○その他の伝染病
第三種の伝染病に分類されている「その他の伝染病」は、前述の第二種並びに第三種の伝染病と同様に、学校で流行が起こった場合にその流行を防ぐため、必要があれば、校長が学校医の意見を聞き、第三種の伝染病としての措置を講じることができる疾患である。そのような疾患は多数あるが、ここでは子どもに多くみられる伝染病であって、学校でしばしば流行する伝染病を@条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病とA通常出席停止の措置は必要ないと考えられる伝染病に分けて例示する。
「その他の伝染病」について、出席停止の指示をするかどうかは、伝染病の種類や各地域、学校における伝染病の発生・流行の態様等を考慮の上判断する必要がある。そのため、次に示した伝染病はあくまで例示であって具体には病状などにより医師の指示に従うことが必要である。
なお、隣接する学校・地域によって取扱いが異なることによる混乱を防ぐため、都道府県、郡市区単位など教育委員会や医師会などが統一的な基準を定めている例もある。
溶連菌感染症、ウイルス性肝炎、手足口病、伝染性紅斑、ヘルパンギーナ、マイコプラズマ感染症、流行性嘔吐下痢症、アタマジラミ、水いぼ(伝染性軟疣(属)腫)、伝染性膿痂疹(とびひ)
@条件によっては出席停止の措置が必要と考えられる伝染病の例
溶連菌感染症
- 溶血性レンサ球菌が原因となる感染症の中でA群β溶血性連鎖球菌によるものをいう。扁桃炎など上気道感染症、皮膚感染症(伝染性膿痂疹の項を参照)、猩紅熱などが主な疾患である。特に注意すべき点は、本症が多彩な病像を呈すること、合併症としてリウマチ熱、腎炎を呈することがあることである。そのため、全身症状が強いときは安静を守らせ、経過を観察する必要がある。さらに最近、急速に進行する敗血性ショック、多臓器不全症状を呈する激症型A群β溶血性連鎖球菌感染症が注目されている。
- 病原体:A群β溶血L性レンサ球菌
- 潜伏期間:一般に2〜4日。猩紅熱は1〜7日。
- 感染経路:飛沫感染である。飲食物による経口感染の報告もある。
- 症状:上気道感染では発熱、咽頭の発赤.腫脹、疼痛、扁桃の腫脹、化膿など、咽頭炎、扁桃炎の症状が主である。猩紅熱は5〜10歳ころに多く、発熱、咽頭炎、扁桃炎とともに苺舌と菌が産出する外毒素による発疹を認める。全身に鮮紅色、小丘疹が認められる。消退後に落屑や表皮剥離がある。皮膚感染症は膿痂疹で水庖から始まり、膿庖、痂皮へと進む。
- 罹患年齢:子どもに多くみられるが、成人が感染する機会も多い。
- 治療方法:ペニシリン製剤が第一選択である。上気道炎、猩紅熱の場合、咽頭培養により溶連菌を確認したらペニシリン系の抗菌剤を菌が消失するまで投与する。
- 予防方法:特に有効な方法はない。手洗い、うがいなどの一般的な予防方法の励行のほか、必要があれば早期に細菌培養・同定を行い、ペニシリン製剤による予防的治療を行う。
- 登校基準:適切な抗生剤治療が行われていれば、ほとんどの場合24時間以内に他人への伝染を防げる程度に病原菌を抑制できるので、抗生剤治療開始後24時間を経て全身状態がよければ、登校は可能である。
ウイルス性肝炎
- ウイルス感染による肝炎をいうが、肝炎ウイルスにはA、B、C、D、Eの5型が判明しており、EBウイルスなどその他のウイルス感染によっても肝障害を起こすこともある。学校で配慮すべきなのはA型肝炎である。
- 病原体:肝炎はA、B、C、D、Eの肝炎ウイルスのほか.EBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルス、などによっても起こりうるが、学校で問題になるのは経口感染をする肝炎ウイルスのうち我が国に常在するウイルスのA型肝炎ウイルスである。
- 潜伏期間:A型肝炎では4〜7週間とされる。
- 感染経路:経口感染であり、牡蠣などによる発症例が知られている。
- 症状:小児のA型肝炎では、無症状に済むことも多い。発症すれば発熱、全身倦怠感、頭痛、食欲不振、下痢、嘔吐、上腹部痛があり、3、4日後に黄疽が出現する。解熱と共に症状は軽快するが黄疸は1〜3週間持続する。
- 罹患年齢:全年齢層
- 治療方法:安静、食事療法と肝庇護療法などの対症療法である。
- 予防方法:A型肝炎ワクチンがある。(海外の流行地への渡航者の利用が主である。)手洗い等の一般的な予防方法の励行が大切である。
- 登校基準:A型肝炎については、発病初期を過ぎれば感染力は急速に消失するので、肝機能が正常になった者については登校が可能である。肝機能異常が遷延する者については患者本人の治療のために医師の判断が必要である。B型、C型肝炎は無症状病原体保有者が発見されることはあるが、血液そのものを介さない限り水平感染は考えられないので、伝染病を予防するために、出席停止をする必要はない。
手足口病
- 口腔粘膜及び四肢末端に水疱を生じる発疹性疾患である。我が国でも昭和40年代前半から流行に気付かれ始めた小児の感染症である。
- 病原体:主としてコクサッキーウイルスA16型とエンテロウイルス71型である。
- 潜伏期間:2〜7日
- 感染経路(発生時期):主として飛沫感染である。ウイルスは糞便中に排泄されるので経口感染も起こり得る。春から夏にかけて多く、流行のピークは毎年7月ころである。
- 症状:発熱、口腔・咽頭粘膜に痛みを伴う水疱、流涎と手、足末端や臀部の発疹、水疱がみられる。手足の水疱は比較的深いところに生じるので、水痘と異なり表皮が破れたり痂皮になったりすることなく消退する。発熱は38℃以下が多い。ふつう1〜3日で解熱する。一般的には夏かぜの一つと言える軽症疾患である。時に無菌性髄膜炎を認めることがある。なお、最近、脳症を伴う重症例が報告されている。
- 罹患年齢:乳幼児に多い。原因となる病原ウイルスが複数あるため、再発することもある。
- 治療方法:対症療法である。
- 予防方法:一般的な予防の心がけしかない。
- 登校基準:急性期から回復後も糞便から2〜4週間にわたってウイルスが排泄されることがあるが、集団内での他人への主たる感染経路は、咽頭でのウイルスの増殖期間中の飛沫感染であり、発熱や咽頭・口腔の水疱・潰瘍を伴う急性期は感染源となる。糞便のみからウイルスが排泄されている程度の場合は、感染力は強くないと判断されるので、全身症状の安定した者については、一般的な予防方法の励行などを行えば登校は可能である。
伝染性紅斑
- かぜ様症状を認めた後に顔面、頬部に少しもり上がった紅斑がみられる疾患である。その状態からリンゴ病とも呼ばれている。
- 病原体:ヒトパルボウイルス(HPV)B19
- 潜伏期間:感染後17〜18日で特有の発疹を認める。ウイルスの排泄期間は発疹の出現する1〜2週間前の数日間といわれる。
- 感染経路:主として飛沫感染である。ウイルス血症の期間の輸血による感染の報告もある。
- 症状:かぜ様症状と引き続きみられる顔面の特徴的な紅斑である。発疹は顔面頬部のびまん性紅斑と四肢伸側にレース状、網目状紅斑が出現する。一旦消失して再び発疹が2〜3週間後に出現することもある。掻痒感を訴えることもある。合併症として溶血性貧血、血小板減少性紫斑病や関節炎を起こすことがある。また妊婦の罹患により胎児死亡(胎児水腫)が起こることがあるので注意を要する。
- 罹患年齢:子どもに多い。小学校で流行することが多い。
- 治療方法:対症療法である。通常は治療を必要としない。
- 予防方法:感染力は弱く、発疹期にはウイルス排泄はないと考えられるので、飛沫感染症としての一般的な予防方法が大切である。
- 登校基準:発疹期には感染力はほとんど消失していると考えられるので、発疹のみで全身状態のよい者は登校可能と考えられる。ただし急性期には症状の変化に注意しておく必要がある。
ヘルパンギーナ
- 主として咽頭、口峡部に丘疹、水疱、潰瘍を形成するもので、乳幼児に多く見られる夏かぜの代表的な疾患である。
- 病原体:主としてコクサッキーA群ウイルスであり、他のエンテロウイルスによっても起こる。
- 潜伏期間:2〜7日
- 感染経路:飛沫感染が主であるが、糞便中にもウイルスが排泄されるので経口感染も起こり得る。糞便中へのウイルス排泄は発症後1週間以上認められるが、感染源となる程度の量の咽頭からのウイルス排泄は発症後2〜3日とされている。
- 症状:突然の発熱(39℃以上)、咽頭痛、嚥下痛を訴える。咽頭をみると口蓋帆と咽頭の境を中心に紅斑点の小丘疹がみられ、次に水疱となり、まもなく潰瘍となる。口蓋咽頭部に限局する特徴的な口内疹で、口腔内前方又は歯齦部には見当らない。
- 罹患年齢:4才以下の乳幼児に多い。原因となる病原ウイルスが複数あるため、再発することもある。
- 治療方法:対症療法である。口内疹の痛みには鎮痛剤を加えた外用薬を使用する。
- 予防方法:一般的な予防方法の励行が大切である。
- 登校基準:手足口病に準じる。
マイコプラズマ感染症
- 咳を主徴とし、X線上特異な所見を示す異型肺炎であって、マイコプラズマが病因である疾患である。まれに肝炎や神経系、血液系、心血管系などの疾患、皮膚の発疹を合併することがある。
- 病原体:マイコプラズマ科に属する細菌で、細菌の中では最も小さい。細胞壁を欠いており、通常使用される細胞壁合成阻害作用の抗菌剤は無効である。
- 潜伏期間:2〜3週間
- 感染経路(発生時期):飛沫感染である。感染力は弱いが、家族内感染、再感染が多い。およそ4年ごとに流行する。ふつう夏から秋にかけて多い。病原体の排泄期間は4〜8週間とされる。
- 症状:ゆっくりと始まるかぜ様症状で、咳嗽がひどいのが特徴的である。頑固な咳が続くときは本症を疑う。血清抗体の上昇は1週間以上を要するので、血清による早期診断は困難である。胸部X線所見上スリガラス状の淡い間質性陰影を呈する。
- 罹患年齢:通常5歳以後で、10〜15歳の子どもに多い。成人でも罹患するが、若い人に多い。
- 治療方法:抗生剤として、マクロライド系(エリスロマイシンなど)とテトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)が有効である。
- 予防方法:飛沫感染としての一般的な予防方法の励行しかない。
- 登校基準:感染力の強い急性期が終わった後、症状が改善し、全身状態のよい者は登校可能である。
流行性嘔吐下痢症
- 嘔吐と下痢が突然始まることが特徴の疾患である。ウイルスによる腸管感染症がほとんどである。
- 病原体:主としてロタウイルス、小型球型ウイルス(SRSV他)である。時に腸管アデノウイルスである。(ロタウイルス、アデノウイルスは迅速診断法のキットも実用化されている。)
- 潜伏期間:1〜3日
- 感染経路(発生時期):主として経口感染であるが、飛沫感染も重要と考えられる。貝などの食品を介しての感染例も知られている。糞便へのウイルス排泄期間は症状がある期間と考えてよい。ロタウイルス、SRSVは冬季に多く、アデノウイルスは年間を通じて発生する。
- 症状:嘔吐と下痢が主徴であり、時に下痢便が牛乳のように白くなることもある。2〜7日で収まるが、脱水症状に注意を要する。
- 罹患年齢:ロタウイルスやアデノウイルスによるものは乳幼児が多く、SRSVは幼児と小学生に多く見られる。
- 治療方法:対症療法である。とくに脱水症に対応することが重要である。
- 予防方法:特に有効な方法は知られていない。一般的な予防方法を励行する。
- 登校基準:ウイルス性腸管感染症は、症状のある間が主なウイルスの排泄期間であるため、下痢・嘔吐症状から回復した後、全身状態のよい者は登校可能である。
A通常出席停止の措置は必要ないと考えられる伝染病の例
アタマジラミ
- 児童に多く、丘疹、紅斑を生じ、掻痒感の強い皮膚炎を起こす疾患である。
- 病原体:アタマジラミ(毛ジラミ(陰毛に寄生する性感染症)とコロモジラミ(衣類に付着しかつて発疹チフス病原体を媒介するとして注目された)とは異なる。)
- 潜伏期間:気付かれるまでに1か月程度である。
- 感染経路:接触感染である。家族内や集団の場、タオルの共用でうつることが多い。くしやブラシでも伝染する。
- 症状:痒みを訴えるが、少数のときは訴えないことがある。
- 罹患年齢:全年齢層
- 治療方法:少数の場合は卵を探して取り除く。シラミ駆除剤が有効である。必要ならば虫卵のついた毛髪を切りとる。殺虫剤としてはピレスロイド系フェノトリン粉末及びシャンプーが使われる。早期発見と早期治療が重要である。
- 予防方法及び学校における対応:タオル、くしやブラシの共用を避ける。着衣、シーツ、枕カバー、帽子などを洗う、か熱処理(熱湯、アイロン、ドライクリーニング)も効果がある。頭髪を丁寧に観察し、早期に虫卵を発見することが大切である。発見したら一斉に駆除することが効果的である。
水いぼ(伝染性軟疣(属)腫)
- 特に幼児期(3歳がピーク)に好発する皮膚疾患である。体幹、四肢に半球状に隆起し、中心臍を有する、光沢を帯びた粟粒大〜米粒大(2〜5mm)のいぼである。
- 病原体:伝染性軟疣腫ウイルス(表皮感染による。)
- 症状:いぼがある以外の症状はほとんどない。発生部位は体幹、四肢ことに腋、胸部、上腕内側などの間擦部位に多い。内容は増殖したウイルスを含む軟属腫小体で感染源となる。自家接種で拡大することが多い。数年かかることがあるが、免疫抗体の産生によって自然に治癒する。
- 感染経路:接触による直接感染のほか、タオルやビート板による間接感染もあり得る。
- 罹患年齢:幼児期に多い。
- 治療方法:特殊ピンセットで摘み取る、あるいは液体窒素で処理するなどの直接的治療がある。
- 予防方法及び学校における対応:多数の発疹のある者については、水泳プールでビート板や浮き輪の共用をしない。
伝染性膿痂疹(とびひ)
- 紅斑、水疱、びらん及び厚い痂皮を形成する炎症症状が強い皮膚疾患である。水疱性と痂皮性に分けられる。
- 病原体:主として黄色ブドウ球菌ファージV群コアグラーゼV型と溶血性レンサ球菌。
- 症状:掻痒を伴うこともある。ブドウ菌によるものは水疱性が多く、溶血性レンサ球菌は痂皮性となることが多い。始めは水疱や膿疱がやぶれてびらん、痂皮を形成する。病巣は急速に拡大する。発赤、腫脹、疼痛などの炎症所見は少ないが、一時的に炎症所見が強いときもある。
- 潜伏期間:2〜10日(感染菌量や傷の状況によって変わる)
- 感染経路(発生時期):接触感染である。痂皮にも感染性が残っている。夏期に多い。
- 罹患年齢:乳幼児に多い。
- 治療方法:皮膚の清潔である。グラム陽性菌に対して抗菌剤(ペニシリン、セフェム系)を使用する。痂皮が完全に消失するまで治療する。全身療法(内服薬)を併用するのが一般的である。なお接触を恐れて患部を被覆することは必要に見えるが、治療を阻害することもある。
- 予防方法及び学校における対応:皮膚の清潔を保つことが大切である。集団の場では病巣を有効な方法で覆う、プールや入浴は罹患者と共にしないなどの注意も必要となる。炎症症状の強いもの、広範なものについては、直接接触を避けるよう指導が必要である。