注(特に動脈カテー
    テル留置時)
   2.内服開始後、血小板凝集抑制剤として、小児用バファリン1T/日、 
    パナルジン 2T/2×1などを使用することもある。
   3.抗凝固剤として、ワーファリンを使用することもある。
 7)その他
   1.下剤:便秘は、排便時の血圧上昇を招き、心破裂の原因となるので、適
    宜下剤を使用する(MgO 0.5〜1.5g/日、ラキソナリン1T、
    ラキソベロン5〜20滴/日、バルコーゼ1.5〜6g/日など)。
   2.安定剤・睡眠剤:不安、緊張などのため不眠を訴えることが多い。
    セルシン2〜6mg、バランス15〜30mg、ネルボン5mg、ハル
    シオン0.25〜0.5mgなどを適宜使用する。高齢者には、少なめに
    使用する方が無難。       

E)合併症の治療
 1)不整脈
  1.洞性頻脈:約1/3に認められる。不安、胸痛、発熱、薬剤投与、心不全
   などが原因となる。心拍数の増加により心筋酸素消費量が増加するため望
   ましくない。原因に対する治療を行う。
  2.心房性期外収縮(PAC):約半数に認められる。左室拡張期圧の上昇に
   伴う心房の伸展、心外膜炎、心房や洞結節の虚血などにより起こる。PA
   Cそのものは予後に関係せず治療の対象にはならないことが多いが、時に、
   PSVT、Afへ移行する。
  3.発作性上室性頻拍(PSVT):2〜5%に見られる。ほとんどは一過性
   に出現して数分以内に消失する。ポンプ失調に伴うことも多く、この場合
   はすみやかな処置が必要である。ワソランやリスモダンPの静注を試みる。
  4.心房細動(Af):10〜15%に見られ、多くは24時間以上経過して
   から出現する。心外膜炎や、心不全を合併している場合が多いため、下壁
   梗塞より前壁梗塞に多い。通常発現後24時間以内に洞調律に回復するが、
   長期にわたり持続する場合は、予後が悪い。Rate control のため、ジギタ
   リス、ワソラン、インデラルなどを使用するが、心拍数が140/分を越
   え、血圧低下が見られるものでは、同期直流除細動を行う。
  5.心房粗動(AF):1〜3%に認められる。心房細動と同様に心不全や心
   外膜炎に伴って見られることが多い。頻脈を呈し、心機能の悪化する恐れ
   のあるときは、ジギタリス剤の投与や低エネルギー同期直流除細動などを
   行う。心房ペーシングによるオーバードライブが有効なこともある。
  6.心室性期外収縮(PVC):もっとも多くみられる不整脈で、ほぼ全例で
   出現する。致死性不整脈の前兆として重要。一般に1分間5個以上、多源
   性、連発、RonTなどが Warning arrhythmia(心室細動に移行し易い)と
   されているが、心筋梗塞では1個のPVCでも危険と考えて治療する。
   a)キシロカインが第一選択。1〜1.5mg/kgを静注。無効の場合は、
    50mgの追加投与を5分間隔で2〜3回行う(初期投与の極量は22
    5mg)。維持量は1〜4mg/分(→P226参照)。
   b)キシロカインが無効の時は、メキシチールを使用。1回125mg静注。
    有効なら0.5mg/kg/時で維持。
   c)上記のいずれもが無効の時は、リスモダン、アミサリンなどを使用する
    が、心筋抑制が強いので注意が必要。
  7.心室頻拍(VT):10〜40%に見られる。24時間以内に見られるも
   のは、non sustained で予後も良好であるが、後期に見られるものは心不
   全に伴うことが多く、sustained になりやすく予後不良である。
   a)血行動態が保たれているものでは上記の薬剤を使用
   b)心拍数200以上や血行動態の悪化している場合には直流除細動を行う。
    200Jくらいからはじめ、戻らないときはエネルギーを増して、再度
    試みる。
  8.促進型心室固有調律(AIVR:accelerated idioventricular rhythm)
   a)心拍数が、60〜100/分程度の心室調律をいう。心室筋の自動能亢
    進によるものと考えられている。発症後48時間以内に多く、8〜20
    %に見られる。
   b)臨床的に予後は良好といわれ、特別な処置は必要なく自然に消失するこ
    とが多いが、キシロカインの投与を行うこともある。
  9.心室細動(Vf):5〜20%に見られ、致死的不整脈として発見と同時
   に緊急治療を必要とする。約80%は発症後24時間以内にみられ、蘇生
   の成功率は高いがポンプ失調によるものは12時間〜4日の間にみられ、
   予後不良である。
   a)前胸部叩打:有効なことがある。ショッカーを準備する間に試みる。 
   b)直流除細動:300〜400Jで。1〜2度の通電で除細動できなけれ
    ば、心肺蘇生術(心マッサージ、気管内挿管など)を施行しながら、ボ
    スミン1A、メイロン2Aなどを静注後再度除細動を試みる。
   c)除細動に成功したら再発を予防するために、リドカイン50〜100m
    gを静注後、2〜3mg/分で持続点滴する。
  10.洞性徐脈・房室ブロック
   a)心拍数40/分以下、または50/分以下で、血圧低下を伴うときは、 
    硫酸アトロピンを0.5〜1mg静注。
   b)イソプロテレノ−ル(プロタノールL)もときに用いられる。
    0.01〜0.2μg/kg/分で点滴静注
   c)一時的ペ−シング:Adams-Stokes発作や徐脈による心不全の悪化がみら
    れるMobitz2型以上の房室ブロックは体外式ペースメーカーの絶対適応。
    また、心筋梗塞に伴い脚ブロックが出現した場合、3枝ブロックへ移行
    する危険のある場合も適応となる。

 2)心不全
  1.病態の把握には、スワンガンツカテーテル(Swan-Ganz)で得られる肺動脈
   楔入圧(PCWP)と、心係数(CI)の2つのパラメーターを用いた  
   フォレスター(Forrester)の分類を用い、治療方針決定の参考にする。
  2.治療
   a)塩酸モルヒネ:静脈拡張により静脈還流を減少させ、肺うっ血を改善す
    る。
   b)利尿剤:サブセット2でおもに使用される。
    1)ラシックス(1A=20mg、100mg):強力なループ利尿剤。
     静注時の作用発現時間は5〜15分、最大効果発現時間は30〜60
     分、効果持続時間は約2時間。利尿作用のほか肺動脈拡張作用があり、
     肺毛細管圧の低下、呼吸困難の軽減も期待できる。GFR、RPFを
     減少させないので、腎障害時にも使用できる。
    2)ルネトロン(1A=0.5mg):ラシックスとおなじループ利尿剤。
     作用発現時間は15分、最大効果発現時間は45分。
    3)ソルダクトン(1A=100mg、200mg):K保持性利尿剤。
     前2者と併用して用いられることが多い。
   c)血管拡張剤:サブセット1、2、4で適応となる。
    1)ミリスロール、ニトロールなどを使用する(用法は前述)。
     注)血圧が低い場合は単独では使用しない。収縮期血圧が90以下に
       ならないように、必要に応じカテコールアミンを併用する。
   d)カテコールアミン:サブセット3、4、時に2で適応となる。
    1)イノバンとドブトレックスが主に用いられる。両者を同時に使用する
     ことにより、低濃度で両者の有用点を利用することが好ましい。
    2)ノルアドレナリンは、心筋酸素消費量を増し、虚血心筋に好ましくな
     いのでできるだけ使用しない。しかし、平均血圧が60mmHg以下
     の時には臓器潅流を維持するために使用することがある。0.1μg/
     kg/分より開始。0.5μg以上を必要とするときはIAPB(大動
     脈内バルーンパンピング)の使用を考慮する。
     3.フォレスターの分類

    CI(l/min/m2)
       
    |   SUBSET1    |     SUBSET2           
    |           |               
    |  肺うっ血  (−)|  肺うっ血  (+)      
    |  末梢循環障害(−)|  末梢循環障害(−)      
    |  鎮静剤      |   利尿剤・血管拡張剤      
  2.2|-------------------------------------------------- 
     |   SUBSET3    |     SUBSET4           
    |                 |    肺うっ血 (+)
    |  肺うっ血 (−)  |  末梢循環障害(+)
    |  末梢循環障害(+)|   カテコールアミン・血管拡張剤
    |  補液・カテコールアミン   |  ・IABP
    |---------------------|----------------------------
                             18 PCWP(mmHg)

 3)心原性ショック
   1.左室心筋の40%以上の障害でショックになるとされている。左冠動脈主
   幹部病変、重症三枝病変例に多い。適切な治療をしても死亡率は80%と
   高率である。
  2.診断
   a)収縮期血圧:85mmHg以下(または平均血圧60mmHg以下)
   b)乏尿:25〜30ml/hr以下
   c)末梢循環不全:意識障害、冷汗、チアノ−ゼ、皮膚温低下
   注)疼痛、迷走神経反射(Bezold-Jarisch reflex)、不整脈、薬剤(亜硝
     酸剤など)、脱水など循環血液量減少による低血圧に注意!
    3.治療
   a)心不全の極型と考えて、基本的には心不全に準じた治療を行う。
   b)PCWPが13mmHg以下の時は、モニターを見ながら生食を500
    〜1000ml短時間で投与し、血圧の変化を見る。PCWPが18m
    mHgに達したら、急速な補液は中止する。
      c)カテコールアミン(イノバン・ドブトレックス)を使用し、平均血圧を
    80mmHg以上に保つ。PCWPが高値の時はドブトレックスの方が
    より望ましい。また血管拡張剤の併用も考慮する。
   d)酸素マスクにても動脈血液ガスの改善が見られないときは、挿管し人工
    呼吸器による呼吸管理を行う。PEEPは静脈潅流を低下させ、心拍出
    量を減少させる可能性があるので5cmH2O以下が望ましい。
      e)上記治療にても改善が見られないときは、IABPを使用する。しかし、
    IABPを使用してもフォレスターのW群の症例では、救命はほとんど
    期待できない。

  4)右室梗塞
  1.下壁梗塞の際に見られることが多いが、まれに前壁中隔梗塞に合併する。
  2.右心不全に基づく右房圧の上昇(右房圧>PCWP)が特徴的。
  3.肺うっ血(−)、Kussmaul徴候(+)、低血圧、ショック、右側胸部誘導
    (V4R)でのST上昇(発症後6〜8時間で消失)などから診断する。
  4.治療:PCWPを10〜15mmHgに保つように輸液を行い、左室の前
   負荷を増加させる。ドブトレックス(心拍出量↑、肺血管抵抗↓)を使う。
   また、心房−心室順次ペーシング(AV sequential pacing)の有効性も報
   告されている。

  5)心室中隔穿孔(Ventricular Septal Perforation:VSP)
  1.AMI発症後1〜7日以内に見られることが多い。
  2.V音、スリルを伴う全収縮期雑音が、発症と同時に出現する。
  3.右室内でのO2ステップアップ、超音波ドップラー法で診断する。
  4.致命率が極めて高い。できるだけ内科的療法で急性期をしのぎ、外科的治
   療へもっていく。
  
 6)心破裂
    1.AMI発症後24時間以内が多く、大部分は7日以内。また初回梗塞例、
   梗塞後高血圧が持続した例、高齢の女性、広範囲前壁梗塞に多いという。
  2.胸痛を伴う突然の血行動態悪化、電気的・機械的解離、心タンポナーデ。
  3.心膜穿刺による心タンポナーデのコントロール後、外科的治療を施行する
   が救命率は極めて低い。
  4.血圧を低めに保ち、予防することが大切。

 7)急性僧帽弁閉鎖不全症(乳頭筋不全症候群)
  1.下壁梗塞例に多い。AMI発症後1〜7日以内にみられることが多い。
  2.V音を伴う全収縮期雑音、大きなV波、PCWP>18mmHg
  3.急激に肺水腫が進行し、心原性ショックをきたすことが多い。
  4.超音波ドップラー法にて診断は容易。
    5.血管拡張剤で後負荷を軽減するなど心不全に対する治療を行う。重症例に
   はIABPを使用し、内科的治療が困難な場合は人工弁置換術を考慮する。

  8)梗塞後狭心症
  1.AMIの疼痛が消失した後に出現する酵素上昇のない狭心症。大きく梗塞
   部と非梗塞部に分けられる。胸痛時の心電図により診断。血清酵素(特に
   CKMB)の変化も有用。
  2.梗塞後狭心症は、再梗塞、新たな狭心症、心膜炎、肺梗塞症などとの鑑別
   が必要で慎重な取扱が必要。


   表1:心筋梗塞後の血清酵素の変動
 
             異常値出現     最 高 値        正 常 化  
  ---------------------------------------------------------------
    CPK   6〜12時間   24〜48時間   3〜4  日目  
  ---------------------------------------------------------------
    GOT  12〜24時間  24〜48時間    3〜4  日目  
  ---------------------------------------------------------------
    LDH  12〜36時間     2〜4日      7〜10日目  
  ---------------------------------------------------------------


表2:心筋梗塞の部位と心電図変化
  
             1 2 3 aVR aVL aVF V1 V2 V3 V4 V5 V6  
 -------------------------------------------------------------------------
 中隔梗塞                    +   +  
 ------------------------------------------------------------------------- 
 前壁梗塞                                        +   +   +  
 -------------------------------------------------------------------------
 前壁中隔梗塞                    +   +   +   +       
 ------------------------------------------------------------------------- 
 広範前壁梗塞 +                 +         +   +   +   +   +  
 ------------------------------------------------------------------------- 
 前壁側壁梗塞 +                 +                   +   +   +  
 ------------------------------------------------------------------------- 
 側壁梗塞     +                 +                            +   +  
 ------------------------------------------------------------------------- 
 下壁梗塞      + +        +  
 ------------------------------------------------------------------------- 
 後壁梗塞                  (+)(+)  
-------------------------------------------------------------------------- 
         +の部位に心電図変化が現れる。(+)はレシプロカルな変化  
 


・参考文献
 1.冠動脈疾患−新しい診断・治療体系  日本臨床社 1987
  2.石川恭三:新・心臓病学(第2版)  医学書院 1986
  3.内科レジデントマニュアル      文光堂 1989
 4.中西成元ほか:急性心筋梗塞  Medicina Vol.26 No.7 1989 医学書院
  5.伊賀六一ほか:内科治療ハンドブック  医学書院 1989

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