【各種感染症における起炎菌と化学療法】

 抗生物質の用法については抗生物質の使い方を参照。特に記載のないものにつ
 いては常用量を使用する。一部特殊な使い方をするものについては、用法につ
 いても記載した。

A)呼吸器感染症
 1)風邪症候群:多くの場合ウイルス感染症であるので、2次感染や合併症の
   ある時のみ、抗生剤の投与が適応となる。
 2)インフルエンザ:二次的にブドウ球菌やインフルエンザ菌による肺炎を引
   き起こすことがある。
 3)急性気管支炎:約60%に細菌の関与が認められる。インフルエンザ菌、
   肺炎球菌、黄色ブ菌、ブランハメラが主要菌である。
    ※内服薬では、オーグメンチン、ユナシンが第一選択。タリビット(肺
      炎球菌に弱い)、セフスパン(黄色ブ菌に弱い)、ミノマイシン(肺
     炎球菌に弱い)などでもよい。黄色ブ菌による場合は、重症例が多い
     ので注意する。
 4)慢性気管支炎:主な病原菌は、インフルエンザ菌、肺炎球菌、ブランハメ
   ラの3つ。特に前2者によるものが多い。
    ※主要3起炎菌に有効なセフスパン、トミロンなどが第一選択。ただし、
     黄色ブ菌に弱いので、無効時はタリビットにかえる。セフスパンまた
     はトミロンとタリビットを交代で使用する方法は推薦できる。
 5)びまん性汎細気管支炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、緑膿菌感染が多い。
    ※最終的には緑膿菌に対する抗生剤の選択が問題となる。耐性菌を作ら
     ないように同一の薬剤のみの連続使用を避ける。
 6)気管支拡張症:起炎菌は慢性気管支炎とほぼ同様。最終的には緑膿菌。
 7)肺炎
  1.基礎疾患のない成人に見られる肺炎(在宅肺炎):肺炎球菌、ブドウ球菌、
     インフルエンザ菌、ブランハメラ、肺炎桿菌(糖尿病例に多い)、マイコ
      プラズマによるものが多い。
      ※上記起炎菌に広く感受性を有する第二世代セフェム(セフメタゾンか
     パンスポリン)で開始。黄色ブ菌、マイコプラズマが強く疑わしい場
     合はミノマイシンで開始。感受性検査の結果により必要であれば変更
     する。
    2.基礎疾患のある患者にみられる肺炎(院内肺炎):肺炎桿菌、変形菌、大
   腸菌、セラチア、緑膿菌などのグラム陰性桿菌を中心に、腸球菌、真菌、
   カリニなど広範な病原微生物による肺炎を考慮する。
    ※重症の症例が多いので、第二世代セフェム+アミノグリコシドで開始。
     その後、感受性検査の結果を参考に薬剤を選択する。必要に応じ、γ
     グロブリン製剤を併用する。MRSAに注意。腸球菌にはペニシリン
     系、真菌にはフロリードFまたはジフルカン、カリニに対しては、バ
     クタ、またはペンタミジン(ベナンバック)を使用する。菌交代現象、
     結核の続発には常に留意する。
  3.寝たきり老人に発症した肺炎:黄色ブ菌、緑膿菌によるものが多い。
    ※ミノマイシンで開始、感受性検査の結果で変更する。 
  4.術後肺炎:肺炎球菌の他に、ブドウ球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌によ
    る肺炎の比率が高い。
    ※ARDSへ進展する可能性もあるので、モダシン+ダラシンPの併用、
     スルペラゾン+ペントシリンの併用、ペントシリン+ネチリンの併用
     などによる強力な治療を行う。菌交代現象に十分注意すること。
  5.嚥下性肺炎:グラム陽性球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性球桿菌の混合感染
    が多い。また真菌性肺炎の可能性も考慮する。
     ※モダシン、ダラシンP、フロリードFの3者併用で強力に治療する。
     真菌に対する過敏性肺臓炎の可能性が考えられるときには、プレドニ
     ン(40〜80mg)も併用する。
  6.膿胸:ブドウ球菌、緑膿菌、肺炎桿菌、大腸菌、インフルエンザ菌、肺炎
    球菌、嫌気性菌などによるものがある。
     ※感受性試験の結果により、抗生剤を適切に選択する。
    7.その他の肺炎:レジオネラ、クラミジアによるものなど。
        ※レジオネラによる肺炎に対しては、リファンピシン、エリスロマイシ
      ンのいずれかをまず用いる。次に、タリビット、ミノマイシンを使う。
      βラクタム剤、アミノグリコシドは使ってはならない。
    ※クラミジアによる肺炎に対しては、ミノマイシンが第一選択。次にエ
      リスロマイシン、リファンピシン、タリビットなどを使用。βラクタ
     ム剤は無効。

B)消化器感染症
 1)口腔内感染症:口腔領域の化膿性疾患から分離される起炎菌の好気性菌と
   嫌気性菌の割合は7:3。好気性菌ではストレプトコッカス属、スタフィ
   ロコッカス属、コリネバクテリウム属。嫌気性菌ではベイヨネラ属、ペプ
   トコッカス、ペプトストレプトコッカス属が多い。混合感染も希ではない。
    ※第一世代セファロスポリンが著効する。その他ペニシリン系、エリス
      ロマイシン、クリンダマイシン、ミノマイシンいずれでもよい。
 2)胆道系感染症:胆道感染症で胆汁から分離される細菌は頻度の高い順から
   大腸菌(15〜25%)、クレブジエラ(10〜20%)、エンテロバク
   ター、シュウドモナス、バクテロイデスの順であり、他にシトロバクター、
   プロテウスとグラム陰性桿菌が主体である。しかし、腸球菌などのグラム
   陽性菌も約10%認められており、注意が必要である。PTCDなどの胆
   道ドレナージからはシュウドモナスが検出されることが多い。
        ※グラム陰性桿菌に抗菌力を有し、胆汁移行の良好な薬剤を使用する。
      第一選択剤として、ペントシリン、セフメタゾンなどを使用し、無効
     ならベストコール、セフォビットなどの第三世代セフェムを使用する。
     重症例、難治性の症例ではセフォビット、モダシンなどを使用する。
        ※アミノグリコシド系は胆汁移行が不良のため、第一選択剤になりえな
     いが、シュウドモナスが検出された時には、セフェム系と併用で用い
         られることもある。
        ※高度の胆汁排泄障害例では、ドレナージを併用することが必要。
  3)胃腸系感染症
  1.腸チフス:クロラムフェニコールが第一選択。他にアンピシリン、バクタ
      などが用いられる。
    2.細菌性赤痢:タリビット、カナマイシン、ホスミシン
  3.コレラ:ミノマイシンが選択されるが、耐性菌に注意。
    4.食中毒(急性細菌性胃腸炎):毒素型はブドウ球菌、ボツリヌス菌、感染
   性大腸菌、感染型はサルモネラ、腸炎ビブリオなどによる(P118参照)
   ものが多い。
    ※タリビットが第一選択、他にホスミシンもほとんどの菌に有効。ボツ
     リヌスの場合はICU管理が必要で抗血清を投与する。
  5.カンピロバクター下痢症:エリスロマイシンが第一選択、他にミノマイシ
   ン、カナマイシン、ホスミシン、タリビットなどがよい。
  6.抗生物質投与による下痢および偽膜性腸炎:バンコマイシンを使用する。
  4)腹膜炎
  1.胃・十二指腸穿孔による腹膜炎:多くは口腔由来の細菌と考えられるが、
   実際の分離菌の頻度は、グラム陽性菌が30%、グラム陰性菌が15%で、
      55%は菌陰性。
  2.下部消化管穿孔による腹膜炎:グラム陰性菌(大腸菌・肺炎桿菌)が主体
      で、他に腸球菌が検出される。またバクテロイデスなどの嫌気性菌も高頻
      度に検出され、混合感染の比率が増加している。
  3.術後腹膜炎では検出菌の多様化が目だち、腸球菌などのグラム陽性球菌か
      ら大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌、エンテロバクター、プロテウスなどのグラ
      ム陰性桿菌、バクテロイデスなどの嫌気性菌と幅広く分布している。
    ※上部消化管穿孔では、セファメジン、ドイルなどが第一選択。
        ※下部消化管穿孔では、第二または第三世代のセフェム剤かペントシリ
     ンとアミノグリコシド(アミカシン、フォーチミシン以外)の併用が
     第一選択。嫌気性菌をより考慮した場合はダラシンPを併用する。推
     奨できる組合せはセフメタソン+ネチリン、ペントシリン+セフメタ
     ゾン、ペントシリン+シオマリンなど
  5)肝性昏睡:腸内細菌叢を抑制する。
    ※カナマイシン、ポリミキシンBなどを用いるが、同一薬剤を長期に使
     用すると耐性菌ができるので注意。

C)尿路感染症
 1)急性尿路感染症(膀胱炎・腎盂腎炎):大部分は大腸菌(腎盂腎炎で90
   %、膀胱炎で80%)。
 2)慢性尿路感染症:大腸菌の比率が低下し、シトロバクター、エンテロバク
   ター、セラチア、インドール陽性プロテウス、肺炎桿菌、緑膿菌などが多
   くなる。
 3)尿道炎:淋菌性尿道炎と非淋菌性尿道炎に分けられる。非淋菌性尿道炎の
   起炎菌として、C.trachomatis、U.urealyticum、T.vaginalis、M.hominis
   などが考えられている。
    ※大腸菌ではペニシリン耐性株が30〜50%あるので、ペニシリンに
     は注意が必要。用いるならばペントシリンが望ましい。
    ※単純性膀胱炎ではセフェム系、キノロン系、バクタなどの経口剤の少
     量投与で十分である。
    ※腎盂腎炎では、セフェム系薬剤を非経口投与で用いる。
    ※慢性尿路感染症では、第二世代セフェムで開始し、感受性検査の結果
      により必要であれば変更する。この際、耐性菌を作ってしまうことの 
      ないよう感受性があれば古い世代の薬剤から使用することが望ましい。
    ※急性前立腺炎の場合は、セフェム系薬剤は組織移行が悪いので、キノ
     ロン系、ミノマイシン、バクタなどを用いる。
        ※淋菌に対しては、ミノマイシン、タリビット、オーグメンチン、ユナ
     シンのいずれでもよい。非淋菌性の場合は、ミノマイシンかタリビッ
     トで治療し、よくならない場合にはメトロニダゾール(フラジール)
          を投与する。

D)細菌性心内膜炎(IE)
 1)症状、臨床経過などよりIEを疑い、頻回の血液培養により起炎菌を検出
   する。繰り返し行った血液培養が陰性の場合は菌陰性心内膜炎(15〜2
   0%)と考える。
 2)緑色レンサ球菌(Strept.viridans)によるものが最も多く(50〜60%)
   ついで、黄色ブ菌(Staph.aureus)、表皮ブ菌(Staph.epidermidis)によ
   る。黄色ブ菌は急性型IEの最多原因菌であり、毒性が強く治療抵抗性で
   致命率も高い。表皮ブ菌は人工弁のIEの起炎菌として注目されている。
   その他、腸球菌、肺炎球菌が主な起炎菌である。近年、大腸菌、肺炎桿菌、
   緑膿菌などのグラム陰性桿菌や真菌によるIEも増加の傾向にあり注意が
   必要。
 3)治療方針は、原因菌に見合った殺菌性の抗生物質の点滴静注が原則で、十
   分な血中濃度(MICの5〜10倍以上)を最低4週間は投与する。
     ※緑色レンサ球菌:ペニシリンG感受性 S.viridans の場合(MIC<
     0.1)は、ペニシリンG600万単位を300〜500mlに溶解し、
     6時間で点滴静注(1日2400万単位)する。ペニシリンG耐性の
     場合(MIC>0.1)はさらにアミノグリコシドを追加する(ストレ
     プトマイシン1g12時間毎2週間。その後その半量を2週間。ゲン
     タシン、パニマイシンなどでも可)
    ※黄色ブ菌:ペニシリンG感受性の場合は同上。ペニシリンG耐性(7
     0〜90%)の場合は、MCIPC8〜12g点滴静注6〜8週間。
     同時にアミノグリコシドも併用する。MRSAに対しては、バンコマ
     イシン10mg/kg(最高50mgまで)6時間毎4〜6週が有効
     とされているが、本邦では認められていないので、セフメタゾンとホ
     スミシンの併用が推奨される。両者とも1回2g6〜8時間毎。
    ※表皮ぶどう球菌:同上
    ※E.faecalis:ドイル8〜12g 6〜8週間、アミノグリコシドを4
     週間併用する。
    ※緑膿菌、大腸菌などグラム陰性桿菌の場合は感受性のある抗生剤を十
     分量6〜8週間使用する。ペントシリンとアミノグリコシドの併用、
     第三世代の抗生剤などが使用される。
    ※真菌によるIEでは、フロリードF400〜1200mgまたはジフ
     ルカン200〜400mg。両剤に不応例ではファンギゾンを使用。

E)敗血症
 1)担癌、免疫不全、高齢など種々の要因により、感染防御機構に障害を持つ、
   Immunocompromised host における弱毒菌の感染(日和見感染)が多い。
 2)起炎菌としてはグラム陰性桿菌が約半数を占めているが、第三世代登場後
   はやや減少傾向にあり、代わりにグラム陽性菌が増加、また真菌類も検出
   されるようになった。
 3)血液培養により起炎菌を検出することにより診断が確定するが、起炎菌の
   証明は必ずしも容易ではなく、頻回に多くの部位よりの採血が重要とされ
   る。静脈血の培養で十分とされているが、体温の上昇する直前(特に悪寒
   戦慄の直前)が検出率が高いとされている。
 4)血液培養の結果がでるまで日数を要し、immunocompromised host において
   は、この数日の遅れがしばしば致死的となるので、重篤な基礎疾患を有す
   る患者が敗血症によると思われる発熱がみられたら、血液・喀痰・尿・便
   など培養のための検体採取が済み次第、抗生剤による治療を開始する。
    ※殺菌性の抗生剤で、グラム陰性菌に感受性を有し、かつグラム陽性菌
     をカバーする薬剤の組合せとして、合成ペニシリン製剤(ペントシリ
     ン8g/日、ドイル8g/日)、第三世代セフェム(エポセリン4g
     /日、ベストコール4g/日)、アミノグリコシド(ネチリン300
     mg/日、パニマイシン300mg/日)より2剤を選択し、3〜4
     日併用。解熱傾向がない場合は他剤に変更する。いずれの薬剤も原則
     として1時間の点滴静注(6時間毎)で使用する。
    ※上記薬剤が無効な場合は、以下のいずれかを選択し試みる。
      1.MRSA感染症を疑い、セフメタゾン4g/日、ホスミシン4〜
       8g/日、さらにミノマイシン200mg/日の併用。
      2.βラクタマーゼ耐性菌を考慮し、βラクタマーゼ阻害剤SBT
       とCPZの合剤であるスルベラゾン4〜6g/日を追加。
      3.嫌気性菌感染を考慮し、ダラシンP1200〜2400mg、シ
       オマリン4g/日の併用。
    ※以上の薬剤で解熱傾向が認められない場合は、緑膿菌感染を含めグラ
     ム陰性菌に幅広く抗菌力を有するモダシン4g/日、アザクタム4g
     /日、さらには、グラム陽性菌、陰性菌、嫌気性菌に幅広く抗菌力を
     有するチエナム2g/日などの使用を考慮する。
    ※上記薬剤のいずれもが無効な場合は真菌感染症、あるいは粟粒結核の
     可能性を考慮する。真菌感染症に対してはフロリードF200〜40
     0mg×2〜3回/日やジフルカン200〜400/日を投与する。
     結核に対してはイソニアジド、ストレプトマイシン、リファンピシン、
     エタンブトールなどの抗結核剤をすみやかに十分量使用する。

F)細菌性髄膜炎
 1)年齢によって起炎菌が違う。
  1.新生児:β溶連菌、グラム陰性桿菌、リステリア菌
  2.1カ月〜5歳:インフルエンザ菌、髄膜炎菌、肺炎球菌
  3.5〜15歳:髄膜炎菌、肺炎球菌
  4.成人:肺炎球菌、髄膜炎菌
 2)脳外科の手術後は黄色ブ菌、グラム陰性桿菌が多い。
 3)治療は髄液移行のよい抗生剤を使用することが重要。一般的に、βラクタ
   ム系のうち、ペニシリンは良好。セフェム系は一般に不良であるが、一部
   に良好なものがある。クロラムフェニコールは良好。アミノグリコシドは
   不良。投与は通常より血中濃度を高めるため、原則として one shot 静注
   または、30分点滴静注とし、投与回数も4〜6/日とする。
     ※髄膜炎菌:ペニシリンGが第一選択。2400万単位/日を持続点滴。
     静脈炎を防ぐため600万単位を300ml以上に溶解して投与。ペ
     ニシリンアレルギーの時は、クロラムフェニコール500mg×6を
     非経口投与(最大3〜4g)。飛沫感染するので、家族にも予防的に
     リファンピシン600mgを12時間毎に4回内服またはミノマイシ
     ン200mg/日を5日間投与する(法定伝染病!)。
    ※肺炎球菌:ペニシリンGが第一選択。使用法は同上。耐性は少ない。
     他にドイル(6〜12g)、クロラムフェニコール(500mg×6)
    ※インフルエンザ菌:ドイルが第一選択で12gを6×1で使用。アン
     ピシリン耐性の場合(10〜20%)は第3世代セフェムを使用。髄
     液移行が良好とされているセフォタックスを1回2〜3g1日4回。
     βラクタム系にアレルギーの時はクロラムフェニコールを使用する。
    ※リステリア菌:ABPC2〜3gを6時間毎。
    ※黄色ブ菌:ペニシリンGが第一選択。ペニシリンG耐性にはビクシリ
     ンS12gを6×1で。
    ※グラム陰性桿菌:大腸菌、クレブシエラ、プロテウスなどにはセフォ
     タックスまたはシオマリンを8〜12g、4×1で。緑膿菌にはモダ
     シン6〜8gを4×1またはペントシリン12gを4〜6×1で。
    ※起炎菌不明の細菌性髄膜炎にはドイル+セフォタックスの併用が推奨
     されている。既に前医で治療を受けている場合は起炎菌が検出できな
     いことが多いので注意する。
    ※起炎菌が不明で、結核性髄膜炎の可能性が高い場合は抗結核剤を投与
     する。ウイルス性髄膜炎の可能性が高い場合は、対症的にフォローす
     ることもある。

G)耳鼻科的感染症
 1)扁桃炎:レンサ球菌によるものが多い。その他ブドウ球菌、肺炎球菌、嫌
   気性菌によるものがある。
 2)咽喉頭炎:ウイルスによるものが多い。2次的にレンサ球菌、ブドウ球菌、
   インフルエンザ菌、マイコプラズマなどの感染がみられる。
 3)猩紅熱:A群溶血性レンサ球菌による。
 4)ジフテリア:ジフテリア菌による。
    ※ジフテリア抗血清による血清療法に抗生剤療法を併用する。
    ※ペニシリンG、エリスロマイシンが第一選択。ペニシリンG60万単
     位を12時間毎7日間など。 
 5)急性中耳炎:成人では、肺炎球菌、レンサ球菌、インフルエンザ菌が多い
   とされている。
 6)慢性中耳炎:緑膿菌の検出率が最も高く、ついで黄色ブ菌、変形菌など。
 7)急性副鼻腔炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、レンサ球菌、ブドウ球菌、
   嫌気性菌による。
 8)慢性副鼻腔炎:急性副鼻腔炎と同じ。

H)皮膚感染症
 1)表在性膿皮症(伝染性膿痂疹、感染性皮膚炎、2次感染皮膚炎):多くは
   ブドウ球菌、レンサ球菌による。
    ※軟膏の形で外用するのが主流だが、全身療法を併用することもある。
    ※外用はゲンタマイシン、テトラサイクリン、エリスロマイシン、クロ
     ラムフェニコールなどを用いる。
 2)尋常性挫創(にきび):表皮ブドウ球菌、コリネバクテリウム・アクネ
 3)深在性膿皮症:ブドウ球菌によるものが多い。
    ※外用薬は無効のため、全身投与(主として内服、時に注射)を行う。
    ※疾患によって菌が推定しやすいので、原因菌に対して抗菌力があり、
     スペクトラムの狭い薬剤を選択する。
    ※普通、ペニシリン、セフェム系より選択することが多いが、ミノマイ
     シン、タリビットなども使用される。
 4)皮膚創傷感染症:通常、黄色ブ菌、レンサ球菌、大腸菌、変形菌、緑膿菌
   などによる。局所療法で十分のことが多い。
 5)火傷感染:黄色ブ菌、レンサ球菌、緑膿菌、肺炎桿菌、大腸菌、エンテロ
   バクター、変形菌などが主な起炎菌。

I)性病
 1)梅毒:Treponema pallidum による。
    ※ペニシリンGが第一選択。ペニシリンアレルギーにはミノサイクリン、
     エリスロマイシンが使用される。 
 2)淋病
    ※ペニシリン系薬剤が第一選択であるが、ペニシリナーゼ産生淋菌(P
     PNG)が増加している(10〜20%)ので、オーグメンチン、ユ
     ナシンなどの合剤やタリビットが用いられる。PPNGには第三世代
     セフェムが高い抗菌力を示し、one shot 投与で高い有効率を示す。
 3)非淋菌性尿道感染症:Chlamydia trachomatis、Ureaplasma urealyticum、
   Mycoplasma hominis、Trichomonas vaginalis、Candida albicans、Gard-
    nerella vaginalisなどが起炎菌として考えられているが、クラミジアによ
   るものが注目されている(30〜50%)。    
    ※ミノマイシンが第一選択。200mgを7〜14日投与する。
     妊婦、新生児にはエリスロマイシンを投与する。タリビットも有効。
    ※2)、3)ともにセックスパートナーの同時治療、観察が必要。
  4)軟性下疳:Haemophilus ducreyi
    ※バクタ、ミノマイシン、エリスロマイシンが使用される。ほかにオー
     グメンチン、ストレプトマイシンも有効。
 5)鼠径リンパ肉芽腫:Calymmatobacterium glanulomatis
    ※ミノマイシン、エリスロマイシン、バクタなどが有効。
 6)トリコモナス:Trichomonas vaginalis
        ※メトロニダゾール(フラジール)250mgを8時間毎7日間内服。

J)その他の感染症
 1)つつがむし病:Rickettsia tsutsugamushiによる。
    ※ミノマイシンが第一選択。
 2)単純性ヘルペス、帯状疱疹・水痘
       ※アシクロビル(ゾビラックス1V=250mg):1回5mg/kg
     を1日3回1時間以上かけて7日間点滴静注。
    ※ビダラビン(アラセナA1V=300mg):1日10〜15mg/
     kgを500mlの生食または5%グルに溶解し、3時間で点滴静注

[抗生物質の基本的な使用法]
 1)抗生物質の開始時期と選択
  1.抗生物質は細菌感染症が疑われるか診断がついた時点で開始する。発熱=
   感染症として安易に抗生物質を投与したり、不用意に予防的に投与するこ
   となどのないようにしたい。患者の状態が良ければ熱型を見た後や培養の
   結果が判明した後に投与しても決して遅くはない。
    2.抗生物質の投与開始にあたっては、詳細な病歴聴取、慎重な診察、グラム
   染色などから感染症とその原因菌を論理的に推定後、最良の選択をすべき
   で、安易にブロードスペクトルの抗生物質を使用することは避けたい。
    3.抗生物質はまず、殺菌性抗生物質(ペニシリン、セフェム、モノバクタム、
   イミペナム、アミノグリコシドなど)を選択することが望ましい。静菌性
   抗生物質(マクロライド、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ク
   リンダマイシン)はそれぞれに特異的な状況で使用されるべきで、その使
   用範囲は限定される。また、2剤以上の抗生物質を併用する場合、殺菌性
   の抗生物質と静菌性の抗生物質を併用することは通常好ましくない。
    4.的確な抗生物質の選択は、感染症のコントロールをもたらすが、不的確な
   場合は、菌交代症・耐性菌の誘導・副作用・薬剤熱など厄介な状態を引き
   起こす恐れを有していることを肝に銘じるべきである。
  5.抗生物質の投与は、感染症であることを確認後、原因菌にのみ有効なナロ
   ースペクトルのものを使用するのが大原則である。
 2)抗生物質の主な副作用
  1.抗生物質を投与するときは、常に副作用に注意することが必要。
  2.βラクタム系にほぼ共通してみられるアレルギー性過敏症(発熱・発疹・
   皮膚炎・蕁麻疹・関節痛・リンパ節腫脹・アナフィラキシーショックなど)
   は皮内反応が陰性でも安心できない。過去に過敏反応歴のある例や家族歴
   のある例では特に注意。なお、ペニシリンアレルギー患者でセフェム系に
   対しても過敏反応を示すのは5〜10%と言われている。
  3.セフェム系薬剤のうち3位の側鎖にチオメチルテトラゾール基をもつセフ
   メタゾン・ベストコール・シオマリン・ヤマテタン・セフォビット・ケフ
   ドール・セパトレン・メイセリン・トミポランではアンタビウス様作用(
   投与後1週間は飲酒により二日酔い症状・低血圧・希にショックが出現)
   及びビタミンKの消費に伴うプロトロンビン合成障害による出血が、さら
   に7位の側鎖にカルボルシル基を持つシオマリンでは血小板凝集障害によ
   る出血傾向が報告されているので注意。
    4.腎障害:直接型腎障害と過敏型腎障害の2つの型がある。
   a)直接型腎障害:抗生物質そのものの腎組織に対する障害であり、容量依
    存性で主要障害部位は尿細管。主な原因薬剤はアミノグリコシド、ファ
    ンギゾン、セフェム系など。通常、7〜10日以降に出現し、急性腎不
    全の型をとるが、初期には臨床症状を欠くことも多く、多尿と電解質(
    K・Mg)、糖、NAG、β2マイクログロブリン、リン脂質などの尿中
    排泄量増加が特徴的。
   b)過敏型腎障害:間質性腎炎の形をとり、7〜10日目に発熱・発疹・好
    酸球増多を伴って出現し、蛋白尿・血尿・高窒素血症を認めることが多
    い。原因薬剤はペニシリン、ファンギゾン、サルファ剤など。
   c)対策:抗生剤の使用量に対する配慮と早期発見につきる。高齢者、長期
    大量使用、腎機能障害者、他の腎毒性薬剤の併用、カリウム欠乏、循環
    体液量の減少などのリスクファクターを有する場合は、特に注意。
     d)腎障害時の使用法:腎排泄が25%未満の薬剤では投与量の変更は不要。
    腎排泄が25%以上の薬剤では腎障害早期から使用量の調節が必要。
     5.肝障害:通常問題となるのは過敏反応によるもの。
   a)すべての薬剤が肝障害を惹起する可能性があり、定期的に、GOT・G
    PT・Bil・AlP・γGTPなどの測定によるチェックが必要。
    薬物性肝障害では胆汁うっ滞の傾向が強い。
   b)薬物性肝障害の診断基準(確診:1)+4)or5)、疑診:1)+2)or3))
    1)薬物の投与開始後(1〜4週)に肝機能障害が出現。
    2)初発症状として、発熱・発疹・皮膚掻痒・黄疸などを認める(2項目
     以上を陽性とする)。
    3)好酸球増加(≧6%)または白血球増加を認める。
    4)薬物感受性試験(リンパ球培養試験・皮膚試験)が陽性。
    5)偶然の再投与により、肝障害の出現を認める。
      c)肝障害時の使用法:肝障害時には薬物代謝の低下、胆汁排泄低下による
    薬剤血中濃度の上昇、血中半減期の延長などがおこるので、起炎菌に対
    する感受性や薬物の体内代謝に注意して、常用量の範囲内でできるだけ
    短期間の投与で中止することが大切。


・参考文献 
 1.感染症の化学療法−最近の動向 日本臨床 1988 特別号 日本臨床社
 2.植手鉄夫:抗生物質−選択と臨床の実際  医薬ジャーナル社 1987
 3.新しい抗生剤 内科 Vol.62 No.12 1988  南江堂
 4.抗生物質の使い方 Medicina Vol.25 No.11 1988 医学書院
 5.島田馨:感染症と抗生物質の使い方 1988 文光堂
 6.感染症の化学療法の進歩と反省 日本臨床 Vol.44 No.4 1986 日本臨床社
  7.感染症の動向と抗生物質 Medicina Vol.23 No.10 1986 医学書院
 8.適切な抗生物質の選択と治療の実際 Medical practice Vol.5 No.2 1988 
  9.重症感染症の診断と治療 カレントテラピー Vol.5 No.5 1987
 10.最近の抗菌薬療法 Medical practice Vol.6 No.8 1989 文光堂
 11.内科領域の感染症 カレントテラピー Vol.6 No.6 1988
 12.抗生物質療法への挑戦 総合臨床 Vol.37 No.9 1988 永井書店
 13.感染症 現代医療 Vol.20 1988 現代医療社
       

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