【心肺蘇生法】

心停止後、数十秒で意識が消失し、その後呼吸が停止する。約3分以内に血流が再開し、酸素が供給されないと、脳では不可逆的な変化がおきる。従って、いかに早く有効な呼吸・循環を再開するかが、心肺蘇生法(CPR:Cardio-pulmonary resuscitation)のポイントとなる。 
心肺蘇生法には、補助具を用いることなく手や口を利用して行う一次救命処置  (BLS:basic life support)と、薬剤あるいは医療器具を駆使して行う二次救命処置(ALS:advanced life support)があるが、実際の臨床の場では  両者は区別されることなく、引き続き行われる。

T)心肺停止の発見時にまず、第一にすべきこと。

  1. 心肺停止の確認
    1. 突然の意識消失、脱力、強直性および間代性痙攣、チアノーゼなどの出現より心肺停止を疑う
    2. 大血管の拍動停止、心音消失、呼吸停止、心電図監視中なら心室細動か心停止などより心肺停止と診断する
  2. 発見直後の処置
    1. 軽く頬をたたくなどの刺激を加えながら、大声で患者の名前を呼ぶ
    2. 前胸部を1〜2回、拳で叩打する(心室細動などの場合戻ることがある)
    3. 人手を集める
    4. 発見時間を確認後、以下に記載する救命処置をしながら、余裕があれば、発見状況、救急外来受診患者の場合は転送中の処置などを聞く

U)気道確保(Airway)

  1. 努力性呼吸が見られるとき:体位による気道確保を第一に行う。口腔内に吐物がないことを確認後、頭を後ろに傾け、下顎を前に引く事によって閉塞を解除する。必要があればエアーウェイを使用し、義歯があればはずす。努力性呼吸がみられても、換気が十分でないと判断されるときは、2)に準じる。
  2. 努力性呼吸のみられないとき   気道確保と酸素化のために気管内挿管を行う。これによって肺内への高濃度の酸素供給、気管内異物や分泌物の除去、誤嚥の防止を容易に行うことができる。
  3. 気管内挿管の手技
    1. 挿管の準備をする間、アンビューバックによる人工呼吸を行う。口腔内に吐物がある時は、これを吸引除去する。
    2. 気道が展開しやすい体位をとる(sniffing position)。
    3. マッキントッシュ喉頭鏡で舌を左方へ圧排し、視野を確保する。
    4. 喉頭蓋根部へブレードを押し進め、前上方へ引き上げるように喉頭を展開する。決して上歯列を支点にしない。喉頭がうまく展開できないときはブレードの深さが不適当なことが多いので、手前から徐々に奥へと進めるとうまくいくことが多い。
    5. 喉頭展開時に気道が見えないときは、助手に甲状軟骨部を圧迫してもらうとよく見えることがある。
    6. スタイレットを入れた挿管チューブ(スタイレットが先端から出ていないことを確認する)を右口角部より、視野を妨げないように注意しながら挿入し、カフが声帯を越えるところまで気管内に挿入する。
    7. スタイレットを抜去後、気管内チューブに空気を送り込み、胸郭が十分膨らむことを確認してから、カフを軽く膨らます(カフはエアーもれの起こらない最少量とする)。
    8. .両側の上肺野の呼吸音を聞き、片肺挿管でないことを確認後、固定する。
    9. 必ず、胸部レ線で気管内チューブの位置を確認する。
    10. 気管内挿管がうまくいかないとき
      1. 30〜60秒(1〜2回)で挿管できないときは、アンビューバックによるマスク呼吸にて換気に努め、心肺蘇生を行いながら状態がおちついたところで、再び試みる。
      2. 体位・スタイレットの角度・ブレードの大きさ・チューブのサイズなどをチェックする。
      3. 筋弛緩が必要な時は、マスク呼吸下に筋弛緩剤(ミオブロック4mg静注など)で筋弛緩を得た後、喉頭展開しても良い。
      4. 症例によっては、はじめから経鼻挿管や盲目的挿管を行うほうが良い場合があるので、経口挿管にこだわらない。

V)人工呼吸(Breathing) :一般に、人工呼吸は胸骨圧迫心マッサージ5回に1回の比率で行う。適切な人工呼吸の評価は、両側肺野に呼吸音が確認される事、胸郭の拡張が吸気時に見られ、皮膚の色が改善される事で行われ、適切な酸素化は動脈血液ガスの結果に反映される。

W)循環確保、心マッサージ(Circulation):胸骨圧迫心マッサージは、意識がなく、頚動脈・股動脈が触知されず、心音聴取不能な場合、最初の人工呼吸と同時に開始すべきである。下肢を高くし心臓への静脈還流を増加させておくと、より効果がある。
 
 [方法]

  1. 患者を仰臥位にし、硬い物の上に寝かせるか、板を下に敷く。
  2. 剣状突起より下は避け、肘を伸ばし片方の手掌基部を胸骨の下3分の1の位置におく。その上に他方の手掌を重ね、胸骨が最低3〜5cm沈下する程度の力でリズミカルに圧迫する。
  3. 圧迫の回数は約70回/分で、圧迫と非圧迫の時間的比率は、1:1〜1.5程度とする。
  4. 心拍再開の確認と不整脈の監視のため、心電図をモニターする。


X)血管確保、薬剤投与(Drug)
  1. 静脈の確保:中心静脈の確保が望ましく、内頚・鎖骨下・大腿静脈の何れでもよい。どのルートで確保するにしても、最も慣れた方法によってすばやく行う(どのルートからでも確保できるように日頃から訓練することが大切!)。
  2. CPRに使用する薬剤
    1. ボスミン(1A=1mg)
      1. 心(室)静止の場合の第一選択薬。1Aを生食で10mlとし、5mlづつ使用。心室細動になるか、自発心拍が再開するまで5分おきに繰り返す。
      2. アシドーシスになると効きにくくなるので、メイロンによる補正が必要。
      3. 中心静脈が確保できれば、心腔内投与は行わない(心腔内穿刺は心や肺を損傷する危険が大きい)。
      4. 気管内投与も可能。
    2. メイロン(1A=20ml(16.7mEq)、50、250ml)
      1. 心停止による代謝性アシドーシスを補正する。CPRが長引く時に使用。
      2. 血液ガスの結果を見てから使用しても遅くない。
      3. 通常、BE×体重×0.25mlを使用する。
      4. 使いすぎる傾向があるので注意する。
      5. Ca剤、カテコールアミンとの混注は禁忌である。
    3. 塩化カルシウム(1A=20ml)
      1. 心拍停止(特に電気−機械的解離による)や再開後も血圧の上がらない時などに使用される。
      2. 心拍のある場合は緩徐に静注!。必要があれば10分毎に繰り返す。
    4. 硫酸アトロピン(1A=0.5mg/ml):P221参照
      1. 迷走神経の緊張状態に基づく洞性徐脈や房室伝導障害などの著明な徐脈に有効。
      2. 本剤の使用で口腔および気道内分泌も抑えられ、気道の管理にも有用。
    5. キシロカイン(1A=100mg/5ml、1V=1000mg)
      1. 心室性不整脈の第一選択薬で治療および予防に使用される。

Y)心電図モニター(Ecg):診断と治療法の選択のため、できるだけ早く心電図をモニターし、心停止、心室細動、徐脈のいずれかの判断をする。

Z)除細動(Fibrillation treatment : Defibrillation)

  1. 心室細動が心電図で確認されたときは除細動を行う。
  2. モニター上、心室細動か心停止か不明の時も、除細動を行ってよい。
  3. できるだけ1回で除細動するために、通常高め(≧200J)で行う。
  4. 2〜3回の通電で、除細動できなければ、酸素化・アシドーシスの補正・塩化カルシウムなどの投与後に再度試みる。
  5. 除細動にあたっては、スタッフが患者やベットに触れていないことを確認。
  6. 電気抵抗を減らすため、十分なペーストまたは除細動用のマットを使用し、パドルを患者の皮膚に最大限接触させるようにして行う。

[)以上で蘇生に成功した場合は、血行動態の評価(Gauge)を行い、必要があれば体温調節(Heat control)、集中治療(Intensive care)へ移行する。

●参考文献

  1. 清野誠一ほか:救急医療ハンドブック 第2版 南江堂 1985
  2. 伊賀六一ほか:内科治療ハンドブック 医学書院 1989
  3. 新 博次ほか:救急蘇生法 Medicina Vol.26 No.7 1989 医学書院
  4. 内科レジデントマニュアル  第2版 医学書院 1987
  5. 内科レジデントマニュアル  文光堂 1989
  6. 芹沢直文:麻酔のコツとポイント 克誠堂出版 1979
                                                    
[気管内チューブサイズと固定位置]
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               チューブサイズ            チューブ固定位置       
   年 齢  ------------------------------------------------------- 
              内 径   外 径        経口挿管     経鼻挿管    
  ----------------------------------------------------------------
     未熟児    2.5mm  12Fr       9cm     10cm    
  ----------------------------------------------------------------
  成熟新生児   3.0       14           10     11〜12   
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  1〜6カ月    3.0       14           10     11〜12  
  ----------------------------------------------------------------
    〜1歳      3.5       16           11     12〜13   
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    1 歳       4.0       18           12        15      
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    2 歳       4.5       20           13        16     
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    3 歳       4.5       20           13        16      
  ----------------------------------------------------------------
    4 歳       5.0       22           14        17      
  ----------------------------------------------------------------
    5 歳       5.0       22           15       18      
  ----------------------------------------------------------------
    6 歳       5.5       24           16        19      
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     7 歳      5.5       24           16        19      
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   8歳以上     6.0      26〜         17〜     20〜     
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    成人女性    7〜8   28〜32   舌骨〜胸骨下端距離の2割引き
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    成人男性    8〜9    32〜36      舌骨〜胸骨下端距離                      
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