【重症疾患の管理に用いられる薬剤について】

【アトロピン atropine】  1A=0.5mg/ml
  天然のベラドンナアルカロイドの1つで副交感神経遮断作用を有する。
  効果は容量依存性で、少量投与では房室解離による徐脈が現れることがある
  (paradoxical slowing)。通常は頻脈、分泌物と気道抵抗の減少、瞳孔散大、
   絨毛運動の停止および腸管運動と膀胱収縮の減弱がみられる。

 [用 量]0.5〜1.0mgづつ3分毎に総量2mgまで投与する。必要なら
      ば3〜4時間毎に繰り返す。静注が一般的だが筋注、皮下注も可。
  [代 謝]静注での効果発現はすみやか。30〜50%はそのまま尿中へ排泄
      され、残りは肝で酵素により加水分解を受ける。
 [適 応]洞性徐脈、洞不全症候群による徐脈、房室ブロック(Mobitz2型
       および完全房室ブロックでは一般に無効)
 [副作用]容量依存的に発現する。口渇、言語障害、皮膚紅潮、頻脈、発熱、
      散瞳、複視、大量投与で興奮、幻覚、せん妄、常識消失、血圧低下。
 [注 意]緑内障、前立腺肥大、消化管閉塞、麻痺性イレウス、循環状態が不
      安定な場合は慎重に投与すること。メイロン、バルビタール系薬剤
      などのアルカリ溶液とは配合禁忌。
  [相 互]プロプラノロール:プロプラノロールによる徐脈を回復させる。
      キニジン:迷走神経遮断作用を増強する。

【アポプロン apoplone】 1A=0.5mg/1ml

 一般名レセルピン。交感神経終末におけるカテコールアミン枯渇による鎮静降
 圧作用を示す。

 [用 量]通常1回0.5mg筋注、皮下注。重症例には1回2.5mgまで。
      極量1回5mg。1日10mg。
 [代 謝]作用出現時間1.5〜3時間。最大効果出現時間3〜4時間。作用 
       持続時間6〜24時間。肝で代謝され、肝より排泄される。心拍出
      量↓、末梢血管抵抗↓、レニン活性↑。
  [適 応]高血圧、フェノチアジン系薬剤の使用困難な精神分裂病(但し、用
      量はけた違いに多い)
 [副作用]精神抑うつ、鼻充血、下痢、徐脈、消化性潰瘍。投与量に比例する。

 [注 意]うつ病、てんかん(閾値を低下させる)、消化性潰瘍(胃酸分泌亢
      進)などで禁忌。脳血管障害の場合、感受性が亢進していることが
      あるので、初回量を0.25mg(1/2A)に減量する。

【アミサリン amisalin】 1A=200mg/2ml

 一般名塩酸プロカインアミド(Procaineamide)。 タイプTに分類される抗不
 整脈剤。細胞膜のナトリウム透過性を低下し、電解質濃度に依存する自動能を
 減少させるとともに興奮性と伝導速度を低下させる。心筋に対する作用はキニ
 ジンとほぼ同様であるが、副交感神経遮断作用、陰性変力作用はキニジンより
 弱い。

 [用 量]500〜700mgをゆっくり(50mg/分)投与する。1分毎
      に血圧を測定し、血圧低下に備え必ず血管を確保してから投与する。
      持続点滴する場合は1.5〜3.0mg/kg/hr
 [代 謝]効果発現は10分。半減期は2.5〜4.5時間。有効血中濃度は 
       4〜8μg/mlである。50〜60%はそのまま腎から排泄され、
      40%は肝で活性のある N-acetylprocaineamide(NAPA)となる。
            NAPAも腎から排泄されるが半減期は6時間と長い。血液透析、吸着
      ともに可能。
 [適 応]心房性・心室性頻拍症、心房性・心室性期外収縮など
 [副作用]脱力感、錯乱、低血圧(negative inotropic action と末梢血管拡
      張)、不整脈(用量依存性でQT延長によりVT・Vf・PVC)、
      SLE、抗核抗体陽性、血小板減少、消化器症状、発熱
  [注 意]腎不全、肝不全、心不全では減量する。血圧低下時、またはQRS
      幅の延長時は投与中止、投与速度減とする。
  [禁 忌]過敏症、重症心不全、QT延長、SAブロック、AVブロック
  [相 互]降圧剤との併用は降圧剤の作用増強。筋弛緩剤との併用は筋弛緩剤
      の作用増強。

【アルフォナード arfonad】 1V=250mg

 一般名カルシン酸トリメタファン(trimetaphan camsylate)。神経節遮断薬の
 1つで、末梢血管拡張と心拍出量減少により、頻脈をきたさず血圧を下げる。

 [用 量]5%グルなどで、500mg/100ml(5mg/ml)の溶解
      液とする。18滴/分で開始し、0.5〜5mg/分の速度で使用す
      る(6〜60滴)。最大15mg/分まで増量可。症例により反応
      は異なる。頭部を挙上すると効果的。点滴ポンプの使用が原則。急
      激な血圧低下が起こることがあるため、血圧の持続モニターが必要。
 [代 謝]効果発現は1〜2分。最大効果は2〜5分。作用持続時間は10分。
 [適 応]異常高血圧に対する救急処置、手術時の低血圧維持。
 [副作用]尿閉、麻痺性イレウス、口渇、瞳孔散大、起立性低血圧、視力障害、
      頻脈、発疹。
 [注 意]重篤な肝疾患、腎疾患、Hypovolemiaでは慎重に投与。妊娠中毒症で
      は禁忌(分娩停止や胎児イレウス)。ヒスタミン遊離作用があるの
      で気管支攣縮の素因のある患者も禁忌。耐性が発現し易く(2〜3
      日)増量が必要。

【アレビアチン aleviatin】 1A=250mg/5ml

 一般名フェニトイン(Phenytoin)またはジフェニールヒダントイン。抗痙攣剤
 の1つで、小発作以外のほとんどの痙攣発作に有効である。脳、心臓の異所性
 の電気的興奮を抑制する。ジギタリス中毒による心室性不整脈にも有効である。
        
 [用 量]初回は250mgを5分以上かけて投与する。その後維持量として
      100mgを6〜8時間毎に投与。総量18mg/kgまで。
 [代 謝]初回量での効果発現は20分。半減期は8〜60時間(平均24時
      間)。有効血中濃度は10〜20μg/ml。主に肝で代謝され、
      65〜70%が非活性代謝産物として尿中に排泄される。
  [適 応]てんかん発作
 [副作用]眼振、運動失調、傾眠、言語障害、視覚障害、悪心、嘔吐、歯肉肥
      厚、皮膚炎、皮疹、多毛、白血球減少、巨赤芽球性貧血、間質性肺
      炎、SLE様症状、肝・腎障害など。
 [注 意]50mg/分以上の速度での投与により、低血圧、心血管の虚脱。
      pH12の強アルカリのため筋注、皮下注禁。又他剤との配合不可。
      生食以外の輸液製剤で混濁。
 [相 互]1)フェニトインが代謝を促進:デキサメサゾン、キニジン
         2)フェニトインの代謝を促進:アルコール 
            3)フェニトインの代謝を抑制:クロラムフェニコール、サルファ剤、       INH、PAS、クマリン、フェノチアジン(コントミン、ヒル       ナミン)、ベンゾジアゼピン(セルシン、サイレース)
      4)フェニトイン+ドパミン:著明な低血圧

【イノバン Inovan】 1A=100mg/5ml

 一般名塩酸ドパミン(dopamine)=DOA。生体内で合成されるカテコールア
 ミンの1つで、β受容体への直接作用とノルエピネフリン遊離による陽性変力
 作用を有する。少量〜中等量では腎血流量増加と尿量増加が見られる。主とし
 てβ作用、多量でα作用。

  [用 量]効果は用量依存性で、3段階に分けられる。
      1)少量(2〜5γ/kg/分):ドパミン効果として、尿量と腎血
       流量増加が見られ、わずかに心拍出量も増加する。左室拡張末期
       圧(LVEDP)、末梢血管抵抗は減少する。
      2)中等量(5〜10γ/kg/分):ドパミン効果が最も期待でき
       る容量で、心拍出量は増加し、腎血管の拡張は最大となる。LV
       EDP、血圧、心拍数はほとんど変化しないかやや増加する。
            3)大量(10γ/kg/分以上):α受容体刺激効果として、全末
       梢血管抵抗増加が見られ、20γ/kg/分以上ではドパミン効
       果が消失し、頻回の期外収縮を伴う著明な血圧上昇、心拍数の増
       加、末梢血管抵抗やLVEDPの増大などが見られる。

     *生食や5%グルで希釈して使用するが、いろいろな使い方がある。
      1)100mg/100ml:50kgの人で3滴/分(3ml/ 
       時間)=1γ/kg/分となる。
      2)300mg/100ml:50kgの人で1滴/分(1ml/分)       =1γ/kg/分となる。
      3)体重×6mg/100ml:1滴/分(1ml/時間)=1γ/
       kg/分となる。

 [代 謝]効果発現はすみやか。最大効果は5分、効果持続は10分、半減期
      は約2分。75%が肝、腎、血漿で代謝を受け、25%がノルエピ
      ネフリンに変換される。
  [適 応]急性循環不全
 [副作用]悪心、嘔吐、頻脈、期外収縮、狭心症、血管収縮、動悸、高血圧
 [注 意]不整脈や hypovolemia がある時には、投与前に補正しておく。血管
      系病変を有する患者は、感受性が高いので慎重に投与する。肝硬変
      では増量が必要なこともある。希釈後、24時間は安定しているが、
      黄色に変化したものは使用しない。投与は中心静脈から、また点滴
      ポンプを用いるのが原則。
  [配合禁]アミノフィリン、メイロンなどのアルカリ溶液やアンフォテリシン
      Bとは配合禁忌。
 [相 互]フェニトイン(静注)→著しい低血圧。
      フェノチアジン(コントミンなど)→腎血管拡張作用に拮抗

【インデラル inderal】 1A=2mg/2ml

 一般名プロプラノロール(propranolol)。代表的βブロッカー。心拍数減少、
 血圧低下などの作用を有する。低血圧は徐脈、中枢性効果、血漿レニン減少な
 どによる。心に対しては自動能の低下、伝導速度の遅延、活動電位上昇の遅延、
 不応期延長などの作用を持つ。

 [容 量]静注:0.5〜3.0mgをゆっくり(1mg/分)投与。    
      最大0.15mg/kg(9mg/60kg)とする。
      点滴静注:10mg/100mlを0.5mg/時間(5ml/時 
      間)で開始。血圧や心拍数を観察しながら投与速度を調節する。心
      拍数は60/分以下にしない。
  [代 謝]効果発現は静注で2〜4分。効果持続時間は静注では10〜15分。
      半減期は3〜4時間。
 [適 応]洞性頻脈、発作性上室性頻拍症、心房細粗動、心室性期外収縮など
 [副作用]約10%にみられ用量と無関係に発現する。疲労感、脱力感、めま
      い、悪心、嘔吐、房室伝導障害、徐脈、低血圧、心不全、急性肺水
      腫、気管支喘息、中枢神経症状(抑うつ・不眠・幻覚)、涙液分泌
      減少。
  [注 意]肝疾患、腎疾患、若年喫煙者、老人などでは容量の調節が必要。気
      管支喘息では禁忌。なお、経口などで長期間投与を受けた患者では
      2週間以上かけて漸減中止する。
  [相 互]フェノチアジン:血圧低下作用を増強する。メチルドーパ:降圧作
      用を減弱する。筋弛緩薬:筋弛緩を増強する。シメチジン:徐脈を
      増強する。 

【エフオーワイ(FOY)】 1A=100mg

 一般名メシル酸ガベキサート。分子量417の化学合成品。蛋白分解酵素阻害
 剤であり、抗トロンビン作用の他に、抗プラスミン、抗キニン−カリクレイン、
 抗C1エステラーゼ作用などを有する。ヘパリンと異なりその作用発現にAT3
 の存在を必要としない。

  [用 量]1〜2mg/kg/hr(20〜40mg/kg/日)
 [代 謝]血中半減期は短く、約80秒。pHは4〜5。
 [適 応]膵炎、DIC
  [副作用]まれにアナフィラキシーショックがある。
  [注 意]末梢静脈よりの投与は血管炎をおこすため、中心静脈よりの投与が
      望ましい。
  [配合禁]セファロスポリン系をはじめ各種抗生剤など他の薬物と凝集塊を形
      成し易く単独投与が望ましい。やむを得ず混注する際は配合禁忌か
      どうかを確認すること。

【塩酸モルヒネ morphine hydrochloride】1A=10mg/1ml)  

 アヘンアルカロイドの1つで、鎮痛、中枢神経抑制、CTZ(chemoreceptor 
  triger zone)刺激による制吐、便秘、肺血管抵抗減少などの効果を有する。

  [用 量]日本では皮下注と筋注のみで静注は正式に認められていないが、実
      際には静注で使用されることが多い。静注の場合、2mgで鎮痛効
      果が現れるが、心筋梗塞や肺水腫などでは通常、5〜10mgが用
      いられ、5%グルなどで20mlに希釈し、ゆっくり静注する。
 [代 謝]静注での効果発現は1〜2分で、最大効果は20分(皮下注では6
      0〜90分、筋注では30〜60分を要する)。効果持続は4〜7
      時間。半減期は約2時間。ほとんどが肝で代謝を受け、3〜10%
      がそのままの形で腎から排泄される。
  [適 応]鎮痛(心筋梗塞、肺梗塞)、鎮静、静脈還流の減少(うっ血性心不
      全(肺水腫)、下痢止め、腸管運動抑制、麻酔前投薬
 [副作用]悪心、嘔吐、尿閉、呼吸抑制、胆管痙縮、血清アミラーゼ上昇
 [注 意]肝疾患、低アルブミン血症、閉塞性肺疾患、甲状腺機能低下では慎
      重に投与。極量は、注射で1日30mg。内服では60mgとされ
      ているが、癌の末期の疼痛のコントロールにはさらに多くの量が使
      用されることもある。
 [相 互]中枢神経抑制剤、筋弛緩剤の作用を増強する。ソセゴン、レペタン
      は拮抗(拮抗性鎮痛薬)する。

【カテコールアミン】

 薬            作用部位    心      心      心    末        腎   
                       筋     拍           梢 血      血   
     品        α β β   収      出      拍      管      流   
                   1  2   縮      量               抵      量   
        名                力              数      抗           
 --------------------------------------------------------------------------
  イソプロテレノール  0 4 4 ↑↑↑  ↑↑↑  ↑↑↑  ↓↓    ↑or↓ 
 --------------------------------------------------------------------------
   ドパミン     4 4 2 ↑↑↑  ↑↑↑   ↑↑    ↑     ↑↑↑ 
 --------------------------------------------------------------------------
   ドブタミン    1 4 2 ↑↑↑  ↑↑    ↑     ↑     ↓or→ 
 --------------------------------------------------------------------------
   アドレナリン    4 4 2  ↑↑    ↑↑    ↑↑    ↑↑     ↓↓  
 --------------------------------------------------------------------------
   ノルアドレナリン   4 4 0 ↑or↓  ↑or↓  →or↓  ↑↑↑   ↓↓↓ 
 --------------------------------------------------------------------------
*作用部位欄の数字は作用の強さで[2]は2+、[0]は作用なしを意味する。

【キシロカイン xylocaine】静注用:1A(2%、5ml)=100mg
             点滴用:1V(10%、10ml)=1000mg
           
 一般名リドカイン(lidocaine)。フェニトイン類似作用をもつ抗不整脈剤の1つ。
  ヒス−プルキンエ束における自動能と拡張期心室の自発的脱分極を抑制する。
  主に心室性不整脈の治療に用いられる。

 [用 量]初回投与量 1回1〜2mg/kgを緩徐に静注。
            維持量は1V=1000mgを生食または5%グルで100mlと
      し、6〜24滴(6滴=1mg/分)。大量に使用する場合でも、
      300mg/時間、3000mg/日を越えないことが望ましい。
  [代 謝]効果発現は45〜90秒、効果持続は20〜40分。有効血中濃度
      =1〜6μg/ml。約90%が肝で代謝をうけ(代謝産物にも薬
      理活性あり、半減期はリドカインよりも長い)、10%以下がその
      ままの形で腎から排泄。
  [適 応]心室性期外収縮、心室頻拍
 [副作用]傾眠、痙攣、興奮。不整脈、心機能抑制、血圧低下。
 [注 意]心不全、肝機能低下などでは減量する。36時間以上の長期投与で
      は減量が必要な事もある。
  [配合禁]エピネフリン、イソプロテレノール、アンフォテリシンB、バルビ
      タール、サルファ剤、アンピシリンなど
  [相 互]筋弛緩薬の作用を増強。プロプラノロールの半減期を延長

【グリセロール glycerol】 1V=300ml&500ml

 一般名グリセオール(glyceol)。10%グリセオール、5%果糖、0.9%
 NaClからなる。浸透圧利尿剤の1つ。本剤は脳浮腫を軽減し、CSF圧、
  眼圧を低下させ、脳血流に対し有利な効果をもたらす。1gあたり4.32カロ
 リーの栄養源にもなる。

 [用 量]300〜500mlを2〜3時間で投与する。
      500〜1500ml/日をゆっくり投与してもよい。
  [代 謝]80〜90%が肝で処理され、10〜20%が腎から排泄される。
      マンニトールと異なり、細胞内に取り込まれても、代謝され栄養源
      となる。脳圧を初圧の約50%低下させ、2〜3時間持続する。
  [適 応]頭蓋内圧亢進症、頭蓋内浮腫の治療、眼圧降下
 [副作用]投与速度が速いと溶血、血色素尿症、腎不全。腎障害時には、循環 
       血液量増加をきたし、脳浮腫の悪化をまねくことがある。また高齢
      者では高浸透圧非ケトン性昏睡をおこすことがある。
 [注 意]0.9%のNaClを含むので、高血圧、うっ血性心不全、高Na血
      症に注意。

【ジゴキシン digoxin】  1A=0.25mg/1ml

 強心配糖体の1つで、Na−Kポンプの抑制により、細胞内Naが増加する。
 この結果、Na−Ca交換が促進されて細胞内Caが増加することにより、心
 筋の収縮力と収縮速度を増加させる陽性変力作用を有する。また房室結節に対
 する直接作用と迷走神経興奮を介する間接作用により房室伝導が抑制される。
 さらに心室筋に対しては、自動能を亢進する。

 [用 量]使用目的により投与方法は異なるが、1回0.25mgを5%グル 
      または生食で20mlとし、ゆっくり静注。必要であれば2〜4時
      間後、同量を追加投与する。投与の既往の有無に注意。
 [代 謝]静注の効果発現は15〜30分。最大効果は2〜3時間。半減期は
      30〜50時間(心不全、腎不全、甲状腺機能亢進症で延長)。主
      に腎から排泄され、14%が代謝を受ける。有効血中濃度は0.8〜
      2.0ng/ml。0.5以下は効果なし。2.5以上は中毒域。血中
      濃度測定は最低でも投与後6時間、できれば24時間後が望ましい。
 [適 応]うっ血性心不全、上室性頻拍型不整脈
 [副作用]1)心症状:不整脈(PVC・AVブロック・PAT with block など)
            2)心外症状:消化器症状(悪心・嘔吐・食欲不振)、中枢神経症状
       (頭痛・めまい・興奮・知覚異常・幻覚)、眼症状(羞明・視力
       低下・黄視)、内分泌症状(女性化乳房・不正出血)。 
 [注 意]1)腎機能障害では、維持量はCcrより次の式により算出する。
                  投与量=標準維持量×(1−(1−Ccr/100)
      2)老齢者、粘液水腫などでは減量して使用する。
      3)低K血症、低Mg血症、低酸素血症などでは中毒をきたしやすい。
            4)急激な静注により、血管収縮や心拍出量減少をきたすことがある。
            5)ジギタリス中毒と判断したら、ジギタリスの投与中止、電解質の
       補正、抗不整脈剤(リドカイン・フェニトイン・プロカインアミ
       ドなど)の投与など、必要な処置を行う。
 [相 互]1)ジギ濃度を上昇させる薬剤:キニジン、ベラパミル、ニフェジ 
       ピン、抗コリン剤
            2)ジギ濃度を低下させる薬剤:制酸剤、フェノバルビタール、コレ
       スチラミン
 [禁 忌]ジギタリス中毒、閉塞性肥大型心筋症、WPW症候群に伴う頻脈発
      作、心室頻拍、心室細動、徐脈性不整脈、SSS、房室ブロック。

【テラプチク theraptique】 1A=45mg/3ml(静注用)
                       30mg/2ml(筋注用)

 一般名ジモルホラミン。直接的呼吸中枢刺激薬の1つ。主として1回換気量を
 増すことにより分時換気量を増加させる。呼吸数の増加は軽度。循環賦活作用
 もあると言われている。

 [用 量]1回30〜60mgを皮下注、筋注、または30〜45mgをゆっ
      くり静注。1日250mgまで
 [代 謝]
  [適 応]麻酔薬使用時、睡眠薬中毒、ショック、熱性疾患での呼吸障害、循
      環機能低下、新生児仮死など。
 [副作用]悪心、嘔吐、めまい、興奮、痙攣、紅斑、くしゃみ、咳など。
  [注 意]筋注用は局麻剤(塩酸メプリルカイン30mg)を含有するので静
      注は不可。静注では血圧低下、胸内苦悶、痙攣、PACが出現する
      ことがあるので緩徐に投与する。

【ドブトレックス Dobutrex】 1A=100mg
 
 一般名ドブタミン(dobutamine)=DOB。イソプロテレノール類似の合成薬
 物。β1受容体に対する直接刺激作用により、心筋収縮力と心拍出量を増加させ
 る。変時作用、不整脈催起作用は少なく、また肺動脈楔入圧を上昇させない。
 大量投与時(20γ/kg/分以上)は心拍数が増加してくるが、血管に対す
 る作用はα作用(血管収縮)より、β2受容体刺激作用(血管拡張)が有意であ
 るために、過度の末梢血管抵抗の増加がなく、心筋への負担も少ない。利尿効
 果は期待できない。
 
 [用 量]2γ/kg/分〜20γ/kg/分の範囲で用いる。
  [代 謝]効果発現は1〜2分、最大効果は数分、半減期は2分。肝で代謝さ
      れる。
  [適 応]急性循環不全における心収縮力増強
 [副作用]悪心、嘔吐、頭痛、胸痛、心拍数増加、収縮期圧増加(少量投与時)
      不整脈(PVCが多い)、低血圧(大量投与時)
 [注 意]投与前に hypovolemia は補正しておく。高血圧、冠動脈疾患、不整
      脈などでは慎重に投与。20γ/kg/分以上では頻脈、低血圧、 
       不整脈をきたすことがある。希釈後も24時間は安定。原則として
      中心静脈からポンプで投与する。
  [配合禁]pH8以上のアルカリ性の溶液とは配合禁忌。

【ドプラム dopram】  1A=400mg/20ml

 一般名塩酸ドキサプラム。主として、末梢性化学受容体(おもに頚動脈体)を
 介して呼吸中枢を刺激し、1回換気量を増すことにより分時換気量を増大させ
 る。

 [用 量]1〜2mg/kg/hrの速度で点滴静注。1日2.4gまで。
 [代 謝]従来の呼吸刺激薬に比し、広い安全域を有し、代謝がすみやかで調
      節性に富んでいる。作用持続時間は5〜12分。半減期は約4分。
 [適 応]慢性肺疾患の急性増悪、呼吸抑制など
 [副作用]興奮状態、振戦、間代性痙攣、頻脈、不整脈、悪心、肝障害、尿蛋
      白、消化性潰瘍、低血糖、過敏症状
 [注 意]慢性肺疾患に伴う急性呼吸性アシドーシスに使用するときは、最初
      の2時間は頻回に血液ガスをチェックし、悪化する時は人工換気を
      考慮する。
  [禁 忌]てんかんなど痙攣の危険を有する場合、重症の高血圧、脳血管障害、
      冠動脈疾患、重症心不全


【ニトロール nitrol】 

 一般名硝酸イソソルビド(ISDN)。血管とくに容量血管(末梢静脈)の平
 滑筋に対する直接的な血管拡張作用により、静脈還流が減少し、心筋の酸素需
 要の減少が起こる。又、冠血管の太い部分の拡張により、心筋特に心内膜下層
 への酸素供給を増大する。さらに冠スパスムの解除により冠血流量を回復させ
 る。経口剤、経皮的外用剤、静注剤がある。ニトログリセリンに比し効果の発
 現が遅い。

 [用 量]1)経口剤 1T=5mg 主として屯用で舌下または内服投与する。
            2)徐放剤  1T=20mg 1回1〜2T 1日2回
      3)経皮外用薬 1枚40mg 1回1枚 24〜48時間毎
      4)静注剤 1A=5mg/10ml 5mg 静注 または 2〜10
              mg/hrの速度で持続静注
 [代 謝]1)舌下投与:数分で効果発現し、約2時間持続
      2)経口投与:20〜30分で効果発現し、約4時間持続
      3)徐放剤内服:約1時間で効果発現し、8〜12時間持続
      4)経皮外用薬:約1時間で効果発現し、24〜48時間持続
            5)注射:投与直後から効果発現。効果持続は短く半減期は30分。
 [副作用]頭痛、めまい、胃腸障害、心悸亢進、顔面紅潮、熱感
 [注 意]通常の点滴セット(塩化ビニル)に吸着するので、専用の点滴セッ
      トを使用する。


【ネオフィリン】  1A=250mg(2.5% 10ml)
 
 一般名=アミノフィリン(Aminophylline)。キサンチン(xanthine)誘導体の1
 つで、85%のTheophyllineと5%のEthylendiamineからなる。気管支拡張、
 利尿、心臓刺激、消化管刺激、平滑筋弛緩作用を持つ。 
  
 [用 量]初回量:4〜6mg/kgを30分かけ点滴静注する。
      維持量:0.5mg/kg/時間×体重×病態係数
       病態係数=非喫煙者1、喫煙者1.6、うっ血性心不全0.4、肝
       硬変0.4、重症閉塞性肺疾患0.8
 [代 謝]静注の効果発現は15分以内、半減期は3〜9時間。有効血中濃度
      は10〜20μg/ml。中毒閾値は20μg/ml以上。大部分
      が肝で代謝を受ける。
 [副作用]食欲不振、悪心、嘔吐、神経過敏、不眠、頭痛、不整脈、痙攣
 [注 意]バルビタール常用者では、排泄がすみやか。
      エリスロマイシン、タガメットは作用増強。カテコールアミンとの
      併用は心拍数増加。 極量:1500mg/日
 [配合禁]アミノフィリンはpH8〜9の塩基性溶液なので、エピネフリン、
      イソプロテレノール、ドパミン、ドプラム、クリンダマイシン、 
      エリスロマイシン、混合ビタミン剤、ペニシリンGなどと配合禁忌


【ノルアドレナリン】 1A=1mg/1ml

 α作用が主体。末梢血管を収縮させて血圧を上昇させる。心筋酸素需要は増加
 するので心筋壊死が拡大する可能性がある。DOA、DOBで十分な血圧上昇
 が得られないとき、冠および脳血流量を維持するため使用するが、腎血流量は
 減少する。心拍出量、心機能にはほとんど変化を与えず、代謝に及ぼす影響は
 アドレナリンにくらべてはるかに少ない。

 [用 量]0.1μg/kg/分で開始。必要に応じて調節する。
      ノルアド3Aを5%グルで100mlとし、下の表を参照
                   
             γ/kg/分   0.1   0.2  0.3  0.5                
           -----------------------------------------------               
              40kg     8    16   24   40                 
           -----------------------------------------------                
              50kg    10   20   30   50                 
           -----------------------------------------------               
              60kg    12   24   36   60                 
           -----------------------------------------------                
              70kg    14   28   42   70                 
           ----------------------------------------------- 
               
  [代 謝]作用時間は30秒から1分。
  [適 応]ショック、急性低血圧
  [副作用]心悸亢進、不整脈、頭痛、過敏症状、胃腸障害
 [注 意]血管外漏出により組織の壊死!
  [禁 忌]妊婦、コカイン中毒、心室性頻拍


【フェノバール】  1A=100mg/1ml(10%)

 長時間型のバルビタール系睡眠薬。視床および上行性脳幹網様体のレベルに作
 用するほか、中枢抑制作用がある。

 [用 量]1回1A筋注。原則として静注はしない(低血圧と呼吸抑制のため)
      静注する場合は1A=100mgを希釈し、10〜20分かけて点
      滴静注で投与する。
 [代 謝]効果発現時間は60〜120分。効果持続時間は6〜8時間。
      半減期は平均4日。有効血中濃度は15〜25μg/ml。
      肝で代謝を受ける。30%は腎より排泄される。
 [適 応]不眠症、てんかん、精神不安、ヒステリー
 [副作用]20μg/ml以上で眼振、30μg/ml以上で眠気、50μg
      ml以上で運動失調。
 [注 意]フェニトインとの併用でフェニトインの代謝を促進する。一方フェ
      ノバールは血中濃度が上昇する。腎不全、肝不全では慎重に使用。


【フサン】 1V=10mg、50mg

 一般名メシル酸ナファモスタット。蛋白分解酵素阻害薬で、トリプシン、フォ
 スフォリパーゼA2、トロンビン、活性化第]U因子、活性化第]因子、カリク
 レイン、プラスミンなどに対し、強い阻害活性を有している。抗膵酵素活性は
 FOYの約10倍、抗凝固活性は約100倍と言われている。
 [用 量]1)膵炎:1回10mgを5%グル500mlに溶解し、約2時間前
       後で1日1〜2回点滴投与。
      2)DIC:0.06〜0.20mg/kg/hrを24時間持続点滴。
       末梢から投与するときは5%グル1000mlに溶解することが
       望ましいが、中心静脈から投与する場合は、20〜100mlの
       5%グルで投与可能。
      3)出血傾向を有する患者の体外循環時の潅流血液の凝固防止:20
       mgを500mlの生食に溶解し回路を洗浄充填。その後20〜
       50mg/hrを5%グルに溶解し、抗凝固剤注入ラインより持
       続注入。
  [代 謝]小腸、肝、血液などのエラスターゼにより分解され、おもに腎から
      排泄される。腎不全でも代謝産物の血中からの排泄は速く、長期透
      析症例でも蓄積に起因する副作用はない。血中半減期は約10分。
 [適 応]急性膵炎、DIC、体外循環時の抗凝固薬として。
 [副作用]過敏症状、下痢、静脈炎、肝機能異常、白血球減少、血小板増加


【プロスタンディン】 1A=20μg、500μg

 一般名プロスタグランディンE1。主として抵抗血管を拡張して、心拍出量を増
 加させる。さらに冠血流量、腎血流量をも増加させる。ほかに、血小板凝集抑
 制作用、動脈管開大作用を持つ。

 [用 量]1)慢性動脈閉塞症:1日10〜15μg(0.1〜0.15ng/ 
       kg/分)を持続動注。
      2)末梢血行障害:1日1〜2回、1回40〜60μgを500ml
       に溶解し、2時間で点滴静注(5〜10ng/kg/分)
      3)低血圧維持:5〜10μg/分(0.1〜0.2μg/kg/分)
       で開始。2.5〜10μg/分で維持。1A=500μgを5%
       グルで100ml(5μg/ml)として使用。
  [代 謝]肺循環を1回通ると90%以上が代謝されて効果がなくなる。
 [適 応]慢性動脈閉塞症(動注)、振動病における末梢血行障害、血行再建
      術後の血流維持(静注)。術後の低血圧維持(静注)
 [副作用]頭痛、血管痛、血管炎、悪心、嘔吐、肝機能障害


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