【酸塩基平衡の異常】

A)酸塩基平衡にかかわる用語(terminology)
 *アシドーシス(acidosis):呼吸性または代謝性の障害により、酸の増加か
  塩基の喪失のいずれかが起こる病的な生理過程。pHが7.4以下でないこと
  も有り得る。
  *酸血症(acidemia):体液のpHが7.4より小さいことを表現する用語。
  アシドーシスの場合、多くは酸血症の状態になる。
 *アルカローシス(alkalosis):アシドーシスと逆の機序により、塩基の増加
  か酸の喪失のいずれかが起こる病的な生理過程。
 *アルカリ血症(alkalemia):体液のpHが7.4より大きいことを表現する
  用語。
 *酸・塩基:酸とはH+を放出するもの、塩基とはH+を受け入れるもので、酸
  と塩基は一般に共軛対となっている。
   例)H2CO3←→ HCO3-+H+
     H2CO3はこの定義上酸であり、HCO3-は塩基である。
 *固定酸:生体内で生じる酸のうち、炭酸以外の酸の総称。具体的には、塩酸
  ・燐酸・硫酸・ケト酸・乳酸などを指すが、炭酸ガスとして肺から排泄でき
  ず、腎からのみ排泄されるのでこの名称がついた。
 *緩衝:生体内の弱酸とその共軛塩基対は、上記の平衡関係のもとで、H+過剰
  の状態では反応が左へ、H+減少の状態では反応が右へ進むため、結果として
  体液のpHは7.4前後の一定の値を維持させる作用を有する。この作用を緩
  衝と呼ぶ。実際に生体内で緩衝にかかわっているのは以下のものである。
   重炭酸緩衝系(53%):血漿重炭酸(35%)、赤血球重炭酸(18%)
   非重炭酸緩衝系(47%):ヘモグロビン(35%)、リン酸(5%)、
                血漿蛋白(7%)。
  *buffer base(BB):生体内で緩衝に関与している塩基の総和。正常の状態
  では48mEq/ 。
 *Henderson-Hasselbalchの式
   pH=pK+log[HCO3-]/[H2CO3]・・・・(1)
    この式は、重炭酸緩衝系において、平衡状態が成り立っているときに以下の
  関係が成立することに基づいている。
   K=[H+][HCO3-]/[H2CO3]
  両辺の対数をとり、
   logK=log[H+]+log[HCO3-]/[H2CO3]
  ここで、pH=−log[H+]とすると、式(1)になる。この式を導く過
  程で化学的にはいくつかの問題を含んでいるが、臨床的には極めて重要な意
  味を持つ。HCO3−は腎で調節される代謝性の要因を表現し、H2CO3は肺
  で調節される呼吸性の要因を表現しているので、(1)は以下のように書き
  直せる。
     pH=代謝性因子/呼吸性因子・・・・(2)
 *代償:生体は緩衝系そのもののpH維持機構のほかに、重炭酸緩衝系におけ
  る代謝性因子と呼吸性因子のバランスを保つことによりpHを一定に保とう
  とする。例えば、代謝性アシドーシスの際には、HCO3-が減少し酸血症と
  なる(上記式2で分子が減少)が、生体は過換気により(上記式2で分母が
  減少)pHの低下を防ごうとする(呼吸性代償)。代償は通常不完全でpH
  を完全に正常に復し得ないことが多いが、ごく希に過代償になることもある。

 *単純性酸塩基平衡異常における代償変化の予測範囲と限界(表1)
 ------------------------------------------------------------------------- 
      一 次 性 病 態      |      予  測  範  囲       |    限 界 値    
 -------------------------------------------------------------------------  
 代謝性アシドーシス      | ΔPaCO2/ΔHCO3−=1.0-1.3  | PaCO2=15Torr   
 代謝性アルカローシス    | ΔPaCO2/ΔHCO3−=0.5-1.0  | PaCO2=60Torr   
 急性呼吸性アシドーシス  | Δ[H+]/ΔPaCO2=0.75      | HCO3-=30mEq/l  
 慢性呼吸性アシドーシス  | ΔHCO3-/ΔPaCO2=0.35      | HCO3-=42mEq/l  
 急性呼吸性アルカローシス| Δ[H+]/ΔPaCO2=0.75      | HCO3-=18mEq/l  
 慢性呼吸性アルカローシス| ΔHCO3-/ΔPaCO2=0.50      | HCO3-=12mEq/l  
 -------------------------------------------------------------------------  

 *base excess(BEまたはABE(actual base exess)):buffer base の正
  常値からの偏位。正の場合は塩基過剰、負の場合は塩基欠乏を意味し、代謝
  性異常のよい指標となる(正常値=0±3.0)。また呼吸性異常でも代償性
  のBEの変動が見られる。しかし、現在使用されている血液ガス測定機では、
  BEはHCO3-により計算された数値であるので、臨床的にはHCO3-濃度
  の変化とほぼ同じ意味を有すると考えてよい。
 *緩衝価(buffer value):全血にCO2 を加えてpHを低下させた時に、単
  位pHの変化当りに増減するHCO3−の濃度。試験管内では、緩衝価は31
  mEq/l/単位pHであり、生体内での緩衝価は12mEq/l/単位pH
  程度になる。
 *standard base exess(SBE):生体内の緩衝価を用いて計算したBE。
  実際上はABEとほぼ同じ値をとることが多い。しかし、ABEは負のBE
    を過大評価する傾向があり、急性呼吸性アシドーシスの時に著しいが、この
  問題はSBEを使用することにより克服される。
  *アニオンギャップ(anion gap):Cl-、HCO3-以外の陰イオンの総量。 
  これらは通常測定されない陰イオンで、正常の場合は燐酸イオン・硫酸イオ
  ンなどが含まれる。特殊な病態では、乳酸・ケトン体なども含み、以下の方
  法で計算される。
   AG=Na+−(Cl-+HCO3-)  (正常8〜12mM)
      注)AG=Na++K+−(Cl-+HCO3-)はあまり用いられない。
  *significance band:生体内のHCO3-とPaCO2の関係を病態毎に両者の
  平均値の95%信頼区間として表現したもの。呼吸性アシドーシス(急性・
  慢性)、呼吸性アルカローシス、代謝性アシドーシス、代謝性アルカローシ
  スの5つのバンドからなる。significance bandは、代償が加わった場合の一
  次性の変化が呼吸性か代謝性かの鑑別、混合性酸塩基平衡異常の診断などに
  有用である。例えば、患者の血液ガス値が、慢性呼吸性アシドーシスと代謝
  性アルカローシスのsignificance bandの中間に位置した場合、呼吸性アシ
  ドーシスと代謝性アルカローシスの混合性障害が存在する可能性がある。

[Significance band]
















B)呼吸性アルカローシス
  1)病態:PaCO2=0.863UCO2/UA
   (UCO2=CO2産生量、UA=肺胞換気量)
   ここでUCO2はほぼ一定なので、PaCO2は肺胞換気量に反比例する。
   即ち、PaCO2の上昇は肺胞低換気を、PaCO2の低下は肺胞過換気を
   意味する。何らかの原因で呼吸性アルカローシスがおこると、まず緩衝に
   より軽度のHCO3-の低下とCl-の上昇が起こる(急性定常状態、数時間
   持続)。その後徐々に腎による代償が生じ(HCO3-の減少)、数日後に
   新たな定常状態になる。
  2)原因
  1.呼吸中枢機能異常:過換気症候群、中枢神経疾患(脳血管障害・脳腫瘍・
   外傷・脳炎・髄膜炎)、薬剤(サリチル酸・ニコチン・キサンチン・カテ
   コールアミン・プロゲステロン)、発熱など。
  2.肺疾患:間質性肺炎(含ARDS)、肺線維症、肺梗塞、肺炎、肺水腫。
  3.その他の原因による低酸素血症
  4.外的要因:レスピレーターによる過換気。
 3)症状
  1.急性呼吸性アルカローシス:PaCO2低下により心拍出量の低下、脳血流
   量の低下が起こるため意識障害が、またアルカローシスによる症状として、
   四肢末端のしびれ感・ミオクローヌス・テタニー・めまいなどが出現する。
  2.慢性呼吸性アルカローシス:持続性のアルカローシスのため、末梢神経の
   被刺激性亢進による動悸、前胸部不快感、めまい(dizziness)、四肢のし
   びれ感、胸やけ、こむらがえり、筋収縮性頭痛、注意力散漫、睡眠障害、
   発汗などがみられる。
 4)診断:単純性の場合は、PaCO2の低下、アルカリ血症より診断は比較的
   容易。代償性の代謝性変化は不完全なことが多く、アルカリ血症がかなり
   一定して見られる。代謝性アシドーシスの混在を見落とさないように注意!
 5)治療
   1.原疾患の究明と治療。
   2.低酸素血症の治療=酸素の投与。
   3.過換気症候群の場合は、ペーパーバックなどによる再呼吸、セルシン5
    〜10mg(またはフェノバール100mg)筋注など。
C)呼吸性アシドーシス
 1)病態:呼吸性アルカローシスの逆。つまり肺胞低換気が起るために生じる。
   これ以後の変化(緩衝・代償)は呼吸性アルカローシスと逆のことが起こ
   る。
 2)原因:換気障害、肺の拡散障害、肺循環障害のいずれかまたは2つ以上が
   組合わさって生じる。具体的には、
  1.肺疾患:慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、肺水腫、肺炎、肺線維症末期
  2.上気道閉塞:喉頭浮腫、閉塞型睡眠無呼吸
  3.呼吸中枢障害:薬剤(鎮静剤・麻薬)、中枢神経疾患(脳血管障害・脳腫
   瘍など)
  4.神経筋疾患:重症筋無力症、Guillan-Barre症候群
  5.その他:胸郭変形、レスピレーターの設定不適切、筋弛緩剤
 3)症状:脳脊髄液のpHの低下による中枢神経症状(全身倦怠感・脱力感・
      頭痛・抑うつ・不安・錯乱・せん妄・昏睡など)が主体となる。心血管系
   症状(頻脈・血圧上昇・末梢血管拡張による四肢の温感など)も一般的に
   認められる。その他、重症では振戦、クローヌスなど。
 4)診断
  1.急性呼吸性アシドーシス:酸血症を伴うPaCO2の上昇があれば診断は容
   易。ほとんど全例に低酸素血症を伴う。呼吸性アシドーシスが急性か慢性
   かの判断が困難な時には、significance bandを利用するか、下の式を使用
   する。pH=7.4、PaCO2=40を正常として、
    急性:ΔpH/ΔPaCO2>0.007
    慢性:ΔpH/ΔPaCO2<0.003
    慢性の急性化(acute on chronic)では0.003〜0.007。
    2.慢性呼吸性アシドーシス:種々の程度の酸血症とPaCO2の上昇が見られ、
   代償性のHCO3-の上昇を通常伴う。ほとんど全例に低酸素血症を伴う。
   換気の補助がなされてしまうと、見かけ上アルカリ血症を呈することがあ
   り、代謝性アルカローシスとの鑑別が困難になることも少なくないので、
   可能な場合は、換気補助前に血液ガスにて酸塩基平衡の評価を行う。
 5)治療
  1.換気障害が高度の時は気道確保、換気の救急処置が最優先。
  2.適切な量の酸素の投与(過量投与による呼吸抑制に注意!)
  3.原疾患の鑑別と治療(呼吸不全の項P35〜47参照)

D)代謝性アルカローシス
 1)病態:以下に述べる原因によるH+の喪失(Cl-喪失が一次的変化である
   ものも含む)または、HCO3-の過剰蓄積により起こる。一般に代償性の
   呼吸抑制は軽度でPaCO2が60torrを越えることは希であるが、重症の
   代謝性アルカローシスでは、まれに強い呼吸抑制を引き起こし呼吸性アシ
   ドーシスが合併することもある。
 2)原因
  1.HCO3-の過剰投与(臨床的にはまれ):ミルク・アルカリ症候群、メイ 
   ロンの過剰投与(特に心肺蘇生時)。
   注)正常の腎は、かなりすみやかに負荷されたHCO3-(およびその前駆
     体である乳酸・クエン酸・酢酸)を排泄できるので、実際にこの病態
     が出現するのは救急蘇生時のメイロン過剰投与時以外は希である。
  2.Cl-反応性代謝性アルカローシス(尿中Cl-<10mEq/l)
   a)腸管よりのH+・Cl-の喪失:胃液喪失(嘔吐・吸引)、大腸 villous
    adenoma(便からのCl-喪失による)、WDHA症候群(希)、先天性
    Cl-下痢症(希)。
   b)腎からのH+・Cl-の喪失:利尿剤(サイアザイド・フロセミド・エタ
    クリン酸・水銀性利尿剤)。
   c)慢性高炭酸ガス血症治療後:代謝性代償が行われている慢性呼吸性アシ
    ドーシスの換気を改善した時。比較的高頻度にみられるので要注意。
   d)副甲状腺機能低下症:近位尿細管からのHCO3-再吸収増加とCl-の排
    泄促進。
  3.Cl-抵抗性代謝性アルカローシス(尿中Cl->20mEq/l)=ミネ
   ラルコルチコイド過剰:クッシング症候群(含ACTH産生腫瘍)、アル
   ドステロン症(原発性・2次性・特発性)、甘草長期投与、Bartter症候群
 3)症状、検査成績:軽度のアルカリ血症の場合には通常臨床症状に乏しい。
   HCO3-が50mEq/l以上になると傾眠傾向、見当識障害、テタニー、
   痙攣、不整脈などを起こすことがある。検査成績では、Kの低下、Caの
   低下が高頻度にみられ、Cl-反応性では低Cl血症が見られる。呼吸性代
   償は一般に不完全でpHは7.4〜7.6程度の値をとることが多い。
 4)診断:上記検査成績より、代謝性アルカローシスの存在診断は容易である。
   治療とのかかわりで原因の特定が極めて重要で、まず血清・尿中Clの測
   定を行いCl-反応性か抵抗性かを決定、さらに個々の原疾患の鑑別を行う。
 5)治療
  1.Cl-反応性の場合
   a)生理食塩水500ml+KCl(10〜20ml)の組成で、脱水の程
    度に応じた量を投与。一般に緊急補正の必要は無いので、緩除な補正を
    心がける。KClによる血管炎の発生に注意。原則としてK投与量、投
    与速度は補正の際の安全限界を守る。
   b)原疾患の治療
  2.Cl-抵抗性の場合:原因の除去、原疾患の治療につきる。

E)代謝性アシドーシス
 1)病態:一次性に体液のHCO3-が減少した状態。HCO3-の喪失(アニオ
   ンギャップ正常)か固定酸(燐酸・硫酸・乳酸・ケト酸・塩酸など)の増
   加のいずれかにより生じる(塩酸以外の固定酸が増加すると、アニオンギ
   ャップが増大する)。通常呼吸性代償(PaCO2の低下)を伴う。呼吸性
   代償は脳脊髄液のpHの低下により延髄の呼吸中枢が刺激されることによ
   っておこるが、細胞外液におけるHCO3-と脳脊髄液のそれとが平衡状態
   に達するまでには数時間を要するため、呼吸性の代償は遅れる傾向にある。
   従って、初診時には酸血症の状態のことが多い。。
 2)原因・分類
  1.アニオンギャップ増大
   a)乳酸アシドーシス(乳酸増加):組織の虚血、ショック、肝不全、敗血
    症、悪性腫瘍、肺梗塞、薬剤(メタノール・エタノール・ビグアナイド
    剤・サリチル酸など)      
   b)ケトアシドーシス(ケト酸増加):糖尿病、飢餓時、アルコール中毒
   c)腎不全(リン酸・硫酸増加)
  2.アニオンギャップ正常
   a)HCO3-の喪失:腎からの喪失(ダイアモックス使用時・RTA2型・
    4型・副甲状腺機能亢進症・急性腎不全初期)、腸管からの喪失(下痢)
   b)酸の過剰投与:アミノ酸過剰投与
 3)症状
  1.呼吸器症状:過呼吸(最初は深い呼吸、次第に頻呼吸)
  2.中枢神経症状:見当識障害、昏迷、昏睡
  3.循環器症状:血圧低下(心収縮力の低下と末梢血管拡張による)、心不全、
   不整脈(心室性期外収縮・心室細動)
  4.消化器症状:食欲不振、悪心、嘔吐
  5.電解質異常:高K血症、高Cl血症
 4)診断:血液ガス所見より、HCO3-の減少(BEの低下)、酸血症、代償
   性のPaCO2の低下が見られれば存在診断は容易。代償により酸血症が見
   られないときは臨床症状、臨床経過、他の検査成績、significance band
   などにより総合診断を行う。代謝性アシドーシスの診断がついたら、アニ
   オンギャップを計算し、さらに原因の検索を行う(ケトン体定量、尿中ケ
   トン体定性、血中乳酸値の測定、腎機能の評価、血糖の測定など)。
 5)治療
  1.原疾患の鑑別と、治療が最も大切。
  2.メイロンによる補正:以下の式により、メイロンの投与量を決める。しか
   し、メイロンによる補正は時間稼ぎの補助療法であることを念頭に置く。
    メイロン投与量(ml)=BE×体重(Kg)×0.25 
   通常、この半量を投与(half correct)する。代償が十分に効いている場
   合はメイロンの投与はほとんど意味がない。またメイロンの投与はそれ自
   体が相当のNa負荷にもなる(メイロン90mlで生食500mlのNa
   Clに相当する)。さらにメイロンは固定酸の量を(開大したアニオンギ
   ャップ)を減少させないので、アニオンギャップ正常の代謝性アシドーシ
   ス以外は、原因の治療が最優先。代謝性アシドーシスの際のメイロンの投
   与はくれぐれも慎重に!

F)混合性酸塩基平衡異常:2つ以上の独立した酸塩基平衡異常が同時に存在す
  る病態。
 1)急性呼吸性アシドーシスと慢性呼吸性アシドーシス:慢性閉塞性肺疾患な
   どで慢性呼吸性アシドーシスがある患者で、急性呼吸不全を引き起こした
   時に発生する。急激なPaCO2の上昇とpHの低下が見られ、HCO3-上
   昇による代償は不完全に存在する。
  2)代謝性アシドーシスと呼吸性アシドーシス
  1.病態、原因:PaCO2の上昇と、HCO3-の低下が同時に存在し、代償の
   所見がみられない状態。具体的には次のような状態が考えられる。
   a)代謝性アシドーシスの患者が、呼吸器疾患を併発し呼吸不全に陥った。
   b)慢性閉塞性肺疾患の患者が腎不全を併発した。
   c)呼吸性アシドーシスと代謝性アシドーシスが同時に発生した。
    1)ショック、心呼吸停止
    2)慢性閉塞性肺疾患による低酸素血症の結果乳酸アシドーシスを併発
    3)ケトアシドーシスがある時に低K血症、低燐血症が合併(呼吸筋力低
     下による換気不全が起こる)
     4)薬物中毒(シンナー・サリチル酸・メタノール):薬物による呼吸抑
     制と薬物による腎機能障害
  2.治療
   a)原疾患の治療
   b)呼吸管理(十分な換気と適切な酸素の投与)
   c)メイロンの投与
 3)呼吸性アルカローシスと代謝性アルカローシス
  1.病態・原因
   HCO3-の上昇と、PaCO2の低下が共存する状態で、以下の2つの状態
   が適当に組み合わされて発症する。
   a)呼吸性アルカローシスをきたす状態:過度の人工呼吸、低酸素血症、敗
    血症、中枢神経障害、肝不全など
   b)代謝性アルカローシスをきたす状態:嘔吐、胃液の吸引、メイロンの過
    量投与、大量の輸血(クエン酸中毒)
   *具体的には以下のような状態が考えられる。
    1)妊娠(妊娠による過呼吸と嘔吐によるH+の喪失)
    2)肝不全の状態で利尿剤を投与し、かつ嘔吐・吸引により胃液喪失時。
    3)レスピレーターの条件が過呼吸で、胃液の喪失が共存している状態。
  2.症状・徴候:アルカリ血症による種々の変化が出現する。
   a)中枢神経症状:頭痛、見当識障害、意識障害、痙攣(脳血管収縮による
    脳血流量減少と酸素解離曲線の左方偏位による脳組織内低酸素による)
   b)低Ca血症
   c)末梢神経症状:四肢のしびれ
   d)不整脈(低K血症が存在するとさらに高頻度になる)
  3.治療:原因の特定と原因の除去につきる。
  4)呼吸性アシドーシスと代謝性アルカローシス
    1.病態・原因:呼吸性アシドーシスで異常に高いHCO3-が見られる状態、
   または、代謝性アルカローシスで異常に高いPaCO2が見られる状態で、
   具体的には
   a)慢性閉塞性肺疾患+利尿剤などの投与による代謝性アルカローシス
   b)代謝性アルカローシスに低K血症を伴い、筋力低下による換気不全など。
  2.治療:呼吸管理と適切な補液による代謝性アルカローシスの治療。
 5)代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシス
  1.病態・原因:上記4)の逆の病態で具体的には以下のような状態。
   a)腎毒性かつ呼吸中枢を刺激するような薬物の中毒(サリチル酸など)
   b)肝不全+腎不全
   c)呼吸促迫+代謝性アシドーシスをきたす重症疾患:ショック、敗血症
   d)過呼吸を伴う重症熱傷。
   e)肺・腎症候群:Goodpasture症候群、ウェジナー肉芽腫、SLE、PN、
    結核、腎不全+軽度の肺水腫、尿細管性アシドーシスなど
  2.治療:代謝性アシドーシスの治療を一般に優先する(より重症のことが多
   い)
 6)代謝性アシドーシスと代謝性アルカローシス
  1.病態・原因:代謝性アシドーシスによる嘔吐など。
   見かけ上、血液ガス所見は正常であるが、低Cl血症、アニオンギャップ
   の増加が見られる。代謝性アシドーシス(糖尿病性ケトアシドーシス・乳
   酸アシドーシス・尿毒症など)に、嘔吐や胃液の吸引などが重なると生じ
   る。
    2)治療:血液ガス所見は見かけ上正常であるが、代謝性アシドーシスの原因
   は除去されていないので治療が必要。

Z)血液ガスデーターの解釈の仕方:以下の過程で診断を行う。
 1)まずpHを見る。                     |例                     
     酸血症かアルカリ血症か?         |pH=7.11             
 2)PaCO2の値とHCO3-(またはBE) |       →酸血症        
   の値より酸血症またはアルカリ血症を  |HCO3-=8mEq/l    
   おこしている一次的変化は呼吸性過程か |PaCO2=26torr       
   代謝性過程かの判断する。              |                          
      現在の病態は単純性酸塩基平衡異常と    | →代謝性アシドーシス    
      仮定して、ここまでの情報だけでとり    |             を疑う。  
      あえず酸塩基平衡異常の診断名をつける。|                         
  3)呼吸性変化の場合、                    |                          
   急性か慢性かの判定を行う。            |                          
   (呼吸性アシドーシスの項参照)        |                          
 4)代償変化の評価                        | ΔPaCO2=14        
   ΔPaCO2/ΔHCO3-値(表1参照)  | ΔHCO3-=16         
   または、significance bandにて代償変化 | ΔPaCO2/ΔHCO3-  
   が、単純性酸塩基平衡異常として適当か  |  =0.875            
   どうかの評価を行う。                  |                          
 5)代謝性アシドーシスの時はアニオン    | →PaCO2の低下が    
   ギャップを計算する。                |  HCO3-の低下に比して
 6)患者の臨床経過、病態に戻り、酸塩基平 |  小さすぎるので、呼吸性
   衡異常をきたした原因の検討を行う。    |  アシドーシスの混在を疑
                      |  う。                  
                                    

・参考文献
 1.Eastham:A guide to water, electrolyte and acid-base metabolism.
    Write PSG. 1983
  2.山林一也:血液ガス−わかりやすい基礎知識と臨床応用 医学書院  1985
 3.Beoffrey:プログラム学習−体液電解質異常 医学書院 1982
 4.酸塩基平衡の異常  Medicina Vol.25 No.5 1984 医学書院
 5.水・電解質と酸塩基平衡 Medicina Vol.26 No.11 1989 医学書院
                              

[酸塩基平衡異常診断チャート]

                                                診    断
                                                 --------------------- 
                                                | 呼吸性アシドーシス  |
                                 --- X>0.35 --- |   +                |
                                |              | 代謝性アルカローシス| 
                                |              ---------------------
                                |               --------------------- 
           --- PaCO2↑,HCO3- ↑----- X=0.35 --- | 呼吸性アシドーシス  | 
          |                    |               --------------------- 
          |                    |               --------------------- 
          |                     --- X<0.35 --- | 呼吸性アシドーシス  |
酸血症 ------- PaCO2↑,HCO3−↓  -------------- |    +               |
          |                     --- Y<1.0  --- | 代謝性アシドーシス  | 
          |                    |               --------------------- 
          |                    |              ---------------------- 
           --- PaCO2↓,HCO3- ↓---1.0<Y<1.3 ---| 代謝性アシドーシス |
                                |              ----------------------
                                |              -----------------------
                                 --- Y>1.3  ---| 代謝性アシドーシス  |
                                               |    +               |
           --- PaCO2↓,HCO3-↓・・・・・・・・ | 呼吸性アルカローシス|
          |                                    -----------------------
          |                                    ------------          
正常  -------- PaCO2→,HCO3-→ ----------------| 正  常 |         
          |                                    ------------          
          |                                    ----------------------
           --- PaCO2↑,HCO3-↑ ----------------|代謝性アルカローシス|
                                 ---- Y>1.0 ---|    +           |
                                |             |呼吸性アシドーシス |
                                |              ---------------------- 
                                |              ---------------------- 
           --- PaCO2↑,HCO3-↑----0.5<Y<1.0 ---|代謝性アルカローシス|
          |                    |              ---------------------- 
          |                    |              ----------------------
アルカリ  |                     ---- Y<0.5 ---|呼吸性アルカローシス|
    血症------ PaCO2↓,HCO3-↑              |  +         | 
          |                     --- X<0.5 ---|代謝性アルカローシス|
          |                    |              ----------------------
          |                    |              ----------------------
           --- PaCO2↓,HCO3-↓------- X=0.5 ---|呼吸性アルカローシス|
                                |              ---------------------- 
                                |              ---------------------- 
                                 ---- X>0.5 ---|呼吸性アルカローシス|
                                               |    +            |
                                               |代謝性アシドーシス  |
                                                ----------------------

           ◎注:X=ΔHCO3-/ΔPaCO2、Y=ΔPaCO2/ΔHCO3−

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