土川内科小児科ニュース 7月号 No.18 (もどる)
今月のテーマ:薬について
●今年ももうすぐ夏がやってきますが、今年の夏はどんな夏になるのでしょうか。世の中には不景気と医療保険改革の嵐が吹き荒れていますが、医療保険改革の中で、特に問題となっている事の1つである「薬」を今回は取り上げて見ました。
●薬剤負担:昨年9月から薬の数によって患者さんに薬剤費をご負担いただく制度が実施されました。以前にもお話しましたが(平成9年10月第9号)、この制度は薬剤の数により、患者さんの負担金を変えるという極めて変な制度で(表1参照)、患者さんに一番良いと思われる処方をしようとすると、患者さんの負担が増えてしまいます。たとえば、基本的に私は急性咽頭炎や気管支炎などの時に使う熱さましは別に分けて処方しますが、一緒の処方より負担が増える結果となります。急性胃腸炎の時の痛み止めも同じことになります。より親切な質の高いきめ細かな医療をしにくくする制度です。薬剤の使いすぎを是正するための施策だと思いますが、であれば、数で規定するのではなく薬剤費の○%との負担とするべきです。いずれにしろ医療行政の失敗を患者さんの負担という形で、取り戻そうとする残念な制度だと思います。このシステムには、さらに散剤は1剤と数えるという変なところがあります。同じ薬でも錠剤で使うのと散剤で使うので、違いが出るのです。例えばA・B・C
と三種類の薬があった場合、粒で出せば3種類と数えられますが、粉で混ぜて出せば1種類。細かいところは省略しますが、早く改正してほしい制度だと思います。
●院外処方:最近、病院外の薬局に処方せんを持っていき、薬を受け取る「医薬分業」が徐々に広がりを見せています。この院外処方は、賛否両論が出ていますが、いろいろな問題を含んでいます。
まず、診察後わざわざ薬局に薬をもらいにいかなければなりません。いわゆる2度手間です。現在行われている医薬分業では門前薬局といって病院のすぐ近く(極端な場合は隣・脇)に薬局がありますが、それでも雨の日などは大変です。さらに患者さんの費用負担も増えます。表2をご覧下さい。風邪をひいて2種類のお薬をもらった場合の比較ですが、院内処方と院外処方で、1600円もの違いが出ます。これに対して、院外処方では薬局で患者さん毎に薬歴簿を作り、2つ以上の医療機関に通院している場合に生じる可能性のある薬の飲み合わせや重複投与のチェック、薬の飲み方や副作用に関する指導、さらに医師のミス処方のチェックなどがはかれると主張されています。しかし、現在の制度では、医療機関から調剤薬局への病名の連絡や医師の処方内容に関する考え方、服薬指導の際の注意事項などを伝えることにはなっておらず、服薬指導がかえってマイナスの面となって現れるケースが「まれ」とは言えない状況と私は思います。調剤薬局の数もまだまだ少なく、当院から一番近くの調剤薬局でも2km以上離れています。さらに医療機関と調剤薬局間の信頼
関係もまだまだ十分とは言えません。同じ薬剤師と言っても、臨床経験の豊富な方から学校を卒業したてで、まだまだ経験不足な薬剤師さんまで、さまざまです。患者さんは信頼できるかかりつけ医をもつ他に、かかりつけ薬局を探さなければいけないのです。薬局側の問題としては、何軒もの医療機関からの患者さんに対応するためには、用意しなければいけない薬の種類も半端ではありません。私の場合は、小児に投与する薬の味を1つ1つ吟味し、一番おいしいメーカーのものを使うというような工夫をしていますので、その調剤薬局にその製品がないから、同一成分の別のメーカーのものに変えても良いか聞かれても、気軽に「うん」といえないところがあります。
よく薬漬け医療という言葉がマスコミを中心に使われていますが、現在医療機関が一種類の薬剤から得られる利益(薬価差益といいます)は約5%です。少なくとも私はこれまで、この薬価差益を考えて、処方内容を変更したり、収入を上げるために多くの薬剤を使おうなどと考えた事は一度もありません。国は院外処方の比率を増やしたい意向ですので、医療機関では、院内処方をするよりも院外処方をする方が、収入が増えるように保険点数が設定されています。院外処方にすれば、薬の管理から解放されますし、不良在庫などの不利益もなくなります。それでも、私が院外処方に踏み切れないのは、今回ここにはあげた理由のほかにも、書ききれなかった位たくさんの解決されなければいけない問題があるのです。少なくとも私の住んでおります地域では、院外処方は時期尚早と言わざるを得ません。
●表1:薬剤費負担 |
内服薬 |
1種類
|
0円/日
|
|
2〜3種類
|
30円/日
|
|
4〜5種類
|
60円/日
|
|
6種類以上
|
100円/日
|
外用薬 |
投薬毎に1種類 |
50円
|
頓服薬 |
投薬毎に1種類 |
10円
|
●表2:院内投薬と院外処方の費用の比較 |
風邪で抗生物質(1回3カプセル、1日3回、5日分)、鎮痛解熱剤(1回1嬢10回分)を処方された場合 |
○ |
院内処方 |
院外処方 |
備考 |
処方箋料 |
○ |
810円
|
院外処方をしたときの医療機関の収入となります。 |
処方料 |
370円
|
○ |
○ |
調剤基本料 |
○ |
490円
|
調剤薬局さんの収入 |
調剤技術基本料 |
80円
|
○ |
○ |
調剤料 |
70円
|
500円
|
院内処方と院外処方でこんなにも違います。もちろん
500円の方は調剤薬局さんの収入になります。 |
薬剤服用歴管理指導料 |
○ |
320円
|
調剤薬局さんのみに認められているもの |
薬剤情報提供加算 |
○ |
70円
|
名前は違うが院内処方の薬剤情報提供料と同じもの |
薬剤情報提供料 |
70円
|
○ |
名前は違うが院内処方の薬剤情報提供加算と同じもの |
薬剤料 |
300円
|
300円
|
これはどちらも共通のものです。 |
合計 |
890円
|
2490円
|
結局、調剤薬局さんは1680円の収入となりますが、薬剤料
は薬価差のみの収入になりますので、1410円が実収入。 |
※上の表から、院内処方をした場合、薬剤料300円がまるまる収入となるわけではありません。300円のうち約10%が薬価差ですが、消費税が5%あります(医療機関は患者さんからは消費税をいただかない事になっているのですが、薬の問屋さんには消費税を払います)ので、実質の薬価差は5%となります。ですから、実際の収入は、370+80+70+70+(300×5%)=470円となります。一方院外処方をした場合は、医療機関の収入は810円で、薬の管理や不良在庫などの問題はなくなりますので、どの医療機関も院外処方を選びたくなるわけです。
※院外処方の場合、この処方例では、患者さんは、1600円余計にかかる計算になります。この1600円増に関しては、院外処方の場合、薬の飲みあわせや飲み方の指導など、薬剤師さんでないとできない技術料の分と説明されています。 本文へもどる
●コラム
手足口病(手足口病がちょっと今話題になっていますので、とりあげてみます)
●手足口病とは:手のひら、足の裏、口の中に小さな水ぶくれできる病気です。水ぶくれはおしりやひざにできることもあります。 |
●病因:コクサッキーA16型、A10型、エンテロウイルス71型など何種類かのウイルスが原因として知られています。 |
●疫学:春から秋にかけてみられ、6〜7月がピークです。6歳以下の小児に多く、3/4は3歳以下です。潜伏期は通常3〜5日。伝染期間は急性期から数週間で、便・気道分泌物による伝染します。隔離は不要(伝染期間が長く、軽い病気なので隔離する意義が低いため)です。 |
●症状:口、手、足、膝、お尻などに水ぶくれができます(口の中をのぞき、痛くもかゆくもないことがふつうです)。熱は
ないか、あっても微熱程度。口の中の水泡が痛くて食べられないことがあります。 |
●治療:治療しなくてもほとんどの場合自然に治りますが、熱があるときや、口の中を痛がるときはお薬をもらってくだ
さい。全治まで約10日前後です。 |
※ところで、マレーシアや台湾でこのエンテロウイルス71型(手足口病を起こすタイプ)で多数の死亡例が見られています。最新の情報では台湾での死亡例は6月24日で、51となっています。どうも同じエンテロウイルス71でも、全く経過が別ですので、ウイルスの構造に違いがあるのかも知れません。日本でも大阪で3例の急激な経過をとったケースの報告がありますが、今年はまだそのような報告は無いようです。手足口病は基本的に軽い病気と考えられていますが、このような事も無いわけではありませんので、ご注意下さい。 |
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