【解離性大動脈瘤】 A)概説 解離性大動脈瘤は、突然の激痛で発症する重篤な疾患である。放置すると24 時間以内に25%、1週間以内に50%、1ヶ月以内に75%、1年以内に 90%が死亡するといわれる。解離の部位と広がりにより、多彩な病態を呈す ることを念頭におき、迅速かつ的確に対応することが大切である。 B)病型分類 1)DeBakeyの分類:解離の初期裂孔部位とその進展範囲による分類で、 病変の広がりを把握しやすい。 1型:解離が上行大動脈に始まり、下行大動脈におよぶもの 2型:上行大動脈に限局するもの 3型:左鎖骨下動脈分岐後の下行大動脈から始まるもので、横隔膜上で 終わるものを3A、横隔膜を越えるものを3B 2)Stanford分類(Dailyらの分類):上行大動脈解離を含むか 否かで2型に分類。臨床的な治療方針の選択、予後の予測にすぐれる。 A型:上行大動脈を障害部位に含むもの B型:下行大動脈に限局するもの *内科的治療による2週間後の死亡率は、A型で80%、B型で20%と され、A型は外科治療、B型は内科的治療と考えるのが理解しやすい。 C)症状および診断:胸痛の項参照 D)治療(原則として、胸部外科医に連絡し緊急手術をスタンバイする) 1)CTおよび大動脈造影により、手術適応を決定する。できれば急性期(発症 後2週間以内)は手術をさけ、ICUまたはCCUで保存的に治療する。 1.急性期外科的治療の適応 a)A型 b)B型でも以下の場合は手術適応となる。 1)破裂または切迫破裂(疑いも含む)。 2)解離のdistalに虚血がみられる場合(腹部臓器虚血・下肢虚血)。 2)保存的治療の主体は、疼痛および高血圧のコントロール。 1.急性期は絶対安静が必要であり、心筋梗塞に準じた対応をする。 2.疼痛のコントロール:塩酸モルヒネ 5mg静注、レペタン 0.2mg静 注など。 3.降圧療法:出血や心タンポナーデによる低血圧がない限り、解離の進展、 破裂の防止のため、最優先の治療。収縮期血圧100〜120mmHgを 目標とする。 a)アダラート 1P 舌下 収縮期血圧が140mmHg以上の場合投与する。本症の疑いが濃厚な 場合には、検査に先立ち使用する。1Pで十分な降圧が得られない時は さらに追加する。 b)アルフォナード(1V=250mg) 交感神経遮断剤で、降圧と心筋収縮速度を低下させる作用を持つため、 ほぼ全例に適応となる。5%グルなどで500mg/100mlとし、 0.5〜5mg/分(6〜60滴)の速度で使用する。 c)ミリスロール 副作用が少ないので使いやすい。 1〜5μg/kg/分の速度で点滴静注(→P236参照)。 注)アルフォナード、ミリスロールともに数日で耐性を生じ、降圧効果 が減弱していくので、可能な限り以下に示す経口降圧剤を併用し、随時 切り替えていく。 d)βブロッカー(インデラール 30〜60mg/3×1など) 禁忌となる合併症がない限り、βブロッカーを使用する。降圧の他に、 心筋収縮速度を低下させ、大動脈波形の圧勾配を緩徐にするため、解離 の進展の防止に有効とされる。 e)ACE阻害剤 カプトリル(1T=12.5mg) 3〜6T/3×1 レニベース(1T=5mg) 1〜2T/1×1 など f)カルシウム拮抗剤 アダラートL(1T=20mg) 2〜3T/2〜3×1 ヘルベッサー(1T=30mg) 3〜6T/3×1 など g)αブロッカー ミニプレス(1T=0.5mg) 3〜6T/3×1 など h)その他 アルドメット(1T=250mg) 3T/3×1 など 注)最近ヘルベッサー、ペルジピンの注射薬が使用可能となった。両剤と も本症に使用可能で、耐性が出来にくいので今後使用頻度が増すもの と思われる。 ・参考文献 1.石川恭三:新心臓病学 第2版 医学書院 1986 2.伊賀六一ほか:内科治療ハンドブック 医学書院 1989 3.内科レジデントマニュアル 文光堂 1989 4.出川敏行:解離性大動脈瘤 Medicina Vol.26 No.7 1989 5.Daily P.O. Management of acute aortic dissections. Ann thorac surg. Vol.10 No.3,1970
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