【熱中症】

 直射日光下または高温(多湿)の環境下における作業、運動により出現する生
 体の障害としては日射病、熱痙攣、熱疲労、熱射病の4つが知られている。そ
 の定義には多少の混乱が認められるが、前2者を体温上昇を伴わない障害、後
 2者を体温上昇による組織障害をきたすものと捉える立場で分類記述する。

A)日射病
 1)正常な放熱反応によって引き起こされる血管拡張性の一種の循環不全で、
   通常体温は正常に保たれる。熱による組織破壊は伴わない。
 2)体温調節中枢を介した全身の皮膚血管拡張に加え、運動による筋血流増加
   に、心拍出量が追いつかずに起こる相対的循環血漿量低下。
 3)Hypovolemiaによる症状(低血圧・脈圧狭小化・頻脈・皮膚冷汗)が主体。
   体温はむしろ低下する。
 4)治療は患者を日陰におき、項部、頚部を冷却しつつ、軽く下肢を挙上させ
   ショック体位をとる。血管を確保しラクテック、生食、デキストラン製剤
   などを投与する。
B)熱痙攣
 1)有痛性の骨格筋痙攣で、高熱ストレスに対する発汗に対し、水分のみを補
   給することによる塩分喪失性脱水が原因と考えられている。
 2)低張性脱水の症状(頭痛・口渇・低血圧・筋痙攣)が出現する。
 3)乳酸加リンゲル、生食など塩分を投与する。
C)熱射病・熱疲労
 1)発汗による脱水に加え、熱産生の増加に放熱反応が追いつかず、うつ熱状
   態により体温調節機能が破綻し、高体温による組織障害が加わったもの。
 2)体温上昇が中等度にとどまるものを熱疲労と呼ぶが基本的には同じ。
 3)予後は高体温の程度とその持続時間に左右される。
 4)障害の程度により多彩な病状を呈する。
  1.高体温(直腸温で40℃以上)
  2.発汗停止(はじめ著しい発汗が続くがやがて発汗は停止する)。
  3.中枢神経系:意識障害・脳浮腫・痙攣・脳圧亢進症状・髄膜刺激症状
  4.循環器系:はじめ血圧上昇・頻脈・末梢血管抵抗低下・CVP低下。ショ
   ックの進行とともに、血圧低下・頻脈・CVP上昇・末梢血管抵抗増加。
  5.呼吸器系:初期には代謝亢進と放熱反応のため呼吸は促迫し頻呼吸。病態
   の進行とともに下顎呼吸となる。ARDSをきたすことが多い。
  6.肝機能障害:肝細胞壊死による凝固因子の低下が致命的な合併症を招来。
  7.腎機能障害:ショックによるrenal shut downに加え、rhabdomyolysis、溶
   血が急性尿細管壊死をきたす。
  8.血液・凝固系:肝不全による凝固因子障害やDICが引き起こされる。
 5)治療
  1.冷却:高体温を直ちになおす。氷水スポンジ浴(中心体温が39℃になる
   まで氷水の中にいれる)、アルコール冷却、体腔内冷却(冷生食にて胃胸
   腔内洗浄)などを行う。after drop による過冷却に注意。まず37℃前後
   で止める。皮膚血管が収縮し冷却効果が悪くなるので、体表面冷却時は皮
   膚温を28℃以下にはしない。
  2.脱水の補正:スワンガンツカテーテルを用い、CVP・PCWPなどをモ
   ニターしながら輸液(生食か乳酸加リンゲル)を開始する。
  3.呼吸管理:酸素投与。必要であれば気管内挿管後、人工呼吸を行う(脱分
   極性筋弛緩剤は高K血症を引き起こすので使用しない)。
  4.代謝性アシドーシスの補正(メイロン)。ただし、補正しすぎないように
   (BEは−10以上にしない)。温度補正は表を参照。
  5.循環管理:心原性ショックであればカテコールアミン(イノバンなど)を
   使用する。α作用性の強い薬剤は熱の放散を妨げるので禁忌。
  6.抗痙攣剤:痙攣が高度、あるいは持続する場合はセルシン、アレビアチン
   などによりコントロールする。
  7.鎮痛・鎮痙のためにはクロールプロマジンを使用する。バルビタールは体
   温調節機構の障害を助長するので禁忌。
  8.腎不全の予防:輸液を行っても反応が悪いときは、マンニトール100m
   l+ラシックス2Aのカクテルを用いて60ml/hrの尿を確保。 
  9.肝不全の予防:肝庇護剤の投与、グルカゴンーインスリン療法、BCAA
   の投与などを行う。必要に応じ血漿交換を行う(肝不全の項参照)。

[参考]動脈血ガスの温度補正係数
------------------------------------------------------------ 
 温度(℃)   PCO2    PO2    pH  
------------------------------------------------------------ 
  43.3      1.32      1.43    -0.09
  42.2      1.25      1.35    -0.08
  41.1      1.19      1.26    -0.06
  40.0      1.14      1.19    -0.04
  37.0      1.00      1.00     0
  35.0      0.92      0.89    +0.03
  32.2      0.82      0.76    +0.07
  30.0      0.74      0.67    +0.10
  27.8      0.68      0.59    +0.14
  25.6      0.61      0.52    +0.17
  23.3      0.56      0.46    +0.20
  21.1      0.50      0.40    +0.23
------------------------------------------------------------ 
注)PO2とPCO2の補正は測定値に係数をかけ、pHの補正は係数を加算。


・参考文献
 1.田中秀治:日射病・熱射病 綜合臨床 Vol.37 救急辞典 1988 永井書店
 2.内科治療マニュアル 第4版 MEDSi 1987      

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