【DICについて】 A)定義:何らかの原因により血管内で血小板系・凝固系の著しい活性化を生じ、 全身の主として微小血管内に血栓が多発することにより生じる種々の臓器の 機能障害と、止血に必要な血小板や凝固因子の消費と2次的な線溶亢進によ る出血傾向を主徴とする症候群 B)診断:DICを生じ得る基礎疾患を有する患者に、FDPの上昇(20μg /dl以上)、フィブリノーゲンの低下(150mg/dl以下)、血小板 数の減少(10万以下)の3つが認められたら、DICの可能性を考慮する。 松田の診断基準 3)を下記に示す。 ------------------------------------------------------------------ フィブリノーゲン 1) 血 小 板 数 2) FDP ------------------------------------------------------------------ ≦100 +3 ≦ 5 +2 ≦40 +2 ≦150 +2 ≦10 +1 ≦20 +1 ≦200 +1 ≦15 0 >20 0 ≦250 0 ≦20 −1 ≦400 −1 >20 −2 >400 −2 ------------------------------------------------------------------ 1)転移を有する悪性腫瘍、急性白血病増悪期または重症感染症の存在は+1。 フィブリノーゲン産生低下(肝実質障害など)は−(1〜2)。 2)血小板産生の低下(骨髄抑制など)は−(1〜2)。 3)上記3項目の合計が4点以上はDIC。3点でDICの疑い濃厚。2点で DICの存在を否定できない。 4)悪性腫瘍、白血病、重症感染症が併存しても、2点以上は追加しない。 C)DICを生じ得る基礎疾患 1)重症感染症:ウイルス、細菌、リケッチア、真菌のいずれでもよい。 2)組織潅流低下:種々のショック、心停止、心筋梗塞、低体温、肺梗塞 3)悪性腫瘍:癌、肉腫、白血病(特に急性前骨髄球性白血病) 4)組織損傷:大手術後、広範囲の外傷、広範囲の熱傷、長時間の体外循環 5)血管内溶血:不適合輸血、PNH、溶血性尿毒症症候群、薬剤性など 6)血管病変:動脈瘤、人工血管、カサバッハメリット症候群、TTP、膠原病 7)産科的疾患:胎盤早期剥離、羊水塞栓症、妊娠中絶、死胎児症候群など 8)その他:ARDS、蛇毒咬傷、アナフィラキシー、痙攣重積発作、肝障害 熱中症、アシドーシス、急性膵炎、活性炭による血液吸着、移植拒否反応 D)治療 1)基礎疾患の除去:可能であれば、基礎疾患の除去、改善がDICの治療に おいて最も重要かつ有効な手段である。 2)抗凝固療法 1.ヘパリン:5〜15U/Kg/hrの投与が一般的。ただし、出血傾向が 著しい時はヘパリンの投与はあきらめる方が無難。またAT3濃度が正常 の50%以下の場合は、AT3(ノイアートなど)を補充する。 2.FOY:1〜2mg/Kg/hr。AT3濃度が不明または低値や出血傾 向の著明な症例ではヘパリンより好ましい。臨床効果はヘパリンと差がな いと言われている。配合禁忌、血管炎、アナフィラキシーに注意(P22 5参照)。 3.フサン:0.06〜0.2mg/kg/hrを24時間持続点滴。効果はF OYなどとほぼ同等とされている。FOYに比し配合禁忌は少ない(P2 32参照)。 4.補充療法 a)ATVが正常値の50%以下の症例にヘパリンを使用する場合はAT3 製剤(1V=500単位)を1500単位を使用する。ATVの半減期 は3日程度であり、必要に応じて追加する(週2回投与が一般的)。 b)フィブリノーゲンは100mg/dl以上を保つように、抗凝固療法下 に新鮮凍結血漿(FFP)で補充する。 c)血小板も3万以上を保つように、抗凝固療法下に血小板輸血により補充 する。 3)DICに対する治療は基礎疾患が除去され、FDPが正常化するまで、続 ける。 4)注意すべき合併症として特に下記の疾患に注意を! 1.脳出血:血小板輸血、フィブリノーゲンの補充により予防する。 2.消化管出血:H2ブロッカーを予防的に使用する。 3.急性腎不全:腎毒性の強い薬剤の併用を避けるなど 4.ARDS:過量の輸液をさける。 5.多臓器不全:それぞれの項を参照。 ・参考文献 1.救急医学 特集号 出血と止血 1984 2.吉矢生人ほか:集中治療の手びき 南江堂 1986 3.松田 保:DICの薬物療法 Medicina Vol.24 No.10 1987 医学書院 4.内科レジデントマニュアル 第2版 医学書院 1987
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