【心タンポナーデ】

A)定義:何らかの原因による心嚢液貯留により、心嚢腔内圧が著明に上昇した結
  果、特に右心系の拡張期充満が著明に制限された状態。
 
B)原因
 1)特発性
 2)感染性(ウイルス・結核・細菌・真菌)
 3)非感染性:膠原病、尿毒症、癌性心膜炎、外傷、解離性大動脈瘤、心筋梗塞、
   薬物アレルギー(プロカインアミド・ペニシリン・ヒドララジン・INH)、
   放射線治療、Dressler症候群、心外膜切開後心外膜炎など
    注)ウイルス性心外膜炎の原因としてはコクサッキーB、エコー、アデノ、
    ムンプス、EBウイルスなど

C)病態生理(かっこ内は代償機転)
  心嚢腔圧上昇→心室拡張期充満圧抑制(全身末梢血管緊張)→1回拍出量低下
  →心拍出量低下(心収縮力増強による駆出率増大と心拍数増加)→血圧低下→
   ショック

D)臨床症状および検査所見
 1)臨床症状:心嚢液貯留の速度(>貯留液量)により左右される。急速に貯留
   した場合は100〜200mlでも心タンポナーデになることもあるのに対
   し、ゆっくりと貯留した場合は数リットルでもあまり症状が出ないこともあ
   る。症状としては、胸部圧迫感、呼吸困難(特に吸気時)、不安感、起坐呼
   吸、ショック、意識障害など。
 2)理学的所見
   血圧低下、静脈圧上昇(頚静脈怒張・肝腫大など)以上 Beck の三徴。
   心音微弱、頻脈、脈圧減少、心膜摩擦音、奇脈、Kussmaul徴候など。
 3)検査所見
  1.胸部レ線:本症に特異的な所見はないが、心嚢液貯留のための心陰影の拡大、
   胸膜炎合併例では胸水の貯留などが認められる。
  2.心電図:低電位差、電気的交互脈など。急性心膜炎では広範囲の誘導で上に
   凹のST上昇を認める。
  3.心エコー:本症の診断に最も有力な検査。心嚢液貯留によるエコーフリース
   ペース(EFS)を認める。その他、心臓の振子様運動、右房・右室の拡張
   期狭小化など。 
  4.CT:心嚢液の貯留。CT値によりある程度浸出液の性状の判別が可能。漏
   出液ではCT値+10〜+20、浸出液では+20〜+30、血性の場合は
   さらに高くなり心筋とほぼ同レベルとなる。

E)治療:本症の治療の根本は心嚢液の排除である。
 1)内科的治療
  1.排液できるまでは、十分な左室充満圧を得るために、生食・プラスマネート
   カッター・デキストランなどの急速静脈内輸液、DOA・DOBなどにより
   心拍出量を維持することが必要な場合がある。
  2.イソプロテレノールには、心収縮力の増強と末梢血管抵抗減少作用があり、
   本症の病態下での使用に適している(→P233参照)。
  3.利尿剤、血管拡張剤、頻脈に対するβ遮断剤の使用は禁忌である。
 2)心膜穿刺
  1.急性の心タンポナーデで、心嚢液が少なく心嚢腔に十分なスペースがないと
   きには避けた方がよい。
  2.心嚢液が中等度(200〜300ml)以上の時にはよい適応となる。
   この際、心エコーが心嚢液の量の評価にきわめて有効であり、心臓前面にE
   FSが最低でも10mm以上あることを確認する。
  3.合併症としては冠状動静脈損傷、心筋損傷、肺損傷、血胸、気胸、心室細動
   などがあるが、その頻度は5%以下といわれている。しかし、合併症の発生
   は致死的であるので、その実施にあたっては細心の注意が必要である。
  4.穿刺にあたっては、心電図および血圧をモニターし、エコーガイド下に行う
   のが最も安全である。
 3)胸骨剣状突起下心膜切開
  1.直視下で剣状突起下縦切開アプローチによるドレナージ法である。
  2.心膜穿刺法にて十分な排液ができない場合、再貯留傾向を示す場合などで適
   応となる。
 4)緊急開胸手術
   心筋梗塞での心破裂、解離性大動脈瘤の心嚢腔への破裂、心外傷での心タン
   ポナーデなどはきわめて重篤であり、緊急開胸術以外に救命の手段はない。


・参考文献
 1.松崎益徳:心タンポナーデ Medicina Vol.26 No.7 1989 医学書院
 2.出川敏行:心膜炎・心タンポナーデ 診断と治療 Vol.77 No.10 1989
 3.東海林哲郎:心タンポナーデ 綜合臨床 Vol.37 増刊 1988 永井書店

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