【溺水】 A)定義:溺水とは、淡水または海水などに水没して窒息した状態。水没してい た時間によって重症度はさまざまで、肺損傷の程度と中枢神経系のアノキシ アによる障害の程度により重症度が決定される。 B)病態生理 1)溺水には淡水によるものと海水によるものの2種類があるが、共に肺内ガ ス交換不全による低酸素血症と組織アノキシアによる代謝性アシドーシス (呼吸性アシドーシスが関与することもある)が特徴。淡水の場合、肺の 界面活性物質(surfactant)を破壊し、肺胞を障害することが原因。一方、 海水では海水が高浸透圧のため(3.5%食塩水に相当)、血漿が肺胞へ漏 出するため高度の肺水腫をきたす。 2)淡水による溺水(>22ml/kg)では、吸入された水が急速に肺胞か ら吸収されて循環血液量が増加し、血液希釈、血清Na・Cl・Ca濃度 の低下、溶血による高K血症が出現する。 3)海水による溺水(>11ml/kg)では、海水が血液から水分を吸い出 すほかに海水中のNa・Cl・Mgなどが血液中へ移行するため、血液濃 縮、血清Na・Cl・Mg濃度の上昇、循環血液量の減少などをきたす。 4)水没した時に吸引た水で反射的に喉頭痙攣が起こり、窒息状態になった 場合は肺内への水の吸入は少なく、乾性溺水と呼ばれる。溺水者の10〜 20%にみられる。 C)合併症 1)肺:吸引性肺炎、細菌性肺炎、肺水腫、ARDS 2)神経系:アノキシアによる脳障害 3)循環器系:不整脈、血圧低下、心不全 4)その他:低体温症、溶血、急性腎不全、DICなど D)治療 1)溺水に特異的な治療はなく、救急蘇生と蘇生後の集中治療、特に呼吸・循 環管理が重要。 2)淡水と海水では上述したような違いがあるが、実際の臨床例では、吸入し ている水の量はそれほど多くないので、両者を特に区別しなくてもよい。 3)救助後一時的に回復したように見えても、後に呼吸不全をきたす場合もあ る(二次溺水)ので、少しでも吸入の可能性のある全ての溺水患者では、 原則として入院とし、少なくとも24時間は注意深く観察する必要がある。 ・参考文献 1.山内教宏:溺水 綜合臨床 Vol.37(救急辞典) 1988 永井書店 2.内科治療マニュアル 第4版 MEDSi 1987
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