3 第二種の伝染病
第二種の伝染病は、飛沫感染する伝染病で、児童生徒等の罹患が多く、学校において流行を広げる可能性が高いものが分類されている。
そのため旧第三類にあった結核は、今回の改正で第二種に種別された。従来の第二頻と比較した場合の変更点とその理由は、急性灰白髄炎(ポリオ)は感染症予防法で二類感染症に分頻されたため第一種へ移行し、ウイルス性肝炎は最近の考え方を踏まえて、今回の改正で削除された。
対象疾患:インフルエンザ、百日咳、麻疹、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、風疹、水痘(みずぼうそう)、咽頭結膜熱、結核
インフルエンザ
- 急激に発病し、流行は爆発的で短期間内に広範囲に蔓延し、高い罹患率を示す急性熱性疾患である。合併症としては、肺炎、中耳炎、脳炎、心筋炎、心嚢炎、副鼻腔炎、筋炎、ライ症候群、ギランバレー症候群などがみられる。
- 病原体:インフルエンザウイルス。A、B、C型がある。
- 潜伏期間:1〜2日
- 感染経路(発生時期):患者の鼻腔、咽頭、気道粘膜の分泌物からの飛沫感染による。毎年12月ころから翌年3月ころにかけて流行する。A型は大流行しやすいが、B型は局地的流行にとどまることが多い。流行の期間は比較的短く、地域的には発生から3週間以内にピークに達し、3〜4週間で終焉する。
- 症状:悪寒、頭痛を初発症状として発熱(39〜40℃)を伴う。頭痛とともに咳、鼻汁で始まる場合もある。全身症状としては、全身倦怠、頭痛、腰痛、筋肉痛などもある。呼吸器症状としては咽頭痛、鼻汁、鼻閉が著明である。消化器症状としては嘔吐、下痢、腹痛がみられる。
- 罹患年齢:全年齢層
- 治療方法:対症療法が主であるがアマンタジン等の抗ウイルス剤が使用されることもある。二次的な細菌感染による肺炎、気管支炎、中耳炎、などがあるときは抗生剤を使用する。
- 予防方法:インフルエンザHAワクチンの接種が有効である。また潜伏期間が短いので、流行時には臨侍休業も有効である。なお、インフルエンザの取扱いについては文部省発出の関連通知を参照のこと。
- 登校基準:解熱した後2日を経過するまで出席停止とする。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。
百日咳
- 吹笛様吸気で終わる特有な連続性・発作性の咳(レプリーゼ)が長期にわたって続く感染症である。幼若乳児では無呼吸発作となることもある。肺炎、中耳炎、脳症の合併症がみられる。
- 病原体:グラム陰性桿菌である百日咳菌
- 潜伏期間:6〜15日
- 感染経路(発生時期):飛沫感染である。1年を通じて存在するが春から夏にかけて多い。
- 症状:臨床経過により、カタル期、痙咳期、回復期の三期に分けられる。カタル期は1〜2週間で、定型的な気道のカタル性炎症を呈し、次第に咳は激しくなり、痙攣様咳嗽となる。痙咳期は1か月位続き吹笛様吸気を伴った連続性咳嗽を反復する。乳児では睡眠障害を示す咳嗽発作のみのこともある。顔面は浮腫状を呈する百日咳顔貌と結膜下出血を認める。胸部所見は咳がひどいわりに、、異常が少ないのが特徴である。回復期は2〜3週間だが数か月に及ぶこともある。幼児期後半以降の罹患では症状は軽くなる。
- 罹患年齢:乳児期から幼児期に多い。
- 治療方法:抗止剤を早期に用いれば有効である。他は対症療法であるが、場合により鎮痙剤を用いることもある。
- 予防方法:定期予防接種がある。乳児期での罹患は症状が重いので、乳児の早期からの予防接種が勧められている。
- 登校基準:特有な咳が消失するまで出席停止とする。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。
麻疹
- 発熱、上気道のカタル症状、特有な発疹を有する感染力の強い疾患である。肺炎、中耳炎、喉頭炎(クループ)、脳炎などを合併することもあり、まれに亜急性硬化性全脳炎(SSPE)を起こすこともある。
- 病原体:麻疹ウイルス
- 潜伏期間:10〜12日
- 感染経路(発生時期):飛沫感染である。感染力が最も強いのは、発疹前のカタル期である。春から夏にかけてが流行期であったが、最近は年間を通じて発生している。
- 症状:臨床経過により、カタル期、発疹期、回復期に分けられる。結膜炎症状、くしゃみ、鼻汁増加などのカタル症状と共に発熱をきたし、頬粘膜にコプリック斑が見られる。いったん解熱し、再発熱の時発疹が生じ発疹期になる。発疹は耳後部より顔面、躯幹、四肢へと広がり、小斑状丘疹性で一部は癒合しているが健康皮膚面を残す。消退後は褐色の色素沈着が残る。発熱は発疹出脱後3〜4日持続し、通常7〜9日の経過で回復するが、重症出血性麻疹、麻疹の内攻など異常な経過をとることもある。
- 罹患年齢:乳児期後半から幼児期に多い。最近では予防接種の普及により流行の規模が小さくなったため、免疫を持たない者も罹患の機会が減り、高校生以上になってから罹患することもまれではない。
- 治療方法:対症療法が中心で、細菌合併症があれば抗生剤を使用する。
- 予防方法:定期予防接種(生ワクチン)が極めて有効である。自然罹患がなく予防接種も受けていない者は年齢にかかわらず注意を要する。
- 登校基準:発疹に伴う発熱が解熱した後3日を経過するまで出席停止とする。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。(なお合併症の中で最も警戒すべき脳炎は、解熱した後再び高熱をもって発病することがある。)
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)
- 耳下腺の急性腫脹を主症状とする疾患である。合併症としては無歯性髄膜炎が多く、症状の軽いものを入れると2〜3%に達するという。また難聴の原因としても注意を要し、膵臓炎の合併もある。成人の罹患では精巣炎、卵巣炎などの合併が注意を要する。
- 病原体:ムンプスウイルス
- 潜伏期間:14〜24日
- 感染経路(発生時期):飛沫感染である。接触の度合いの大きい幼稚園、保育所、小学校での流行が多く、また、春から夏にかけて多い。
- 症状:全身感染症であるが耳下腺の腫脹が主症状で、時に顎下腺腫脹も伴う。耳下腺は瀰慢性に腫脹し、頭痛があり、一側または両側がおかされる。腫脹は2〜3日で頂点に達し、3〜7日間、長くても10日間で消退する。
- 罹患年齢:幼児期から小学校期に多い。
- 治療方法:対症療法が中心である。
- 予防方法:生ワクチンが実用化されているが任意接種である。副反応としての無菌性髄膜炎の合併が2000〜3000接種に1例程度見いだされる。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。
- 登校基準:耳下腺の腫脹がある間はウイルスの排泄が多いので、腫脹が消失するまで出席停止とする。
風疹
- 特有の発疹、発熱、リンパ節腫脹と圧痛を訴える疾患である。髄膜炎、脳炎、血小板減少性紫斑病などの合併症がみられる。妊娠早期に罹患すると出生児に先天性風疹症候群をみることがある。
- 病原体:風疹ウイルス
- 潜伏期間:14〜21日
- 感染経路(発生時期):飛沫感染である。春の流行が多いが、秋から冬にかけてみられることもある。
- 症状:発熱を伴った発疹で発病する。発疹は一般に軽度で全身に出現し、バラ紅色の斑状の丘疹で、3〜5日で消退する。消退後には落屑や色素沈肴を残さない。リンパ節腫脹は頸部、耳後部に著明で、圧痛を伴う。発熱は一般に軽度で、気付かれないこともある。
- 罹患年齢:5〜15歳に多いが、成人でも罹患する。
- 治療方法:対症療法が中心である。
- 予防方法:定期予防接種(生ワクチン)がある。
- 登校基準:紅斑性の発疹が消失するまで出席停止とする。なお、まれに色素沈着することがあるが出席停止と必要はない。
水痘(みずぼうそう)
- 紅斑、丘疹、水疱、膿疱、痂皮の順に進行する発疹が出現し、同時に各病期の発疹が混在する伝染性の強い熱性疾患である。肺炎、脳炎、肝炎、ライ症候群などを合併することもある。
- 病原体:水痘・帯状庖疹ウイルス。初感染で水痘の症状を示し、治癒後ウイルスは肋間神経などの神経節に潜伏し、免疫状態が低下したときに帯状疱疹として再発症する。
- 潜伏期間:11〜20日(14日程度が多い。)
- 感染経路:主として飛沫感染であるが、膿・水疱中にはウイルスがいるので接触感染もする。帯状疱疹からは飛沫感染しないが、直接接触感染はする。痂皮となれば感染源とはならない。
- 症状:発疹は躯幹、有髪頸部から顔面に好発する。発熱しない例もある。発疹は紅斑、水疱、膿疱、痂皮の順に変化する。かゆみや疼痛を訴えることもある。
- 罹患年齢:幼児期に多い。
- 治療方法:対症療法が中心であるが、抗ヘルペスウイルス剤(アシクロビル)が有効である。細菌による二次感染には抗生剤を使用する。
- 予防方法:任意接種の水痘生ワクチンがある。ワクチン接種をしても軽く罹患することが20%程度にある。
- 登校基準:すべての発疹が痂皮化するまで出席停止とする。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。
咽頭結膜熱
- 発熱、結膜炎、咽頭炎を主症状とする疾患である。プールを介して流行することが多いのでプール熱とも言われる。
- 病原体:アデノウイルス3型が主であるが、その他の型も病因となる。
- 潜伏期間:5〜6日
- 感染経路(発生時期):飛沫感染するが、プールでは目の結膜からの感染も考えられる。
- 症状:高熱(39〜40℃)、咽頭痛、頭痛、食欲不振を訴え、これらの症状が3〜7日間続く。咽頭発赤が強く、扁桃の周辺も発赤する。頸部、後頭部リンパ節の腫脹と圧痛を認めることもある。眼症状としては、結膜充血、眼痛、羞明、流涙、眼脂を、訴える。
- 罹患年齢:幼児期から小学生期に多い。
- 治療方法:対症療法が中心で眼科的治療も必要である。
- 予防方法:手洗い、うがい、水泳前後のシャワーの励行などの一般的な予防方法の励行が大切である。プールを一時的に閉鎖する必要のあることもある。
- 登校基準:主要症状が消退した後2日を経過するまで出席停止とする。ただし、病状により伝染のおそれがないと認められたときはこの限りではない。
結核
- 全身の感染症であるが、一般に肺に病変をおこすことが多い伝染性疾患である。.小児特に乳幼児では家族内感染が多い。大部分が初期感染結核である。
- 病原体:結核菌
- 潜伏期間:結核菌の感染を受けても臨床症状の出現は一様ではない。年齢、菌量、体質、感染頻度、その他の疾病との関係で発病時期は様々である。
- 感染経路:主として飛沫感染だが、状況によっては、経口、接触、先天性(経胎盤)感染も知られている。
- 症状
- 初期結核:結核菌が気道に入って、肺に原発巣を示せば初感染が成立する。所属リンパ節の変化を示した時、初期肺結核症といわれる。初期には無症状であるか、症状があっても不定である。発熱、咳嗽、易疲労、金欲不振、顔色が悪いなどの症状をみることがある。
- 粟粒結核:リンパ節の病変が進行して薗が血行性に散布されると感染は全身に及ぶが、肺では粟粒大の多数の小病変が生じる。発熱、咳嗽、呼吸困難、チアノーゼ等が認められる。乳幼児に多くみられる。
- 二次性肺結核:初感染原発巣から他の肺葉又は肺区域に広がり、病変巣を形成する。思春期以降の子どもや成人に多くみられ、易疲労、微熱、盗汗、咳嗽等の症状がある。
- 結核性髄膜炎:結核菌が血行性に髄膜に到達して発病する。症状として発熱、不機嫌、頭痛、嘔吐、意識障害、痙攣などがみられる。
- 罹患年齢:全年齢層
- 治療方法:抗結核の抗生剤、INAH等の化学療法剤を使用し、安静、栄養等の一般療法を行う。昭和61年2月厚生省告示第28号「結核医療の基準」などを参照のこと。
- 予防方法:予防接種としてBCGがある。感染が強く疑われれば発病予防のために化学療法剤の服薬を行う。学校保健法.結核予防法など関係法令を参照のこと。
- 登校基準:病状により伝染のおそれがないと認められるまで出席停止とする。