【急性呼吸不全】

A)定義
  原因のいかんを問わず、血液ガス(特に、PaO2とPaCO2)が異常な値
  を示し、そのために生体が正常な機能を営みえなくなった状態。

B)診断
  1)臨床所見(以下の所見より呼吸不全が疑われたら、すぐに血液ガス分析)
   1.頻呼吸(30/分以上)、呼吸困難。
   2.チアノーゼ、冷汗、振戦、血圧上昇または低下、頻脈。
   3.頭痛、不眠、種々の意識障害。
  2)血液ガス分析の結果、室内気吸入時に下記の値を示せば呼吸不全と診断。
    1.PaO2≦60torr あるいは
    2.PaCO2≧50torr。

C)病型
   1)1型:低酸素血症のみを呈するもので、拡散障害、肺内シャント、換気
    血流比不均等などの病態の時に見られる(=肺不全 hypoxic failure)。
  2)2型:高炭酸ガス血症を伴うもので、主として肺胞低換気時に見られる
    が、高度の換気血流比不均等でも見られる(=換気不全 hypercapnic
     failure)。
   注)1型に呼吸筋疲労が加われば、2型となる。
   注)混合型(acute on chronic):1型と2型に分類され、それぞれ慢性
     型の1型、2型が急性増悪したもの。

D)原因疾患(病態生理学的観点よりの分類)
  1)肺胞低換気
   1.呼吸中枢機能低下:脳炎、脳卒中、薬物中毒(鎮静・睡眠薬)など
   2.神経筋疾患:ギランバレー症候群、重症筋無力症、多発性硬化症など
   3.胸郭・横隔膜の損傷:肋骨骨折、横隔膜麻痺、高度の腹水、肥満など
  2)換気血流比不均等分布:肺気腫、気管支喘息、肺梗塞、心不全など
  3)拡散障害:肺線維症、過敏性肺臓炎、肺水腫など
  4)右−左シャント:肺炎、無気肺、ARDS、肝硬変、肺動静脈瘻など

E)治療
 1)気道確保
  1.舌根沈下またはその危険がある場合は、nasal airway を挿入。
   2.上気道内異物があれば、咳、吸引、気管内挿管後吸引などにより除去。
    3.喉頭、声門浮腫(アナフィラキシ−・クインケ浮腫)の場合
      a)ボスミン 1/2A 0.5mg(0.5ml)の皮下注 
      b)クロ−ルトリメトン1Aを5%グルなどで20mlとし、ゆっくり静注
      c)ソルコ−テフ 100mg静注(浮腫の軽減と再発予防)
    d)窒息しそうな時は、甲状・輪状軟骨間に18G以下の太い針を3本以上
     刺す。しかし、効果は不十分であり、早急な気管切開が必要。
 2)酸素療法
    1.室内気吸気中の血液ガスを測定後、鼻腔カニューレ4 (FIO2≒36%)
   で開始する。但し、慢性呼吸不全の急性増悪時のように、PaCO2≧50
   torrの場合は、0.5〜1 より開始する(慢性呼吸不全の急性増悪参照)。
    2.15〜20分後に血液ガスをチェックする(その後も状態が変化した時や、
   呼吸条件を変更した時は、血液ガスをチェック)。
  3.PaO2 が、80torr前後(SaO2 ≧90%)になるように酸素流量を
   調節する(※慢性呼吸不全の急性増悪では、50〜60torrで十分)。
   a)PaCO2の上昇を伴わない場合は、1)流量を増やす、2)酸素投与法を変
    えるなどの方法でFIO2を上げていく。
   b)PaCO2の上昇を伴う場合は、FIO2を上げることで低酸素換気ドライ
    ブが抑制され、さらにCO2を上昇させる結果とならないように注意し、
    PaO2とPaCO2のバランスを考えながら、O2濃度を注意深く変更す
    る(慢性呼吸不全の急性増悪参照)。
   c)いずれの場合も重症例では、後述する気管内挿管の適応基準を念頭におき
        対応する。
  4.酸素の投与法
      a)鼻腔カニュ−レ
        1)軽症から中等症の低酸素血症に用いられる。
    2)気道乾燥による粘膜の障害を防ぐため、6 /分前後が限度。
    3)この方法では酸素流量とFIO2の間に、下記の関係がある。
      想定FIO2(%) ≒ 20+4×酸素流量( /分)
     但し、1回換気量が大きければ、実際のFIO2はもっと低くなる。
     4)低流量のフロ−メ−タ−を使用すると0.1〜2.0 /分の範囲で流量を
          0.1づつ調節できる(COPDの重症例などで使用)。
      b)フェイスマスク
        1)中等症の低酸素血症に用いられる。
    2)患者が不快感・圧迫感を訴えることが多く、鼻腔カニューレでは不十分な
          場合に使用されることが多い。
    3)この方法による酸素流量とFIO2の関係は
      5〜6 :40%、6〜7 :50%、7〜8 :60%
    4)本法も1回換気量、マスクのフィットネスなどに左右される。
      c)ベンチュリ−マスク
        1)患者の呼吸型に影響されずに一定の吸入気酸素濃度が得られるので、特に
          2型の呼吸不全で使用される。
       2)低濃度用(24・26・28・30%)と高濃度用(35・40・50%)
     があり、指定されている酸素量を流しダイヤルを目盛りに合わせるだけで、
     希望する酸素濃度が得られる。
      d)リザ−バ−付きマスク
        1)フェイスマスクにリザーバー・バックをつけたもので、より高濃度の
     FIO2が得られる。
    2)この方法による酸素流量と想定FIO2の関係は6 以上で、
      FIO2(%) ≒ 10×酸素流量
     と言われているが、実際は80〜90%位が上限と考えた方が無難。
    3)マスクと顔面のフィットネスが良くないとリザ−バ−が働かないので、
     必ず
    バックが吸気時に縮むのを確認する。
      e)インスピロンネブライザ−
        1)本来は、エアロゾ−ル療法用に作られており給湿が良い。酸素の流量
     を上げるほど、水分が多くなる。
    2)FIO2の設定が簡単なダイヤル式で35・40・50・70・100
     %の5段階の酸素濃度投与ができるが、やはり呼吸の型によりFIO2
     が影響を受ける。
 3)人工呼吸
  1.下記の場合は人工呼吸の適応と考える。
   a)FIO2≧0.5でも、PaO2≦50torr。
   b)PaCO2≧50torr、またはpH≦7.25(pHがより重要!)。
   c)呼吸数≧40回/分、または呼吸数≦5回/分。
   d)意識状態の低下や循環動態の悪化を伴う場合。
    注)但し、慢性呼吸不全の急性増悪ではレスピレ−タ−の使用はできるだ
      け避ける(慢性呼吸不全の急性増悪の項参照)。
  2.気道確保
   a)挿管が緊急に必要な場合、意識のない患者では、経口挿管が容易かつ適
    切であるが、一般的に緊急度がそれほど高くない場合や意識のある患者
    などでは、経鼻挿管が望ましい。
   b)挿管後、聴診にて両側上肺野の呼吸音(特に左側)の有無に注意。
   c)低圧カフの場合でも10〜14日以上挿管が続く場合には、気道の損傷
    を防ぐため気管切開に切り換える。カフ圧はマノメ−タ−で25cmH2O 
    以下であることを確認。
  3.レスピレ−タ−
   a)通常従量式のレスピレーターを使用する。
   b)接続前のチェックと通常の初期設定
    1)回路の接続、漏れの有無、加湿器の設定、水の量などを確認。
    2)換気モードの設定:通常は調節呼吸(CMV)で開始する。
    3)一回換気量(VT):10ml/kg
    4)分時換気数(f):14〜20/分
    5)FIO2:1.0
    6)PEEP:off
   c)設定の詳細について
    1)換気モ−ド
     a.CMV(機械的調節換気:controlled mandatory ventilation)
      1回換気量、呼吸数の両者を一定に設定するモ−ドで、患者の自発
      呼吸が消失した状態で使用する。
         b.AMV(機械的補助換気:assisted mandatory ventilation)
      CMVで最低限の呼吸数を確保した上で行う。吸気圧がトリガ−を
      越えれば、これに同期して設定した換気を行う。頻呼吸の患者では
      時間換気量が著しく増加し、呼吸性アルカロ−シスをきたすことが
      ある。また自発呼吸が強くなると、ファイティングの原因となる。
         c.IMV(間欠性機械的強制換気:intermittent mandatory vent.)
      自発呼吸は残したまま、間欠的に強制換気を行うもので、設定した
      回数を越える分は患者自身の換気量を反映でき、アシストより分時
       換気量としての変化が小さい。CMVからの離脱時に用いられる。
         d.SIMV(synchronized IMV)
      間欠的補助呼吸で患者の自発呼吸にあわせて、IMVを行うもので、
      より生理的な人工呼吸法でファイティングの発生が少ない。   
     e.PSV(圧補助換気:pressure support vent.)
      気道内圧のみを設定する。換気量と吸気補助時間は気道抵抗により
      決定されるため分時換気量はその都度確認が必要。用手的補助呼吸
      に近い換気方式である。呼吸仕事量の軽減、ファイティングの消失、
      呼吸数の減少、鎮静剤の使用頻度の減少などの利点がある。初期設
      定圧は、1回換気量が10〜12ml/kgになるような値とする。
        2)FIO2
          a.最初は1.0で開始。15〜20分後に血液ガス測定。中等度の呼 
      吸不全では60%から開始してもよいが、高度の呼吸不全では肺内
      シャントの有無を調べるため100%から始める。
          b.目標のPaO2は80torr前後であり、血液ガスの結果より下式で
            得られる値を参考にFIO2を下げていく。
            至適FIO2=(AaDO2+100)/760
          c.至適FIO2の算出には、RI(respiratory index)ノモグラフを用
      いてもよい。RIノモグラフ(P47)はAaDO2を計算すること
      なく、直接FIO2とPaO2よりRIを算出するもの。これを用いる
      と、希望するPaO2を得るのに必要なFIO2が容易に算出できる。
          d.60%以上のFIO2を48時間以上続けると酸素中毒の危険性あり。
            FIO2≧50%でもPaO2≦60の時はPEEPを考慮する。
    3)換気量(一回換気量×呼吸数)
          a.頻呼吸の時は、一時的に患者の呼吸数に合うまで増加させ、その後、
      徐々に目標の呼吸数まで下げるか、初めからセデ−ションする。
          b.目標はPaCO2=40torr前後、pHが7.35〜7.45。
      VT は50〜100mlづつ増減させる。
          c.調整は、まずVTを上記の範囲内で修正し、次いで必要あればfを変
      更する。さらに必要があれば死腔の長さを調節する。
          d.CO2が蓄積している場合、急激にPaCO2を下げるとpost hyper
      capnic alkalosis となり、痙攣や不整脈をきたすことがあるので、
      注意する。一回換気量を少なめに設定し10〜15torr/時の速度
      で下げる。
          e.気道内圧上限は50cmH2Oとし、圧外傷(barotrauma)に注意。
            必要に応じ、VTを減らしfを増やす。
         4)吸気・呼気時間比(I:E ratio)
          a.通常は1:2にする。    
     b.COPDや気管支喘息では1:2〜3と呼気を長めにし、機能的死
      腔(FRC)レベルの上昇や air trapping を防ぐ。
          c.機種によっては吸気流量(inspiratory flow rate)により規定する
      タイプもあり、この場合60 /分が適当とされる。COPD例で 
            はより速い吸気流量100 /分前後に設定する。
          d.フロ−パタ−ンは通常は定常流とする(平均気道内圧が最も低く、
      循環器系に対する抑制効果が少ない)。
     e.EIP(end inspiratory pause 吸気終末休止期)
           病的肺では、各肺胞のサイズやコンプライアンスの不均等が大きい
      ため、通常の高流量急速な吸気では、肺胞レベルの不均等分布が大
      となる。EIPは吸気時加圧終了後すぐに呼気に移行せず、0.1〜
      3秒の吸気保持を行うことで、肺内ガスの再配分均衡化をはかる。
      死腔換気率を低下させ、PaCO2の改善に有用。
        5)PEEP(positive end expiratory pressure)
          a.調節呼吸中、呼気終末にも持続的に陽圧を加えることにより、気道
      ・肺胞の虚脱を防ぎ、機能的残気量を増加し、肺内シャントを減ら
      して、低酸素血症を改善させる目的で使用される。
     b.自発呼吸中に、気道内を常に陽圧にする場合はCPAP(continu- 
            ous positive airway pressure)と呼ばれる。
          c.COPDではすでに呼気終末肺容量が増加しておりPEEPは禁忌。
          e.適応
              *FIO2≧0.5で、PaO2≦60torrの時
              *ARDSおよびARDSの発生が予想される時(ショック肺・敗
        血症・誤飲性肺炎など)
          f.方法:5cmH2Oで開始。循環動態や気道内圧を観察し、必要であれば
            2〜5cmH2Oずつ増やす。10cmH2O以上では血圧低下、尿量減少や
            気胸を合併しやすいため注意。
          g.気道内圧が50cmH2O以上となったり、10cmH2O以上増加する時は、
            痰の吸引や気管支拡張剤の使用を試みる。さらに必要であればVTを 
           10%減らし、fを10%上げてみる。
          h.20分後血液ガスを測定し、PaO2が5torr以上低下したり、Pa
      CO2が5torr以上増加した場合は中止とする。
          i.離脱:FIO2=40%でPaO2≧90torrあれば、PEEPを2〜
            5cmH2Oずつ下げる。通常5cmH2O前後まで下げ、ウィ−ニング、
            CPAPにもっていく。
  4.ファイティング(fighting)
     a)ファイティングの原因
   1)レスピレーター側の要因
     回路の接続違い、閉塞、はずれ、呼気弁・PEEP弁の故障など
   2)患者側の要因
     分泌物貯留、気管チューブの位置異常、カフの異常、気管粘膜の刺激、
     咳反射、発熱、アシドーシス、血圧下降、心理的不安・恐怖心からく 
      る過換気など。
   b)ファイティング時の対策
   1)まずPEEPを0とする。
   2)上記の原因をチェックし、原因の改善に努める。
     3)アンビュ−バックによる用手的補助呼吸を行う。自発呼吸に合わせながら、
        過換気にするとうまくベンチレ−ターにのってくれる。
   4)同調しない時やセデ−ションが望ましい時は、調節呼吸とする。
   5.調節呼吸のためのセデーションの方法
   a)サイレース2mg+生食20ml ゆっくり静注。
     b)塩酸モルヒネ5〜10mg+生食20ml ゆっくり静注。
     c)ミオブロック 4mg(2〜6mg) 静注。
   d)レペタン 0.2mg+生食20ml ゆっくり静注
    e)持続セデーション法:ケタラール1A(200mg/20ml)+サイレ
       ース1A(2mg/1ml)×5を生食で50mlとし、3ml/時間で
       開始。必要なら18ml/時間まで増量可。
  6.人工呼吸中の管理
     a)吸引
      1)分泌物の吸引は必要に応じて2〜3時間毎に行う。吸引前後にはO2を
     十分に与える。吸引は無菌的に行い、10〜15秒以内とする。
      2)多量または粘調な痰による閉塞性無気肺が生じた場合は、気管支鏡を用
        い選択的に気管支の洗浄、吸引、検体の採取を行う。
      3)分泌液の流出をうながすために体位ドレナ−ジ、タッピング、バイブレ
        −ションなどを4〜6時間毎に行う。
     b)薬剤:必要に応じ、気管支拡張剤、去痰剤、抗生物質などを投与する。
     c)栄養管理
      1)長期(3日以上)の人工呼吸管理が予想される場合にはすみやかに経鼻
        胃管によるチュ−ブ栄養やIVHを施行する。
      2)投与カロリ−量は、30kcal/kg/日が望ましい。。
      3)カロリー源はブドウ糖が中心。アミノ酸は1.0〜1.5g/kg/日
   (窒素量として200〜250mg/kg/日)を目安とするが、窒素バ
        ランスは正またはゼロを目標とする。カロリ−/Nは150〜250が
        望ましい。
      4)血清アルブミン値は、2.5g/dl以上に保つことが望ましく、適宜
    アルブミン製剤にて補正する。
   7.合併症
    a)圧外傷(気胸・縦隔気腫・皮下気腫)、感染、無気肺などの他、他臓器疾
      患が合併することがしばしばある。特に消化管出血に注意が必要で、挿管、
      気管切開例はストレス潰瘍予防のためH2ブロッカーを使用する。
    b)貧血例では、一般状態の改善、PaO2の改善のため、必要に応じ輸血(
   原則として濃厚赤血球)を行い、Hbを10g/dl前後に維持する。
   8.ウィ−ニング(weaning)
    a)ウィーニング開始の目安
      1)一般的所見:意識清明、循環系安定、感染(−)、栄養状態良好、電解
        質・酸塩基平衡正常。
   2)呼吸条件
    a.PEEPが5cmH2O以下。
    b.VT=500ml、FIO230〜40%で、PaO2≧70torrかつ
     PaCO2≦50torr(COPDではこの限りでない)
       c.呼吸数≦30回/分。
   3)換気能力、換気予備能力(すべてが満たされる必要はない)
    a.肺活量≧5〜10ml/kg(FVC≧10〜12ml/kg)。
    b.安静時分時換気量≦10 。
    c.最大分時換気量が安静時の2倍にできる。
    d.最大吸気圧(MIP)≧20〜25cmH2O。
    b)目標:ウィーニング終了後、FIO2 21〜40%の自発呼吸下で、
     PaO2≧70torr(COPD例では50〜60torr)、
     PaCO2≦50torr(COPD例では安定期のレベル)、
     pH≧7.35が維持できること。
    c)方法
   1)on−off法、IMV法、PSV法などがあるが、実際には以下の様
        な手順を取ることが多い。原則として朝より開始する。
       a.30〜40度頭側を挙上したセミファ−ラ−位とする。
        b.SIMVモ−ドで12〜14回/分からPaCO2をみながらIMV
     の回数を減らす。
            *PaCO2 30〜40torr:4回減らす。
             40〜50torr:2回減らす。
                        50以上   :1回かそのまま。
            *IMVが1〜2回/分になったらさらに1〜2回/2分にする。
        c.圧補助は安定した臨床所見(RR・HR・BP・発汗の有無)を確認
          して、5cmH2Oきざみで下げていく。
        d.レスピレ−タ−から離脱できたら、インスピロンに接続し、翌朝まで
          血液ガス、循環動態が安定しているのを確認し抜管へ。
         CMV
            ↓  呼吸不全の鎮静化
          ↓ ← 酸素化能の改善の確認   
         ↓   (PaO2/FIO2比が300〜250以上)
      IMV+PEEP または
      PSV+PEEP
         ↓ ← 換気能力維持の確認 (PaCO2やVD/VTやRR)
         CPAP
            ↓ ← 換気予備力の確認 (FVCやMIP)
            ↓ 呼吸筋疲労の有無の確認
           抜管
      2)ウィ−ニングの進行を中止する徴候:以下の場合、ウィーニングを中止
        し、状態によっては調節呼吸に戻す。
     a.呼吸系:高度の努力呼吸やチアノ−ゼ・40回/分以上の頻呼吸・
         PaCO2≧60torrで、なお上昇傾向を示す場合・
         PaO2≦60torrの場合。
        b.循環系:頻脈・著しい血圧上昇・不整脈の出現。
        c.その他:不穏状態・意識レベルの低下・著明な発汗。
      3)抜管の手順
        a.40〜90度のファ−ラ−位とする。
        b.あらかじめアンビュ−バックにて高濃度の酸素で過換気とする。 
        c.気管チュ−ブ内を吸引し、次いで口腔内の吸引を行う。
        d.再びアンビュ−バックによる過換気を行う。
        e.吸引チュ−ブを気管チュ−ブから気管に入れ、バル−ンをデフレ−ト
          させると同時に吸引を開始しながら気管チュ−ブを抜く。
        f.直ちに咳をさせる。
        g.フェイスマスクまたは鼻腔カニューレよる酸素投与を開始する。
        h.バイタル、血液ガスを繰り返し測定する。

[参考1] 知っていると便利な事柄
 1.PaO2の正常値(臥位) ≒107.4−0.43×年齢 (torr)
 2.Pa02はPaCO2が8下がる毎に10づつ増加する。
  例)室内気吸入下でPaO2 40torr、PaCO2 80torrの患者の場合、
    正常な肺胞換気量により、PaCO2が40torrになればPaO2は
    90torrになると考えられる。従って、酸素投与の適応ではなく、肺胞
    換気量をあげる努力をすべきである。
 3.鼻腔カニューレで6 を流して、PaO2が100torrを越えるようなら大き
  なシャントはないと考えられる。
 4.大きなシャントがない場合、FIO2を1%増やすとPaO2は約7torr上昇。
  例)室内気でPaO259torr、PaCO242torrの患者のPaO2を80に
    するには、(80−59)/7=3よりFIO2を21+3=24%とす
    ればよい。
 5.急性呼吸性アシドーシスでは、PaCO2が1torr上昇する毎にpHは
  0.007以上の幅で低下し、かつHCO3<30mEq/lである。慢性呼吸
  性アシドーシスでは、pHの低下幅は0.003以下で、かつHCO3は30
  〜45mmEq/lである。慢性呼吸不全の急性増悪の場合は、その中間。

[参考2] 呼吸状態の把握に用いられる指標
 1.AaDO2:ガス交換の効率を示す指標で、下の式で計算される。
  a)AaDO2≒713×FIO2-PaCO2/0.83−PaO2。
  b)正常値は10torr以下。
 2.RI:AaDO2とPaO2との比より肺胞換気の状態を推察する指標
  a)RI=AaDO2/PaO2
  b)100%酸素を吸入しなくても、肺内シャントの増減、血液酸素化の効率
   をみることができる。2以上の場合、人工呼吸が必要となることが多い。
 3.肺内シャント率(Qs/Qt)は100%O2吸入(20分以上)時
  a)Qs/Qt= 0.003×AaDO2/(0.003×AaDO2+AvDO2)
        = 0.003×AaDO2/(0.003×AaDO2+5)
  b)正常値は5%以下。15%を越えるときは重症であり、20%以上では人
   工呼吸の適応となることが多い。
 4.死腔換気率(VD/VT):PaCO2と混合呼気の呼気分析から計算される。
  a)VD/VT=(PaCO2-PECO2)/PaCO2
  b)PECO2の推定法
   炭酸ガス産生量=70+2×体重(男)、70+1.5×体重(女)
   PECO2=0.8×炭酸ガス産生量/分時換気量
  c)正常値は0.4以下。0.5以上では呼吸効率が低下し、換気仕事量が増加
   する。0.6以上は人工換気の適応となる。

・参考文献
  1.内科医のための呼吸管理の実際 医学書院 1985
  2.呼吸管理ハンドブック 医学書院 1986
  3.救急医療ハンドブック 第2版 南江堂 1985
  4.呼吸器病薬の選び方と用い方 新興医学出版社 1988
  5.内科レジデントマニュアル 第1・2版 医学書院 1987
  6.呼吸器病レジデントマニュアル 医学書院 1988
  7.内科治療ハンドブック 医学書院 1989
  8.呼吸不全 Modern Physician Vol.9 No.3 1989 新興医学出版社
  9.呼吸不全の治療 臨床医  Vol.14 No.5 1988 中外医学社
  10.呼吸不全 カレントテラピ−  Vol.6 No.10 1988
   11.呼吸不全とその管理 Medicina Vol.24 No.4 1987 医学書院
   12.呼吸不全と呼吸管理 救急医学  Vol.11 No.10 1987 へるす出版
   13.呼吸不全の管理 Medical Practice Vol.4 No.11 1987 文光堂
   14.呼吸不全 Medical Practice Vol.2 No.2 1985  文光堂
                              

[胸水について]

 1)ポイント
  1.胸水の貯留は正常な状態では認められない。
  2.胸水の検査では、その結果が即確定診断になりうるので、検索すべき項目
   を漏れなくチェックすることが大切。
  2)検査項目:性状、pH、蛋白、糖、Ht、白血球数、白血球分画、LDH、
   CEA、ADA、アミラーゼ、培養(一般細菌・結核菌・真菌・嫌気性菌)
   細胞診、RA、ヒアルロン酸、リンパ球サブセット、染色体分析など
 3)異常所見の解釈
  1.外観 血性:癌性胸膜炎、外傷、肺梗塞。血胸(Ht≧末梢血のHt/2)
    2.漏出性、浸出性の鑑別(比重、蛋白濃度のみからの判断では不十分)
      胸水の蛋白/血清蛋白>0.5、胸水LDH/血清LDH>0.6、胸水L
   DH>血清LDHの正常上限×2/3のいずれかを満たせば浸出液。
      a)漏出性:心不全、低蛋白血症(低栄養・肝硬変・ネフローゼなど)
   b)浸出性:癌性胸膜炎、結核性胸膜炎、湿性胸膜炎、リウマチ性胸膜炎、
    肺炎、悪性胸膜腫、悪性リンパ腫、膠原病(SLEなど)
    3.細胞診:間隔をおいての3回の検査で癌性胸膜炎の約80%が診断可能。
  4.細菌培養:結核性胸膜炎での結核菌陽性率は20〜30%。
    5.白血球分画:胸水検査のなかでも最も有用な検査の1つ。
   a)好中球増加:肺炎、膵炎、肺梗塞、結核性胸膜炎の初期、横隔膜下膿瘍
   b)リンパ球増加:50%以上が小リンパ球→癌性 or 結核性胸膜炎の可能
        性大。サブセットでモノクローナリティが証明されれば悪性リンパ腫。
      c)好酸球増加:空気・血液の混入、まれに寄生虫、真菌症。
    6.CEA:癌性胸膜炎の34〜88%で高値(>血清CEA値)。
  7.ADA:30〜50U/lを高値とする。結核性胸膜炎ではほぼ全例が高
   値。膿胸、RA、悪性リンパ腫、白血病でも高値を示すことあり。
    8.糖:結核性・癌性胸膜炎、リウマチ、肺炎などで低値(<60mg/dl)
  9.ヒアルロン酸:悪性胸膜腫の約37%で、1mg/ml以上の高値を示す。

・参考文献
   1.高山重光:胸水 検査診断ポケットブック 金原出版 1989
   2.猪狩 淳:穿刺液検査 Medicina Vol.26 No.10 1989

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