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感染経路について: 予防法を考えるにあたり、基本的な知識として風邪やインフルエンザがどのようにして感染するのかを知っておく必要があります。感染経路により、その予防法 や対策が変わってくるからです。気道感染を起こすウイルスの感染経路には、飛沫感染、飛沫核感染(空気感染)、接触感染(直接,間接)の3つのパターンが あります。
・飛沫感染:咳やくしゃみをした際に、飛び散る水分を含んだ微粒子(直径5ミクロン以上)を飛沫といい、これによる感染を飛沫感染と言います。飛沫感染は粒子が大きく、すぐに落下する事から、近距離でくしゃみや咳を直接あびた時に問題となります。
・飛沫核感染(=空気感染): 飛び散った微細粒子が空中でそのまま乾燥したり、いったん付近のものに付着した後、乾燥して水分を含まない微粒子(直径5ミクロン以下)になったものを飛 沫核と言い、それが感染経路となるのが飛沫核感染です。2ミクロン以下の飛沫核は長時間空中をただよう事ができるため、同じ部屋に一緒にいるだけでも感染 します。インフルエンザでは、飛沫感染のほかにこの飛沫核感染も主要な感染ルートとです。
・接触感染:ウイルスが付着したドアノブや手すり、電車のつり革などに触れた手で鼻を触ったり、握手やキスなどで直接触れる事によって感染するのが接触感染です。普通感冒の原因として知られるライノウイルスでは、飛沫感染よりもこの接触感染の方が多いと考えられています。.
このように普通感冒とインフルエンザでは、感染経路に違いがあるため、両者は分けて考える必要があります。以下、一般的に有効と思われているかぜの予防法について、この感染経路を踏まえて、検証してみたいと思います。
うがいの風邪予防効果を無作為化試験で実証: 京都大学保健管理センターの川村先生が2003年に行った調査で非常に興味深い事が判明しました。全国、18地域で、うがいの風邪予防効果を調べたとこ ろ、うがいをしなかった群が1ヶ月で100人あたり26.4名が風邪をひいたのに対して、水うがい群では17人、ヨードうがい群では23.6人でした。こ の結果を統計学的手法で解析すると、水でうがいをした場合、うがいをしない場合に比べて40%も風邪の発症が抑制されたのに対して、これまで効果があると 思われていたヨードうがい群では、意味のある抑制効果は認められなかった ⇒ 水うがいで風邪発症が4割減少(2005.12.6)
私 の考え:ヨードはウイルスを20秒以内に不活化しますが、のどの粘膜細胞や正常の細菌叢にも影響を与えてしまう事が、風邪の予防効果にマイナスの影響を与 えたのかもしれません。最近、傷の治療にも、消毒剤は使わない方が良いと言われている事と併せ、興味深い知見です。なお、この検証は通常の風邪をターゲッ トとしたもので、インフルエンザに的を絞ったものではない事には留意する必要があります。
うがいのインフルエンザ予防効果: インフルエンザのウイルスは気道の粘膜に取りつくと数分〜20分で細胞の中に取り込まれてしまいます。また、インフルエンザのウイルスは、のどの粘膜より も鼻の粘膜から高頻度に検出されます。うがい自体には効果があったとしても、20分おきにうがいをすることは現実的とは言えず、また、鼻粘膜はうがいで洗 うことができませんので、残念ながらインフルエンザに対するうがいの効果は限られていると言わざるをえません。
紅茶エキスによるうがいのインフルエンザに対する効果: 冬季5ヶ月間、0.5%紅茶エキス(市販の缶入り紅茶の濃度は0.5%)による1日2回のうがいを行い、試験前後での血中インフルエンザ抗体価の測定を 行った実験があります。抗体上昇率は、対照群の48.8%に対して、うがい群で35.1%と低く、この論文の著者らは紅茶エキスによるうがいは有効でであ ると結論づけています。ただし、この報告ではうがい群と対照群の年齢やインフルエンザワクチン接種率などを同じくしていないために、この論文のを根拠にし て、紅茶によるうがいが有効と断定するのは難しい様です。なお、紅茶に含まれるカテキンは、ウイルス粒子のHAと呼ばれる突起に結合してウイルスが細胞へ の吸着するのを阻止すると言われています。
マスク: 咳1回で約10万個、くしゃみ1回で約200万個のウィルスを含んだ飛沫物が、くしゃみでは約3m、咳では約2m先まで放出されます。通常のマスクは、ウ イルスを含む飛沫物を完全にブロックする事はできません(下表参照)が、咳やくしゃみでばらまかれる範囲を狭くしたり、ある程度捕捉する効果はあり、ウイ ルスの侵入を約3割減らすと言われています。また、ウイルスが付着した手で口や鼻を触る機会を減らしたり、吸気に湿気を与え、吸気の温度を上昇させる効果 などもあります。したがって、不織布製のマスク(ガーゼマスクはダメ)であれば、そこそこの効果は期待できると思われます。医療用のN95マスク(つける と少し息苦しい感じがします)であれば、飛沫核物質もブロックできますが、きちんとフィットさせて長時間使用する事は密閉感や不快感が強いため、日常生活 で使う事は難しいと思います。なお、飛沫核物質は顔や髪や手などにも付着しますので、マスクの扱いや外した後の対応にも配慮が必要です。

マスクの種類 捕捉粒子の大きさ 捕捉可能粒子 効   果
ガーゼマスク、紙マスク なし? 保温・保湿以上の効果は期待できない。
不織布製マスク 5ミクロン以上 飛沫物 飛沫感染をある程度防げる
N95(医療用)マスク 0.3ミクロン以上 飛沫核物 飛沫核感染にも効果が期待できる
ナノマスク 0.03ミクロン以上 ウイルス インフルエンザウイルス(0.08〜0.12ミクロン)も通さない
マスクでインフルエンザの発症率が5分の1に  東京のある小学校の全校児童308人を対象に、2007年2月5日〜3月2日に、登下校と清掃時のマスク装用の有無によるインフルエンザの発症率を比較し たところ、期間中マスクを装着した児童では、151人中3人がインフルエンザに罹患(発症率2%)したのに対し、マスクをつけなかった児童では、103人 中10人がインフルエンザに罹患(発症率は9.7%)した。期間中の同地区の小学校におけるインフルエンザ発症率は8.2%だった事からもマスクの装用が インフルエンザの発症予防に効果があることが示された初めてのデーターとして注目される⇒ユニチャームのニュースリリース
加湿: 風邪のウイルスの中でも、冬に流行するインフルエンザウイルスなどは湿度に極めて弱い性質がありますので、部屋の湿度を上げることは、インフルエンザの予 防に非常に効果的です。冬は湿度が下がっている上に、クリーンヒーターなどの普及、住宅事情の変化により冬の一般家庭の部屋の湿度は非常に低くなっており ますので、加湿器や洗濯物を室内に干すなどで、お部屋の湿度を上げる努力をする事をお勧めします。一方夏に流行するウイルスは、高湿度が大好きですのでご 注意下さい。ちなみに、普通感冒の代表的な原因であるライノウイルスは50%以上の湿度で良く生存するそうです。
参 考1:ある実験によると、閉め切った大きな箱の中を湿度20%、温度20度に設定してインフルエンザウイルスを吹き込み、6時間後に調べると70%近くの ウイルスが生きていますが、温度は変えず、湿度を50%以上に上げると3%のウイルスしか生きていませんでした。次に湿度は20%にして温度を32度にす ると17%に減っていました
手洗い: 普通感冒の代表的な原因であるライノウイルスは、付着した器具の上で数時間〜数日生存可能で、接触感染が主たる感染経路である事がわかっていますので、特 に効果が期待できます。インフルエンザウイルスも飛沫や飛沫核の形で、手や顔、衣類等にも付着しますし、カラオケボックスのマイクや電車の吊革、手すりな どには非常に多数のウイルスが付着しています。それらに触った手で目をこすったり、鼻をいじったりすることも感染経路の1つですので、帰宅後に石鹸で手や 顔を洗うことは、一般に考えられているよりも効果的です。
保温:寒いところでは、鼻・のど・気管などの血管が収縮して線毛の動きが鈍くなります。線毛はウイルスや細菌の侵入をできるだけ少なくする働きをしますので、線毛の働きが悪くなるとウ イルスが侵入しやすくなります。したがって、保温は風邪の予防に十分価値があると言えます。但し暖めすぎは逆効果ですので、ご注意下さい。
ビタミンCの効果: ビタミンCの風邪に対する予防あるいは治療効果は、多くの報告がありますが、これらの報告を総合すると、冬の数ヶ月間に毎日1g以上摂取しても、普通感冒 の罹患回数は減らなかった。ただし、感冒による有症状日数を若干短くする効果は認められた(1回の風邪で0.44日短縮)となる様です。
人混みを避ける: 人が多く集まる所では、中には風邪をひいている方もいるわけですので、風邪のウイルスに接触する機会が多くなります。ですから、できるだけ感染の機会を減 らすために、人混みを避け、またそのような場所から帰ったら、上述のように手洗い、うがいなどを励行する事は、風邪の予防に効果的です。
その他: 風邪の治療の基本は、安静・保温・栄養&水分の補給の3つと言われます。無理をしないで、十分な睡眠をとり、栄養のバランスを考慮した食事などは、基本的 な対策として必要な事は言うまでもありません。強いストレスは、リンパ球を抑制して、免疫を低下させるので、ストレス発散を上手にする事もお忘れなく。
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