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インフルエンザの治療にちょっとした変化が現れています。インフルエンザウイルス迅速診断キットとインフルエンザに有効な抗ウイルス薬が臨床の現場で使うことができるようになったためです。インフルエンザ診療の大まかな流れを説明してみます。
2007年以降の治療
  • インフルエンザを疑わせる症状があった場合、発熱に気づいてから6時間〜18時間以上経過している頃に、迅速診断キットによる診断を試みます。年々、迅速診断キットの感度・特異度ともに改善していますが、発症早期には偽陰性(本当はインフルエンザなのに検査で陽性とならない)になりやすいので、検査を希望しても時間が経過するまで待っていただく事もあります。
  • インフルエンザと診断された場合、以前はA型インフルエンザであれば、塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)の使用も選択肢に入っておりましたが、年々、耐性化(薬が効かなくなる)率が高くなり、最近ではほとんど効かないと言われております(実際に使ってみては有効であるとの印象を持っておりましたが)ので、ほとんど使わなくなりました。
  • また、2007.3月以降は、タミフル服用後の異常行動が社会問題(因果関係については現在調査が行われています)となり、10代ではタミフルの使用が原則禁止となりましたので、1歳以降の乳幼児と成人で、発症後48時間以内で、患者さんがタミフルの使用を希望した場合には、タミフルを使用します。
  • 抗インフルエンザ薬が使用できない場合や希望しない場合には、麻黄湯の使用をお勧めしています。麻黄湯の使用も希望されない場合には、安静や対症療法薬(鼻汁や咳の薬、鎮痛解熱剤)のみで経過をみる事もあります。
  • 通常、インフルエンザの予後は良好で、通常4〜5日で発熱が見られなくなり、鼻汁や咳などの症状も自然と軽快していきます。細菌感染の合併を示唆する症状や検査結果(白血球数高値など)がない場合には、抗生剤は使用しません。
私が現在実践していた診断及び治療の流れ(2006年冬まで)=古い治療方針
  • 突然の高熱、全身倦怠感、全身の筋肉痛・関節痛などインフルエンザを疑う症状で患者さんが来院し、診察の結果インフルエンザの可能性が濃厚な場合、鼻腔又は咽頭の粘液を材料としてインフルエンザウイルス迅速診断キットによる診断を試みます(多くの診断キットはA型とB型を区別して診断できます)。
  • もし、迅速診断の結果、A型インフルエンザと診断された場合、塩酸アマンタジン(商品名:シンメトレル)を投与します。B型インフルエンザの場合には、オセルタミビル(商品名:タミフル)を使用します。
  • A型インフルエンザの診断が確実な場合(検査で陽性)には、塩酸アマンタジンの効果は抜群で多くの場合、高熱や主要症状が急速に軽快します。
  • A型インフルエンザの場合には、オセルタミビルを選択する事もあります。塩酸アマンタジンに比べて遙かに高価なのですが、@耐性ができにくい、A副作用が少ないなどのメリットがありますので、患者さんの年齢や症状に応じて使い分けます。
  • 注意点
    • 塩酸アマンタジン、オセルタミビル共に、発症後48時間経ってしまうと効果が期待できませんので、症状が出たら早めに受診する事が大切です。
    • 安易な投与で、抗生物質の乱用で抗生物質の効かない細菌が生まれたような過去の歴史を繰り返さないようにしなければなりません。また、抗ウイルス薬の投与が全てのインフルエンザウイルス感染症の治療に必須ではないことを踏まえ、本剤の使用の必要性を慎重に検討することが大切です。
    • 迅速キットによる診断は、発熱が出現したばかりの時点では偽陰性(本当はインフルエンザなのに陰性となってしまう)になることが多い様です。そのため、発熱が出現してから半日〜1日の時点でのチェックをお勧めしています。
A型にもB型インフルエンザにも有効で、耐性ができにくいノイラミニダーゼ阻害剤が平成12年、2月から使えるようになり、インフルエンザの治療も2001年の到来と共に新しい時代に突入した様です。
インフルエンザウイルス迅速診断キットについて:現在、10〜15分でA型インフルエンザ、B型インフルエンザが簡単に診断する事ができる迅速診断キットが各社から発売されています。平成13年の冬にはキットの生産が間に合わず、なかなか手に入らないなどの問題もあった様ですが、平成14年の冬には新たに数種類が新発売されて、供給体制も万全との事です。
塩酸アマンタジン(シンメトレル)について:この薬剤は次のような特徴を持っています。
  1. ウイルスリボ核蛋白の宿主核内への侵入を阻止する事で、選択的にA型インフルエンザの増殖を抑制する。
  2. B型インフルエンザには効かない
  3. アマンタジン耐性のA型インフルエンザが高頻度に出現する
  4. 中枢神経系の副作用(めまい、ふらつき、睡眠障害、幻覚など)が見られることがある。